利上げ鈍化論を誘発した観測記事、筆者が修正発言
市場の「12月は利上げ0.5%以下にペースダウン」との議論の火付け役となった米経済紙の観測記事を執筆した記者、ニック・テミラオス氏が28日、米経済テレビに電話出演し、当該記事の内容を修正した。発言内容は以下の通りだ。
「今日発表された米雇用コスト指数が高水準であることが気になる。利上げの終着駅(ターミナル・レート)をやや高めに設定すべしとの議論になるかもしれない。12月利上げ鈍化観測に関する議論は視界が開けない」
28日に発表された同統計は2022年7~9月期に前期比で1.2%、前年比で5%上昇。歴史的な高水準を維持している。米連邦準備理事会(FRB)も今後のインフレ動向を占ううえで、かねて注目している指数だ。
なお、ダウが828ドル急騰したことに関連して、株価上昇が続けば、市場のクレジット・リスクが後退してインフレ要因にもなるので、FRBが利上げしやすい市場環境になることもNY株式市場では懸念されている。
さらに週末には、ロシアがウクライナ産穀物の輸出再開合意への参加を一方的に停止したことも、インフレ高水準が継続するとの観測を誘う。11月1~2日のFOMCで、11月は0.75%利上げは事実上決定としても、12月の利上げ幅に関しては議論が振り出しに戻るごとき流れとなった。しかも、11月4日には雇用統計も発表される。
11月FOMC後の記者会見でパウエル議長は間違いなく、12月利上げについて質問されるであろう。しかし、その場で確定的な返事が出来るはずもなかろう。市場の注目は発言の行間に流れるニュアンスだ。9月FOMCの時点では19名中、17名が2022年末政策金利が4.4%から4.6%のレンジを予測していた。FEDウオッチャーたちが驚くほどの「ほぼ全員一致」だ。
しかし、現時点では既にデイリー・サンフランシスコ連銀総裁やシカゴ連銀エバンス総裁らがタカ派への急傾斜に一石を投じている。この内部状況を「根回しが得意」とされるパウエル議長がいかに説明するか。
筆者は言質をとらせぬ発言で切り抜けると予想している。その場合、12月まで市場は様々な議論で揺れることになろう。
ダウが800ドル以上急騰しても、所詮売られ過ぎのなかの「ショートカバー」で片付けられる。あるいは株新規買いポジションにしても、12月FOMCまでの賞味期限つきだ。
日本人として気になる円安も、週末、円売り仕掛け人たちとZOOM(ズーム)で意見を交換した。思わぬ利上げ鈍化論が勃発したことで、格好の利益確定円買い・ドル売りの機会を提供してもらった、との反応が目立つ。
そのうえで、連戦連勝ゆえ心理的にも余裕があるので、145円台後半で新たな円売り・ドル買いポジションを醸成する目論見が透ける。「パウエル議長の金融政策が容易に変わるはずもない」との確信めいた見解が一貫して底流となっている。
確かに視界不良のなかで、ひとつだけ確かなことは利上げの終着点が4%にせよ5%近くにせよ、高水準は少なくとも2023年前半まで継続ということだ。利下げはない。Higher longer(より高く、より長く)。このフレーズを何度、FRBから市場は聞かされたことか。インフレは、抑制の手を緩めると、ぶり返す可能性があるので、根絶やしにするには、効果判定できるまで、高金利は維持するとの姿勢である。
中期的な円売りの姿勢については「試合は7回裏。あと2回ほどで、ゲームセットだ。そろそろクローザーのウオーミングアップかな」と割り切る発言が印象的であった。

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