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「動画配信、5年後に制限も」 もう1つの電力問題

日経ビジネス電子版

夏の電力不足への懸念が広がる中、もう1つの電力問題が静かに進んでいる。ICT(情報通信技術)はデータセンターやネットワーク関連の消費電力が急増しており、今後も大幅な増加が見込まれている。背景にあるのが消費電力の大きいGPU(画像処理半導体)の広がり、そして動画配信の拡大だ。国立情報学研究所の佐藤一郎教授は「5年ほどしたら、動画配信やメタバース(仮想空間)には制限がかかる可能性がある」と警鐘を鳴らす。電力問題の動向を聞いた。

――ICTと消費電力について、どんな課題が出ているのでしょうか。

「科学技術振興機構が2021年に発表した『情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響』によると、ICTセクターの消費電力は18年から30年にデータセンターが14テラワット時(テラは1兆、TWh)から90TWhへと6.4倍に、ネットワークが同期間に23TWhから93TWhへと4倍に増加すると見込まれています。その後も増加ペースは加速していきます」

「資源エネルギー庁の調べによると、日本の20年の発電電力量は1000.8TWh。今年の夏は電力不足が深刻化していますが、このままだと30年前後にはICTの電力消費の増加により、電力供給不足が慢性的に生じることになります」

「ICTによる消費電力の急増は実は日本だけでなく、世界的な傾向です。世界では日本を上回るペースで消費電力が増える見込みです。夏の電力問題は日本国内のいろいろな状況が関係していますが、ICTによって見込まれる電力不足は世界的な傾向であり、世界中で電力不足が起きる可能性があります」

――なぜこれほどのペースで電力消費が増えているのでしょうか。

「データセンターの場合、消費電力の増加の理由の1つとして挙げられるのが、高性能GPUの登場です。GPUは機械学習に不可欠ですが、高性能な製品は消費電力が非常に大きいのです。また、機械学習の精度を高める方法は質のよい大量のデータから高度な学習データをつくることになりますが、データ量の増加と学習モデル高度化によって学習時間の大幅な増加を伴うため、消費電力がそれだけ増えることになります」

「インターネットのトラフィックは年率20%以上増えています。このトラフィックの増加に対応するには、1本の光ファイバー回線の通信帯域を広げるだけでは間に合いません。光ファイバー回線数を増やすことで対応していますが、回線が増えればその分、電力も増えてしまうことになります」

「ではどんなトラフィックが影響しているのかといえば、トラフィックの種類別比率は調査によってばらつきがあるのですが、動画配信が半分超という結果が多くなっています。カナダのネット関連企業、サンドバインの『グローバルインターネットフェノミナリポート』では、1位がYouTubeで16.37%、2位がネットフリックスで10.61%となっています。またウェブページのデータ量も増加傾向にあり、電子商取引(EC)サイトは特にデータ量が多く、それ以外の一般サイトではネット広告がデータ量に占める比率が高くなっています」

――何とか乗り切る方法はないのでしょうか。

「データセンターの場合、20年のサーバー1台あたりの消費電力は10年前の4分の1程度になっており、省電力化が進んでいます。しかし、私のみたところ、サーバーの省電力化技術は行き着くところまでいっている状態であり、データセンターの冷却による電力も下げ止まり状態です。いろいろ考えても、現状では解決策は見当たらない状況です」

「このため、抜本的な見直しが必要です。例えば従来は『サーバーは1カ所に集めた方が効果的』とされ巨大なデータセンターを造ってきたのを改め、ユーザーに近い小規模データセンターを電力供給と計算需要に応じて切り替えるなどが考えられます。ただ、実現するかは未知数です」

「ネットワークでは装置を集約して回線数を減らすことが挙げられます。また、光による伝送と電気による情報処理を混在させると消費電力も増えるので、光そのもので情報処理する技術、光情報処理などで省電力化する余地があります。無線アクセスの基地局の省電力化も進める必要があります。それでも、米シスコやスウェーデンのエリクソンのトラフィック量の予測を見ると消費電力の増加は通常の省電力技術では追いつかない、と私はみています」

動画配信やメタバースへの影響は大きい

――省エネのペースが追いつかない場合、どんなことが起きるでしょうか。

「今後、消費電力がIT(情報技術)にとって足かせになる可能性があります。IT企業は、消費電力を下げても持続できるサービス、そしてITにおける消費電力を下げる技術がいっそう重要になるでしょう」

「消費電力を削減するためには、計算量やトラフィックが制限される状況になるかもしれません。これは計算量やトラフィックと消費電力は相関関係にあるからです。制限が入れば、動画配信やメタバースなどトラフィックが多いサービスは影響が大きいはずです」

「現在の増加ペースを考えると、5年後くらいには、動画配信などの制限の議論が起き、YouTubeやネットフリックスなどの大手動画配信事業者は消費電力削減のために解像度を下げるなどの対策に迫られる可能性があります。今、ユーチューバーなどの配信用動画提供側は再生回数を競い合っていますが、再生回数が多いことは消費電力も大きいことにもなり、むしろ非難の対象になるかもしれません。また、流行のメタバースも、通信トラフィックが大きいことに加えて、ユーザー側のパソコンは高性能GPUの利用を前提にしており、消費電力問題は逆風になり得ます」

「人工知能(AI)などの計算による負荷が高い処理については、それによって現実世界の効率化がどれだけ進むかといった比較も必要になってくるでしょう。またネット広告は現在プライバシーの観点から規制が強まっていますが、将来はデータ量の多さから消費電力の削減のために規制される可能性があります」

「消費電力が将来、ITにさまざまな影響を与える可能性があることは、今から知っておくべきだと思います」

(聞き手は日経ビジネス 中沢康彦)

[日経ビジネス電子版 2022年7月1日の記事を再構成]

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