夏のボーナスの使い道 金利上昇の果実を得る方法は?
賢い使い方を人気FPが判定(上)

株価に加え金利や為替、物価なども大きく変化する今、夏のボーナスの使い方にもこれまでとは違う工夫が必要だ。そこで、金融や家計に精通したベテランのファイナンシャルプランナー、深野康彦さんと深田晶恵さんの2人に、今夏のボーナスの使い道を〇×で診断してもらった。3回連載の初回は、金利上昇の影響を受ける可能性がある①住宅ローンの繰り上げ返済②ネット預金・個人向け国債③金――の3つについて、その是非を取り上げる。
使い道① 住宅ローンの繰り上げ返済の是非は?

「公的年金だけでは老後資金が2000万円足りない」問題が注目され、皆が老後資金づくりに熱心になった一方で、意外と見落とされているのが老後に残る負債だ。年金生活でローン返済は容易でない。
住宅金融支援機構の「2019年度フラット35利用者調査」によると、フラット35の平均完済年齢は約73歳だという。しかも、リタイア後もボーナス併用払いを継続している人が少なくない。結果として支払いが困難になり、ローン破綻して自宅を失う高齢者が増えている。
住宅ローンを抱えている人は、現役の間にこまめに繰り上げ返済して完済までの期間を圧縮し、定年の60歳までの完済を目指したい。それが無理でも、再雇用で給与収入を得られる65歳までには返し終える必要がある。
これから教育資金がかかってくる家庭なら、期間圧縮ではなく返済額を圧縮しておくのも一法だ。

高校の教育無償化の影響か、教育費に楽観的な親が多いように思う。しかし、今の受験費用や大学生にかかる学費は、親が学生だった頃と比べものにならないほど高い。
貯金が不十分な人が無理に繰り上げ返済してしまうと、目先の教育資金が足りなくなり、結果的に教育ローンや奨学金を利用せざるを得なくなる。教育ローンの利息は、繰り上げ返済の効果を大きく上回る。
一方で、定年退職以降もローンの返済が続く場合は対処も必要。こまめな繰り上げ返済ではなく、60歳以降の働き方と収入が見えてきたところで繰り上げ返済をする。今の返済額が返せそうな収入なら「期間短縮型」、給与大幅ダウンなら「返済額軽減型」を選びたい。大事なことは、繰り上げ返済をしたつもりで、その原資を貯めておくこと。子どもの教育費がかからない人なら、ボーナスでの繰り上げ返済もアリだ。
使い道② ネット預金・個人向け国債の是非は?

米国に比べて日本は景気が良くない。業績がコロナ前の水準に回復したのは大企業だけで、中小企業は依然コロナ不況にあえいでいる。しかも、コロナ禍の借り入れの返済が本格化するのはこれから。今利上げをしたら、日本経済の体力が持たない。従って、今後日本の政策金利が上がるとしても、せいぜい0.5%止まりとみている。
それにより長期金利は上昇しても、短期金利は同幅しか上がらないだろう。とすれば、ネット預金の利息には今後もあまり期待できない。
加えて、そもそも預金利息の財源を確保するための貸出業務を銀行が積極的に推進するとは考えづらい。こうした理由から、今夏のボーナスをネット定期に預けるのはやめておいた方がいいと思う。
確定利付き商品の中では、個人向け国債の変動利付き型を薦めたい。今年に入ってじわじわと利率が上がっており、今ならメガバンクのスーパー定期の80倍の金利が取れる。

しかし、ひと口にネット預金と言っても実際は玉石混交。破格の金利が提示されていても、よくよく注意書きを見れば「当初3カ月限定」だったりする。預け先は吟味する必要がある。
私が注目しているのは、東京きらぼしフィナンシャルグループ(FG)のデジタルバンク「UI銀行」。1年物以上のスーパー定期預金の金利が0.2%と比較的高い水準だ。地域のDXを推進する取り組みの一環として設立されたもので、東京きらぼしFG自体の経営状態も悪くないようだ。
金利上昇局面には、個人向け国債の変動利付き型という選択肢もありそうだ。どうせなら、金融機関の「個人向け国債キャンペーン」に合わせて購入するといい。
野村証券を例に取ると、100万円以上200万円未満で1000円の現金プレゼントがある。100万円買った場合は0.1%の利息が付いたようなもので、しかもその分は非課税だ。
使い道③ 金の是非は?

「有事の金」といわれるが、実際に金の価格はここ3年ほど、トランプ前大統領時代の米中対立や中東・朝鮮半島問題、そして今年のロシアによるウクライナ侵攻など、世界情勢の緊迫化を背景に上昇カーブを描いてきた。
しかし、今後もこのまま一本調子で上がっていくとは考えにくい。米国の利上げは金利を生まない金にとって逆風となり、金価格はいったん低迷することが予想される。夏のボーナスで投資して果実を得るとしたら、その次の上昇期となりそうだ。
親ロシアの東側諸国が結束する事態になれば、株価は大きく下落し、逆に金価格は上昇すると考えられる。金の保有は個人投資家にとってリスクヘッジにもなる。
手数料や税制上の取り扱いから、バーやコインでなく金ETFを薦めたい。金ETFの損益は、株式や株式投資信託の損益と相殺できる。

ボーナスで購入したいと考えるなら、少々割高な手数料を負担することになるが、100gのスモールバーやコインを何回かに分けて買うのがいいと思う。金投資では、売る時のことを考える必要がある。金の売却益は「譲渡所得」となり、特別控除の50万円以内なら非課税だが、大きなバーだと売却時の課税対象額が膨らんでしまう。500gのバーを買ってしまうと、半分だけ売るといった小ワザは効かない。
少額ずつ購入する方法として純金積み立てもあるが、一度に売却する場合、最後の積み立てから10年以上経過している分しか、課税対象額が半分に軽減される「長期譲渡」に該当しないなど、出口戦略に不安が残る(通常の購入なら保有期間が5年を超えれば長期譲渡になる)。
(取材・文/ライター 森田聡子 撮影/福知彰子)
[日経マネー2022年8月号の記事を再構成]
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