国内新興に海外VC出資 ボーン・グローバルは続くか

サウジアラムコのVCが、このほどテラドローンに18億5000万円を出資した。同社がサウジアラビアに100%出資の子会社を設立し、石油発掘設備などの保守点検を請け負う。
将来はサウジアラビアが計画するスマートシティーで、荷物を運ぶドローンのための航空管制システムを提供する考えという。アラムコのVCがアジア企業に出資するのは同社が初となる。
テラドローンは2016年の設立で、市販のドローンに取り付けるレーザーと自動航行システムを開発している。創業後すぐに欧州や東南アジアで事業を広げ、世界で注目されてきたことが特徴の一つ。ドイツ調査会社の22年のリポートによると、市場シェアや売上高など9項目の総合評価ランキングで世界2位だった。
スタートアップ業界では創業期から海外進出を狙う戦略を「ボーン・グローバル」と呼ぶ。1993年に米マッキンゼー・アンド・カンパニーが社内報で名付けたのが始まりとされ、欧米で取り入れられてきた。日本ではメルカリが2014年に米国に進出したあたりから、海外重視の意識が浸透したといわれる。
デジタルマーケティング支援のエニーマインドグループ(東京・港)は設立された16年にアジアへ進出。現在はシンガポールやタイ、インド、中国など海外に約20の拠点を持つ。製造業の受発注プラットフォームを手掛けるキャディ(東京・台東)は17年設立。22年3月にベトナム、11月にタイに進出した。大手メーカーから特注部品を受注して町工場に委託する事業を広げている。
海外マネーが支えたが……
最近では海外マネーがこれを支えている。VCのSTRIVE(ストライブ、東京・港)が10億円以上を調達した国内新興の出資者を調べたところ、20年まで3年間の合計は5社だが、21年は少なくとも海外から25社が資金を提供していた。
VCのWiL(ウィル)でパートナーを務める久保田雅也氏は「海外VCの中には本国での投資が一巡し、日本勢などに興味を持つところが増えた」と話す。新型コロナウイルス禍でオンライン面談が定着し、資金提供を打診しやすくなった面もある。
ただ、ここにきて景気減速の影響が大きくなるのではないかと懸念されている。すでに投資家は慎重になっており、KPMGによると日本のスタートアップにおける22年7〜9月の資金調達額は約1500億円で、前年同期と比べ4割減った。
新たな事業を始めるときに、人口が減少する日本ではなく海外に足場を求めるのは自然だ。ただ、商習慣が日本と違い、販売先や競合の情報も少ない市場を開拓するのは大企業以上にハードルが高い。
マネーの動向次第で事業の行方が大きく揺さぶられる新興企業。技術や製品・サービスに磨きをかけ、競争力のある戦略を打ち出すことが一層重要になっている。
(日経ビジネス 朝香湧)
[日経ビジネス電子版 2023年1月31日の記事を再構成]
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