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ふるさと納税、過去最高でも「利用者」は10人に1人?

知っ得・お金のトリセツ(58)

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ふるさと納税はお得だ。ウナギにメロンにホタテ……今ごろ続々届く旬の特産品に舌鼓を打っている人も少なくないに違いない。「2000円でこんなにしていただいて」。思わず恐縮の念が湧く。

2000円の自己負担でもらえる返礼品分だけお得

2000円とは正式には寄付金控除の下限適用額だが、いわば「ふるさと納税プロジェクト」への参加費のイメージ。2000円だけ自己負担して全国の自治体から任意に選び寄付をする。すると地元の特産品が返礼品として届くと同時に(返礼品がないケースもある)、翌年からは本来であれば居住地に支払う住民税からその分が減額される。原資はいずれにしても払わなくてはならない住民税だから、支払い先を変えただけでもらえる返礼品の分だけお得になるロジックだ。例えば年収500万円の独身、もしくは共働きの人であれば自己負担が2000円で済む寄付額の目安はざっくり6万円。寄付金1万円の返礼品でホタテ1キロが「相場」だからホタテが6キロもやってくる。ホタテ好きもびっくりだ。

2020年度の寄付額 過去最高の6725億円

7月30日に総務省が発表した「ふるさと納税に関する現況調査結果」によると、2008年の制度開始以来13年目の昨年は件数・額ともに前年比1.4~1.5倍に急伸。寄付額は6725億円と過去最高を更新した。新型コロナウイルス禍の巣ごもりで高まった「おとりよせ消費」に対する関心が背景にある。

お得度も増した。本来なら料亭などで使われていた高級食材が返礼品市場に回ってきたことに加え、生産者支援を目的に農林水産省が返礼品調達費の半額を補助する制度を設けた。

10人に9人は本来の意味で「活用」していない?

大々的なテレビCMなどもあり認知度は向上、利用者の裾野も広がっている半面、住民税の払い先を変えるという本来の制度の枠組みを活用している人は意外にまだ少数派だ。同時に発表された昨年度の住民税の控除適用者数は約552万人。一定以上の所得があって住民税を支払うべき納税義務者は日本に約5900万人もいるから、そのうちふるさと納税を行い、さらに住民税の控除手続きまで行っている人は全体の9%強、つまり10人に1人しかない。残りの10人に9人は住民税の控除というふるさと納税本来のメリットを活用していないのが現状だ。

どういうことだろう? もちろん中にはあえて「寄付はするが住民税の支払い先は変えない」という選択をするために、あえて確定申告などの手続きをしない人もいるだろう。ただ、そうなると経済的にはシンプルな寄付と同じ。むしろ誤解、もしくは手続きミスをしている人の方が多そうだ。

誤解① 自動的に手続きが完了する?

返礼品を主目的にふるさと納税専用のサイトから手続きする場合、納税自体はクレジットカードを使ってオンラインで完結。感覚的にはほとんどネット通販だ。あまりに簡単なため忘れがちだが、最終的に税金の控除を受ける手続きは別に存在する。本来は確定申告が必要。会社員など確定申告をしない人を対象に寄付先が5カ所以内に限り申告不要で済む「ワンストップ特例」もあるが、その場合も自治体との間で封書による書類のやり取りが発生する。お買い物気分で「ポチッ」としただけで後の処理を怠ると、寄付の原資に住民税を充てる手続きはなされていない状態のままだ。

また、そもそも住民税を支払っている必要がある。例えば専業主婦(夫)の人の場合、自分が手間暇かけて手続きをしたとしても住民税を払っているのは配偶者なので名義は必ず配偶者にする必要がある。「ポイントが付くし」と自分名義のクレジットカードを使ってしまうと、税金の控除手続き上は不備になるので要注意だ。

誤解② 居住地の自治体が財政破綻する?

住民税は自治体による行政サービスの原資だ。「ふるさと納税で支払い先を替えると居住地のサービスが低下するのでは……」というのは至極当然な心配だ。だが控除額(住民税の特例部分)には「住民税所得割額の2割」という上限がある。極端な話、住民全員がフルに利用したとしても減少するのは個人住民税の所得割の2割減程度にとどまる。自治体の税収としては他に法人住民税もあるし、個人・法人ともに均等割部分もある。

さらに多くの自治体では「地方交付税」の形で国がバックファイナンスをしてくれる。税収が豊富な東京23区や川崎市などは例外だが、多くの自治体では住民税の流出額の4分の3は交付税で補塡される。ふるさと納税が増えても「破綻する」「困窮する」というレベルにはならない歯止めが存在するわけだ。

とはいえ、税収減につながるのは確かだ。川崎市の場合、昨年ふるさと納税による税収減を強調したポスターなどを作成、住民に訴えかけを行った。19年度に流出した63億円分の行政サービスは保育園運営経費に換算すると園児3800人分、ゴミ収集処理なら36万世帯分に相当するという。同時に地元のサッカーチーム「川崎フロンターレ」のユニホームなどを返礼品に、逆にふるさと納税「誘致」の動きも強めている。

誤解③ 寄付額は全額自治体の収入になる?

高額な返礼品合戦が浮き彫りにした通り、ふるさと納税は流入額が増えても丸々は自治体のもうけにはならない仕組みだ。返礼品の調達費用に加え、バカにならないのがふるさと納税ポータルサイトに支払う手数料だ。国は19年に返礼品の調達費を寄付額の3割以下、総経費を5割以下にすることを定めた。逆にいえばどんなに額が集まっても、半分近くは自治体外へと流れ出ている現状がある。20年度の実績では返礼品の調達費比率は26.5%で、それ以外の決済代行や送付、事務などポータルサイトに払う費用も含めた総経費比率は45.1%だった。

有名人を起用した派手なテレビCMなどを見ると複雑な気持ちになる人もいるだろう。「お得らしいけど使いたくない」という気持ちもわかる。以上の制度の仕組みを理解した上であれば「寄付はするが税金の控除は利用しない」「寄付はするが返礼品は希望しない」――そんな選択があっても、もちろんいい。

山本由里(やまもと・ゆり)
1993年日本経済新聞社入社。証券部、テレビ東京、日経ヴェリタスなど「お金周り」の担当が長い。2020年1月からマネー編集センターのマネー・エディター。「1円単位の節約から1兆円単位のマーケットまで」をキャッチフレーズに幅広くカバーする。

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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