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水素資源獲得、世界競争へ 2030年に需要2倍超

Earth新潮流 日経ESG編集長 馬場未希

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

2021年10月、神戸港の一角に真新しい船舶の姿があった。川崎重工業が建造した液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」だ。全長116メートルの船体に1250立方メートルの液化水素タンクを搭載している。停泊しているこの場所は、液化水素の受け入れ基地となる。

豪州と結んで実証

水素運搬船はオーストラリアで製造した水素を日本へ輸送する実証試験で使う。セ氏マイナス253度の水素を16日間にわたって南半球から太平洋を北上して運ぶ役割を担う。基地には直径19メートルの球形をした水素貯蔵タンクが設置されている。

「極低温を保ちながら液化水素を運び、ためるという難度の高い技術を確認できた。サプライチェーン(供給網)を構成する日本の技術は世界でも先端を走っている」。川崎重工で水素戦略本部副本部長を務める西村元彦執行役員は話す。

20年10月、政府は50年までにカーボンニュートラル(温暖化ガス排出実質ゼロ)を目指すと宣言した。これを実現するためには、火力発電所や産業活動などの二酸化炭素(CO2)排出を大幅に減らす必要がある。火力の排出削減は再生可能エネルギーの導入や原子力発電の再稼働、そして水素の活用が鍵になる。

国際エネルギー機関(IEA)が21年10月に発表した「グローバル水素レビュー2021」によれば、20年の世界の水素需要は9000万トンだった。「50年実質ゼロ」に向けて水素への燃料転換が進むと、30年の年間水素需要は20年比で2倍強の2億トン以上、50年に5億トン以上に膨らむと推計している。

製造業では水素の大規模導入が求められる。特に鉄鋼や化学といった素材産業は現在、生産工程で石炭や石油などを使わざるを得ない。ただ、このままではCO2を排出し続けるため、化石資源を水素に置き換え、CO2排出をゼロにする革新技術の開発を急いでいる。

課題は供給能力とコスト

製造業の技術革新と並行して必須となるのが、水素を大規模に、低コストで供給するためのインフラだ。50年のカーボンニュートラルは日本だけの課題ではない。世界で水素の材料となる資源の獲得や技術開発、サプライチェーンの構築が始まっている。

川崎重工が参加する事業はその先駆けである。同社のほか、岩谷産業やシェルジャパン(東京・千代田)、Jパワー、丸紅、ENEOS、川崎汽船が連携する。日本やオーストラリア、豪ヴィクトリア州の各政府も支援する。

この共同事業では、オーストラリア産の褐炭で水素を作り、神戸港まで海上輸送する。水素サプライチェーンの「作る」ところから「ためる」「運ぶ」といった場面で必要な技術と、「使う」ために要求されるコストや品質を満たせるかを実証する。

水素の製造時にはCO2が排出されるが、豪州企業がCO2回収・貯留(CCS)技術で同国近海の海底下に貯留する計画だ。貯留が実現すれば、CO2を排出しない「CO2フリー水素」とみなせる。

豪南東部にある炭鉱に隣接して、Jパワーが運営する水素製造設備がある。21年1月、炭鉱で採取される褐炭を使った水素製造の実証試験が始まった。Jパワーが開発した石炭ガス化技術を生かす。製造した水素は21年度中にも、水素運搬船による神戸港への海上輸送が始まる計画だ。

50年の排出実質ゼロや、その途上となる30年度までの温暖化ガス削減目標の実現のため、毎年4000万~5000万トン近くのすさまじい削減を成し遂げなくてはならない。水素への燃料転換は当面実証の段階だが、実用に向けて着実に進める必要がある。

課題は供給力の拡大とコストの抑制だ。新しいエネルギー基本計画は、現在は水素1N立方メートル(ノルマルリューベ=標準状態での気体の体積)当たり100円のコストを、30年に同30円にして供給量を最大300万トンにすると言及した。50年には同20円、2000万トンを目指す。

価格を抑え、水素供給量を大規模化するには、まずは水素の資源を安価に確保できる場所を探す必要がある。水素資源には石炭や石油、天然ガスから作り、製造時に出るCO2をCCSで除去したものと、再生エネ電力で水を電気分解して作る水素がある。

国内での水素製造はCCSの実現可能性や発電コストなどが制約となり、供給量とコストの両面でハードルが残る。需要の大規模化に備え、海外で生産する安価な水素を輸入できる筋道を付けておく必要がある。

需要国同士で競争も

政府は水素サプライチェーン構築を資金面で支える。21年8月、10年で総額2兆円のグリーンイノベーション基金による投資対象として、水素関連事業を選定した。

資源を安く入手できる国や、再生エネ電力を安く使える国で水素を作るのが合理的だ。オーストラリアや中東、チリ、南アジアも供給国として注目が集まる。

一方「世界の有望な水素資源の確保を巡り、水素需要国同士の競争が起きつつある」との指摘もある。日本にとっても水素資源国との協力や連携が急務になる。化石資源事業で資源国と関係を深め日本の経済を支えた商社は、水素でも世界各地で新たな水素資源の開拓やサプライチェーンの構築に乗り出している。

マッキンゼー・アンド・カンパニーのアソシエート・パートナー、土谷大氏は「水素の国際サプライチェーンをいち早く構築してきた日本は先行者として優位な立場にある。世界に技術とノウハウを売り込み、20年後や30年後の輸出産業を育てる局面に来ている」と話す。大規模な需要を前に日本が水素ビジネスで存在感を発揮できるか、期待が高まっている。

[日経産業新聞2021年11月5日付]

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