新社会人、「退職金か前払いか?」と聞かれたときの選択
新社会人4つの決断(1)

新社会人となった皆さん、就職おめでとうございます。この4月に転職を果たした皆さんもおめでとうございます。今月は、職場の新人となった皆さんが、判断すべき4つの「選択」について考えてみます。もちろんあなたの人生(Life)とお金(MONEY)に関する選択です。
新社会人はいくつもの決断を迫られる
会社の一員として職場に迎えられたとき、基本的なお約束(更衣室、IDカードの利用方法、パソコンの起動や基本的な使用ルール)など覚えなければならないことは目白押しです。
そして、覚えることと同時に、いくつもの決断を迫られることがあります。「○日までに、給与振込口座をつくって手続きをしてください」「○○に加入する場合は、○日までに手続きをしてください」のような案内がいくつか届きます。
おやつやお茶代を分担し合うような互助会なら、先輩にちょっと相談すればアドバイスがもらえるでしょうが、「自分で考えなさい」と言われることが多いお金の選択がいくつかあります。
今週紹介するのは「退職金(企業年金)制度」を選ぶというものです。
会社に入ってすぐ判断を迫られる
最近、新入社員(新卒、中途採用どちらの場合も)が聞かれるようになった質問の一つに「退職金(企業年金)にするか、前払いで受け取るか」というものがあります。
従来、退職金制度というのは正社員の全員が加入する半強制的な仕組みで、そもそも加入しない(退職金をもらわない)という選択はありえませんでした。しかし、2001年10月に確定拠出年金(DC)、02年4月に確定給付企業年金という、新企業年金2法がスタートした際「加入の選択制」という概念が導入され、一部の会社では入社時に選べるようになっています。
退職金ないし企業年金制度に加入するということは「退職時にまとまったお金を受け取る(いわゆる退職金)」の仕組みを選び、加入をしない場合は「毎月の給与あるいは賞与に上乗せして、そのお金を受け取る(つまり前払い)」ということになります。
一見すると、前払いを選ぶと給与の手取り額がアップする気がして、ついそちらを選びそうになります。しかし、トータルでは「退職金(企業年金)」の方がお得なので選択をすることをお勧めします。
まず、退職金のために1万円積み立てられるのと、毎月1万円上乗せでもらうのは同価値ではありません。今もらった場合、所得税や住民税の対象となり、厚生年金保険料や健康保険料も引かれます。つまり実質的な受取額は7500~8000円くらいになります。しかし、退職金ないし企業年金制度の場合は、非課税で全額が積み立てられ、かつ運用益を乗せたものが未来の受取額になります。
また、退職金(企業年金)に積み立てて将来受け取ると、そのお金は非課税枠が発生します。一時金でもらう退職所得控除の場合、「勤続年数×40万円(20年を超えると70万円)」の非課税枠があり、その金額を超えるまでは課税されません。しかも非課税枠をオーバーした分に対しても半額しか課税されないので、前払いにして毎月そのつど税金を納めるよりお得になります。
また、将来の計画的な資産形成として考えた場合も退職金(企業年金)のほうが計画的で確実です。自分に代わって会社に積み立て・運用・資産管理をしてもらうようなものだからです。上乗せされた「前払い退職金」を全額手元に残しておいて運用することはほぼ不可能です。
もし選べるなら、「退職金(企業年金)制度に加入する」を選びましょう。
退職金がある会社か、ない会社か確認を
退職金に加入するか前払いかと質問をされるということは、制度そのものが存在することは分かります。では、こういう質問がなかった場合はどうすればいいでしょうか。
可能性としては「退職金(企業年金)制度があるが全員が強制加入」となっているか「退職金(企業年金)制度がない」かのどちらかということです。
前者の場合、全員が加入する退職金(企業年金)制度があるという説明を受けると思いますので、制度の概略やモデル額(新卒から勤め上げた定年退職者がどれくらいもらえるか)を確認しておき、みなさんの老後資産形成の基礎とします。
会社によっては手厚い給付水準の会社もあれば、それほど金額が高くない会社もあります。これを知ることで、「自分で備えるべき老後の目標額」を検討することができます。
後者の場合、「存在しない制度の説明はしない」のは当然なので、「退職金(企業年金)制度はウチの会社にはない」という確認だけはしておきたいところです。この場合、「老後2000万円」の支えとして会社の制度には期待できないわけですから、自力で備える金額を分厚くしておく必要がでてきます。
退職金(企業年金)制度の有無は、人生を通じたマネープランをどうしていくかの「選択」に大きく影響を与えるわけです。
選択制確定拠出年金ならいったん留保もよし
ただ、ちょっとややこしいことが一つあります。企業型DCには実質的には自分の給与から掛け金を積み立てるケースがあり、これは加入しないほうがベターかもしれません。
「選択制」あるいは「給与切り出し型」のような「ただし書き」が頭についている企業型DCの場合、会社が別途負担する退職金制度ではなく、自分の給与から積立金を捻出する仕組みとなっています(ここでいう「選択」は加入の選択だけではなく、「積立額」の選択の自由をも意味しているのがややこしい)。
この場合、実質的には退職金ではなく、自分の給与を原資とした自助努力の積み立てということになります(つまり、会社はお金を負担していない)。毎月の家計がまだ確立していない若い人の場合、老後の貯蓄を優先してみたところ、目の前の家計が赤字になる恐れがあります。
DCはその性格上、老後の受け取りに限定されているため、目の前の生活の不足があっても取り崩しができません。まずは、毎月の家計がプラスでやりくりできる自信がついてからでも加入は遅くありません。
この場合は「入社時点では加入しない」でもいいでしょう。
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ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔氏が若年層に向けて、「幸せな人生」を実現するためのお金の問題について解説するコラムです。毎週月曜日に掲載します。