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ロシアの侵攻で動揺する株式市場 スゴ腕個人の対応は?

緊急ヒアリング 浮かび上がった達人たちの共通点

ロシアのウクライナ侵攻を受けて、相場全体が乱高下する不安定な展開が続く株式市場。先行きの不透明感が増している相場に腕利きの個人投資家はどう立ち向かっているのか。3人のスゴ腕に対応を聞いた。

「何らかの異変が起きても影響が少なさそうな企業の株でポートフォリオを組んでいる。だから、ロシアがウクライナに侵攻したからといって、それで特に何かを変えることはない」

こう明かすのは、専業投資家のごはんさん(ハンドルネーム、40代男性)だ。業績が拡大している企業の株で、予想PER(株価収益率)という指標で見て株価が割安な銘柄を購入し、値上がりを待つ。こうしたバリュー(割安)株投資を主に手掛け、資産を大きく増やしてきた。現在は時価評価額が7億円を超える資産を株で運用している。

「昨年11月に新型コロナウイルス禍で人気が集まって大きく上昇していた新興企業株のバブルがはじけ、東証マザーズに上場している新興企業株が軒並み大きく下落している。そこで業績が拡大基調だが、市場の評価が低いために割安になっている銘柄を買う基本に立ち戻った」

こう語るごはんさんが資金を振り向けているのは、コロナ禍で需要が急伸した反動で業績の拡大が一時的に止まった銘柄だ。典型的な例として、通信販売大手のスクロールを挙げる。スクロールは衣料品や雑貨などをインターネットで販売する傍ら、企業のマーケティングや物流を代行して電子商取引(EC)での販売拡大を支援する事業を強化している。

2021年3月期に売上高が前の期比17.3%増の851億円、当期純利益が同7.3倍の51億円に急増した反動で、22年3月期は減収減益になる見通しだ。業績の変調が嫌気され、株価は21年2月に付けた10年来高値(1485円)から4割近く下落。予想PERは3月1日時点で6.8倍まで下がった。

「コロナ禍で以前はネット通販を利用していなかった人も利用して利便性を体感し、EC利用者の裾野が広がった。今10代の若い人がこれから社会に出て収入が増えると、それに応じてECによる購入量も増える。ECの市場拡大はまだ続く。スクロールの業績停滞は一時的なものにとどまり、業績は再び伸びていくだろう」

ごはんさんはこうした見通しを示した上で、次のように続ける。「スクロールの配当利回りは5%を超えている。期待に反して業績が再伸長せず、株価が買値から2~3割下落しても、4~5年分の配当で相殺して取引をトントンで終えられる」

こうした銘柄を保有しているので、ロシアのウクライナ侵攻で相場が急落しても、含み損の拡大を防ぐために保有株を売却するということはない。一方で、相場が暴落して有望な銘柄が大幅に値下がりしたら、保有株との入れ替えを検討するという。

高配当株で守りを固める

ロシアのウクライナ侵攻に動揺していないのは、取材した他の2人のスゴ腕も同じだ。11年に公務員を早期退職した専業投資家のかんちさん(ハンドルネーム、60歳男性)は「相場が急落したらどうするか。逆に急騰したらどう動くか。前もって方針を決めている。異変が起きてから対応を考えることはない」と話す。

かんちさんは、配当利回りの高い高配当株と株主優待のある銘柄への投資が主体だ。運用資産は株式投資に振り向け、年1200万円に達する配当(税引き前)と優待で生活費を賄っている。保有株の時価評価額は約5億4000万円に上る。

保有株の内訳は、高配当株が5割、優待株が3割、企業業績の拡大に伴う値上がりを期待するグロース(成長)株が2割という配分だ。「今年4月に実施される東京証券取引所の再編で新たに所属する市場が既に決まり、優待で株主を増やす必要がなくなった企業が優待を廃止したり、優待の内容を縮小したりする動きが広がっている。そのため、優待株の保有を減らしてウエートを引き下げている」とかんちさんは打ち明ける。

コロナ禍が広がって相場全体が下落した折に、インフレに対する耐性の高い総合商社株や資源開発最大手のINPEX、金利の上昇が追い風になる銀行株を購入した。こうした銘柄は足元では割高になっており、買い増しできる状態ではないという。

