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仕事は、お金に換算できない意義もある(羽田圭介)

マネーの履歴書 作家・羽田圭介さん

必要最低限のものだけを持つ「ミニマリスト」の悲喜劇を描いた、小説『滅私』(新潮社)。著者の羽田圭介さんは「自分も若干ミニマリストの傾向はあるのかなと思う」と打ち明ける。その一方で、究極的にミニマルな暮らしを目指してしまうと、思考が狭まるのではないかと疑問を抱く。20代から投資を手掛け、芥川賞受賞といった経験も経た羽田さん。現在はお金について、どういった考えを持っているのだろうか。

小説家を目指したのは、本を読んでいたからです。中学受験をして、埼玉から東京の私立校に通っていたので、通学時間は往復で2時間ぐらい。その間に読んでいました。3日に1冊ぐらいのペースで読んでいたら、自分で書きたくなったという感じですかね。

17歳、高校3年生の時に小説『黒冷水』で文藝賞を受賞。小説家デビューする。

「小説を書いています」なんて周りに言っていなかったですし、学校で本を読むキャラでもなかったので、友達は「おまえ、本を書くどころか、読めるのかよ」という反応でした。でもその時には、「小説家は自分の生涯の職業だな」と考えていました。

大学時代に、大学の近くで半年間だけ一人暮らしをしました。家賃は月9万1000円で、通学時間が短くなり、その分執筆がはかどる……と計算したんですけれど。家賃は貯金や小説の印税で払いましたが、「こんなに払うのは無駄だな」と思って実家に戻りました。

人生で、シフトに入るようなアルバイトは1回もしていないんです。単発では、友達に誘われて2、3回働きました。それ以外はずっと本業の稼ぎだけです。

大学卒業後は就職するも、1年半で辞め、専業小説家となる。

就職して小説の執筆から遠ざかってしまったので、背水の陣を敷くため会社を辞めました。将来に対して不安になったことはあります。2013~14年ぐらいから、新刊本の初版部数がどんどん減らされていって。そのちょっと前まで、「最近の小説の初版は1万部しかない」と嘆かれていたんですけれど、数千部が当たり前になった。「1万部なんて、多いね」ぐらいの感じで。

書店の小説コーナーも、昔は純文学とエンターテインメントで棚が分かれていたのが、棚の数が減らされて、純文学とエンタメが一緒になって、書店の奥に移されて……。「本が置かれなかったら、読者は減りはすれど増えはしないだろう」と思いました。

その後、個人型確定拠出年金(iDeCo)と小規模企業共済を、毎月それぞれ満額で始めました。お金の不安があったというよりも、「面白そうだな」と思ったんです。それだけでは物足りなくなり、米国のETF(上場投資信託)や、日本企業の個別株を数週間から1カ月で売買するスイングトレードも手掛けていました。

15年に小説『スクラップ・アンド・ビルド』(文藝春秋)が芥川賞を受賞した。

受賞してテレビや講演会の仕事も入ってくるようになりました。「やりたくないな」という仕事のオファーも来るようになって、断るつもりでギャラのつり上げをしたら通っちゃったりして。今振り返るとあれは考えものだったなと思います。

「品がなかったな」と後悔する記憶も、幾つかあるんですよ。仕事に関しては、お金に換算できない意義もあるわけで。自分の貪欲さが、そうでない方向を選んでしまいました。「お金は大事」と教えるマネー教育には、功罪両方があると思います。

お金を増やすことばかりに貴重な時間を取られるのは、非効率です。コロナ禍では難しいことですが、お金はやっぱり旅に使うのがいいのではないかと思っています。いろんな所で消費すれば、単純に自分のためにもなるし、旅で訪れた場所も潤う。そういう循環を生めば、自分も使っていて気分がいいです。

羽田圭介さんのターニングポイント


●書店の小説コーナーの変化に気付いたこと
2013年頃、書店の小説コーナーが明らかに縮小されているのを見て、仕事の先行きに不安を覚えた。その後、興味半分で個人型確定拠出年金を始める。

●19年頃、豪邸を買うために資産運用を始めたこと
雑誌の連載企画で豪邸を買うことを目指し、米ハイテク株に投資。だが豪邸は不要と考えるようになり、生涯必要なお金はそれほど多くないと気付く。
「マネーの履歴書」は、様々な分野の第一線で活躍する人のマネーヒストリーやお金哲学を紹介するコラムです。
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(聞き手は大松佳代)

[日経マネー2022年6月号の記事を再構成]

日経マネー 2022年6月号 波乱相場でも上がる 強い日本株
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2022/4/21)
価格 : 750円(税込み)
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