米DoorDash急成長のからくり 提携・買収に4つの柱

米料理宅配のドアダッシュは市場シェア60%近くを握る米国内最大手だ。
人手不足や、配達時間に対する消費者の期待、新たな法律により米国の宅配業界の状況はこの1年で大きく変わったが、2021年の同社の売上高は前年比70%近く増えた。増収を確保できた一因は事業の多角化だ。
ドアダッシュは最近の決算説明会で述べたように、消費者の「地域のあらゆる商取引のニーズ」に対処するため、料理宅配を超えて成長できる機会に資金を投じている。大手小売りとの提携から生鮮食品や美容製品などの宅配、レストランテックの買収に至るまで、様々な分野の小売りの「ラストワンマイルのパートナー」としての地位を確立しようとしている。
今回の記事ではCBインサイツのデータに基づき、ドアダッシュの最近の買収、投資、提携から同社の4つの重要戦略を抜き出した。この4つの戦略でのドアダッシュとのビジネス関係に基づき、企業を分類した。
・小売り
・レストランテック
・サプライチェーン(供給網)と配達テック
・従業員の福利厚生

小売り
ドアダッシュは料理宅配以外に事業を拡大するため、倉庫型の会員制スーパーや百貨店などの小売りと戦略提携を結んでいる。
最近では倉庫型の会員制スーパー、米BJ'sと提携した。こうした業態のスーパーが宅配プラットフォームと提携するのはこれが初めてとなる。ドアダッシュはBJ'sの226店舗から商品を配達する。ドアダッシュの顧客ならだれでもアプリでBJ'sの商品を注文できるが、BJ's の会員番号を入力すると会員限定価格で購入できる。
ドアダッシュは米食品スーパー大手アルバートソンズとの提携を通じて超即配事業にも参入している。両社は2022年1~3月期、既存の提携に基づいて食料品を30分以内に配達する即配サービスを始めると発表した。
ドアダッシュは食料品宅配のほかにも、提携を通じて小売りの注文やフルフィルメント(受注・配送管理)を手掛ける柔軟性をみせている。21年の年末商戦ではドアダッシュのフルフィルメントプラットフォーム「ドライブ(Drive)」により米百貨店大手メーシーズやブルーミングデールズの通販サイトの商品配達を担い、ドアダッシュのアプリで米百貨店大手JCペニーの商品を販売した。
このアプリでは家庭雑貨販売の米ベッド・バス&ビヨンドやペット用品チェーン大手の米ペットスマートなどの大手小売りの商品も常時扱っている。米美容小売りチェーンのアルタ・ビューティーなどとも配達やフルフィルメントで提携している。
レストランテック
ドアダッシュは新たな分野に事業を拡大する一方、主力分野である「レストラン」にも多額の資金を投じ続けている。POS(販売時点情報管理)システムなど今や当たり前になった技術から、調理ロボットなど登場したばかりのテクノロジーまで、顧客企業に新たな形のレストランテックをもたらしている。
22年1~3月期にはレストランに注文システムを提供するため、米ビーボット(Bbot)を買収した。こうした注文システムを導入すると、顧客が自分のスマートフォンを使って注文や決済をするようになるため、レストランは少ないスタッフでより多くの顧客にサービスを提供できる。この買収により、ドアダッシュはバーやホテルなども開拓可能になった。
ビーボットの買収に先立ち、ドアダッシュは米チャウリー(Chowly)や米ポジタッチ(POSitouch)などのソフトウエア企業とも提携した。
さらに21年には、サラダ調理ロボットを手掛ける米チョウボティクス(Chowbotics)を買収した。チョウボティクスの自動販売機型の調理ロボットはレストランや食品メーカーの出店拡大を支援し、単調な下ごしらえに割く人手を減らす。この買収を含むレストランテックへの投資からは、ドアダッシュがレストラン向けの総合テクノロジー企業を目指していることがうかがえる。
サプライチェーンと配達テック
即時配達(オンデマンドデリバリー)を手掛けるドアダッシュがサプライチェーンと配達テックを強化しているのはいわば当然だ。同社は主に買収を通じてこの分野を強化している。
自動運転の分野では2社を買収している。19年4~6月期には、自動運転車向けの高精細なドライブマップを作成する米lvl5を買収した。翌7~9月期には、遠隔操作による自動運転技術の開発を手掛ける米スコッティラボ(ScottyLabs)を傘下に収めた。
ドアダッシュは超即配にも関心を示している。この1年でこの分野の買収や投資を進め、独自のシステムを築いた。21年7~9月期にはフィンランドの超即配サービス、ウォルト(Wolt)を買収し、その直後にはドイツの同フリンク(Flink)に出資した。21年10~12月期にはニューヨークの一部地域で、運営するコンビニエンスストア「ダッシュマート(DashMart)」から注文品を10~15分で配達するサービスを始めると発表した。
一方、米ブルームデリバリー(Vroom Delivery)や米フロースペース(Flowspace)など実店舗の電子商取引(EC)構築やフルフィルメントの支援企業、アイルランドのブロモ(VROMO)など配達管理システムとも提携している。
従業員の福利厚生
足元の人手不足を受けて雇用主は人材を採用し、維持する手段を探っている。ギグワーカーに圧倒的に依存している料理宅配のような分野では、従業員のつなぎ留めや福利厚生はかねて懸案だった。
ドアダッシュは人手不足が顕在化する前から、自社の配達員の採用と維持に向けて他社と戦略的提携を結んできた。例えば、19年にはお釣りを自動で投資に回すアプリを運営する米エイコーンズ(Acorns)と提携し、新規契約した運転手への採用ボーナスを(現金ではなく)エイコーンの投資口座への預金という形で支給した。最近では、カナダのペイフェア(Payfare)と組んでビザカード「ダッシャーダイレクト(DasherDirect)」を発行し、配達員が銀行口座を持っていなくても賃金を速やかに使えるようにした。
ドアダッシュは自社の配達サービスを他社が従業員に提供する福利厚生とも位置付けている。21年3月には給与・福利厚生サービスの米リップリング(Rippling)と提携し、リップリングの契約企業がテレワークの従業員に福利厚生の一環としてランチ配達サービスを提供できるようにした。
その他
ドアダッシュはこの4つの重要分野に加え、アプリのサービス拡充に向けて注目すべき提携もしている。
20年には人工知能(AI)モデルの訓練を強化し、レストランのおススメ機能や配達時間の予測の精度を高めるために米エヌビディアと提携した。
22年にはオーストラリアの後払い決済サービス(BNPL)、アフターペイ(Afterpay)と提携し、オーストラリアのユーザーがドアダッシュの会費や注文の料金を4回の分割払いで支払えるようにした。オンデマンドデリバリーのプラットフォームと後払い決済企業が提携するのはこれが初めてだ。ドアダッシュは小売りとの連携を引き続き強化しているため、BNPLの決済オプションは他社との差別化要因になるだろう。
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