そこで、業績は拡大基調であるにもかかわらず、新興企業向け市場のマザーズやジャスダックの相場下落で大きく値下がりした時価総額100億円未満の小型グロース株を物色している。「どの銘柄の成長にも確信を持ててはいない。10銘柄に投資したら半分は失敗してもいいという姿勢で投資している」(かんちさん)

この先に相場がさらに下落すれば、数年で業績の回復が期待できる割安株を10銘柄ほどピックアップして買い下がる。逆に相場が反発すれば、総合商社株や銀行株を売却して利益を確定する方針だ。

「最近は増益予想で配当も増える銘柄の価格が上昇する傾向が強い。今のような不安定な相場では、高配当株を多めに組み入れておくといい。相場全体が下落する局面でも、下落幅が他のタイプの銘柄に比べて小さいことが多いからだ。私自身も運用資産を全て株に振り向け、配当と優待を受け取りながら相場の回復を待つ」と続ける。

運用資産の半分を待機資金に

「ロシアのウクライナ侵攻や米連邦準備理事会(FRB)の動向を伝える日々のニュースは、相場のボラティリティー(変動率)を高める要因になるだけ。相場の方向性を決定づけるものではない」

こう喝破するのは、18年にIT系の上場企業を早期退職して専業投資家に転身したすぽさん(ハンドルネーム、40代男性)。読者を巻き込んで個別銘柄を分析するブログ「すぽさん投資ぶろぐ」を運営し、個人投資家の間で人気を博している。

すぽさんは11年に予想PERが10倍前後の銘柄を買う割安株投資から、年率20%以上で業績を拡大する高成長銘柄の売買に転換。それが奏功して、運用資産を5年余りで10倍に増やした。

昨年に米国株がコロナショック後に発生したバブルの終盤に入ったと判断。同年12月に一旦、保有株を全て売却してポジション(持ち高)をゼロにした。現在は運用資産の半分を中小型のグロース株に振り向け、半分は待機資金にしている。

「以前は予想PERが50倍以上と割高なため、食指が動かなかったグロース株の価格がマザーズ相場の下落で調整し、予想PERが20~30倍台に下がってきている。そういう割安になったグロース株を仕込んでいく。相場が一段と下がって損失を被る恐れもあるが、それを覚悟の上でグロース株で勝負する」(すぽさん)

米国株のバブルは一気に破裂せず、空気が少しずつ漏れ出す形でしぼんでいる状態――。これがすぽさんの見立てだ。「このまましぼみ続けるのがメインシナリオだが、何らかのきっかけで反転して上昇相場に戻る可能性もある。米国株が再び大きく調整して、それに連動して日本株相場も大きく下がれば、待機資金を投入して割安になった成長株を仕込む。逆に上昇相場になれば、日米の相場が上値を追う展開になったのを見計らって、成長株を買い増す考えだ」(すぽさん)

「理想は、5年で利益が2倍になる可能性のある銘柄を予想PER20倍くらいの価格で買うこと。その理想に合致する銘柄が出てくる可能性があるので、あくまでグロース株に的を絞る。時価総額の大きいバリュー株の方がボラティリティーの高い相場でも値動きがマイルドで、調整時のダメージを軽減する効果が期待できることは承知しているが、大型バリュー株にはシフトしない」とすぽさんは力を込める。

3人のスゴ腕たちは投資スタイルや選好する銘柄のタイプは異なるものの、相場に臨む姿勢では共通している。相場の先行きを予測せず、「相場がこうなったら、こういう手を打つ」という複数のシナリオをあらかじめ用意している。だから、相場の急落や急騰に面食らって、慌てて対策を考えるという事態には陥らない。そして、相場の調整局面を好機と捉えて、割安になった有望株を仕込む。こうした姿勢を身に付けることができれば、ロシアのウクライナ侵攻といった突発事にも動揺せず、事前のシナリオ通りの投資を実行できるようになるだろう。

(中野目純一)

日経マネー 2022年4月号 中長期でがっちり儲ける 次世代10倍株
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2022/2/21)
価格 : 750円(税込み)
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