日銀総裁「26年までに判断」 デジタル通貨発行の可否

日銀の黒田東彦総裁は28日、中央銀行デジタル通貨(CBDC)を発行できるかについて「2026年までに判断する」と述べた。かねて「準備はするが発行計画はない」としてきた日銀が時期に触れたのは初めて。中国など海外で発行に向けた動きが加速し、政府もデジタル通貨発行に前向きな姿勢をみせるなか日銀も従来の姿勢を半歩、前進させた。
同日の衆院予算委員会で立憲民主党の中谷一馬氏が海外事例を踏まえ、2026年までに日銀もCBDCを発行できる状況が整うか質問した。黒田総裁は政府との調整などがあり、「確約はできない」としたうえで、個人的な見解として肯定した。今後は「制度設計の検討もそろそろ始めようと考えている」との考えも示した。
日銀は2021年度からCBDC発行に向けた実証実験を進めている。22年度には電源がない状態での決済や現金との交換など対象を広げて検証する。電子マネーを手がける民間企業とも連携し、具体的な利用シーンを想定した検証も進めている。
海外でCBDC発行に向けた動きはこの1~2年で急速に進んだ。中国ではデジタル人民元の導入に向け、すでに市民も参加した大規模な実証実験を始めている。慎重だった米連邦準備理事会(FRB)も20日に初めて、CBDCの報告書を公表した。利点やリスクについて民間からも意見を集める。
調査会社アトランティック・カウンシルの90カ国の集計ではすでに10%がCBDCを導入済みだ。さらに16%がパイロット実験を進め、17%が開発中だ。研究中も含めると、9割近くの国が準備を進めていることになる。
日本では先行して民間が動き出している。インターネットイニシアティブ(IIJ)傘下のディーカレット(東京・千代田)がメガバンクや大手事業会社とともにデジタル通貨の試験発行を目指している。こうした動きも日銀の背中を押している。岸田文雄政権はデジタル通貨の発行に前向きだ。
CBDC発行に向け慎重な発言が多かった日銀も「世界各国で真剣な検討が進む中で、発行しないということも大きな決断になってきている。現状維持はあり得ない」(CBDCを担当する内田真一理事)と前向きなトーンを見せ始めている。日銀内には「いざ発行が必要になったとき、準備ができていないということでは話にならない」との声もあり、徐々に雰囲気は変わりつつある。
もっとも、サイバーテロなど対処すべきリスクも多い。現預金がCBDCに次々と置き換われば、金融仲介機能や金融政策の波及経路への影響も大きい。日銀は課題を洗い出したうえで、詳細な制度設計を進めて発行できる体制の整備を急ぐ。