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中国資産バブルか失業増か、人民元高が孕むリスク

「海外の金融資産バブルがいつか崩壊するのではないかと非常に心配している」「副作用がすでに少しずつ明らかになってきた」「不動産バブルの傾向はなお強い」

筆者が講演した上海セミナーにて

3月2日の記者会見での中国人民銀行(中央銀行)の副総裁、郭樹清氏の発言だ。同氏は金融保険業界では泣く子も黙るといわれる中国銀行保険監督管理委員会(銀保監会)のトップも兼務する実力者である。中国人民銀行内でも共産党の序列は易綱総裁より高い。それゆえ発言も重い。

同氏は、海外資産バブルの中国国内への転移を危惧していた。

その懸念が最近の人民元高加速で現実味を増し、当局は、バブル退治に追われている。対ドルの人民元レートはおよそ3年ぶりの高値をつけている。新型コロナウイルス危機から、いち早く回復を見せた中国経済が欧米市場では好感されたのだ。

人民元高は中国への資本流入を加速させる。グローバルな視点では、先進諸国のコロナ有事対応経済政策の副作用として発生した過剰流動性が、世界を回遊して、今年は中国にも殺到した。

最新の事例では、高騰する鉄鉱石など国際商品の国内先物市場に乱入。商品の買い占め、退蔵、転売なども目立つ。そこで、商品取引所の証拠金引き上げなど緊急規制強化により、力づくで暴れる過剰流動性マネーを抑え込んでいる。

さらに、世界で投機化する暗号資産(仮想通貨)についても、マイニング(採掘)の取引規制強化に動いた。

それでも中国人民銀行が介入を控え人民元高を容認せねばならない理由もある。

まず、人民元を米ドル、ユーロ、円、ポンドに並ぶ国際通貨としての座を確立することが、習近平政権の長期通貨戦略だ。既に、国際通貨基金(IMF)のSDR(特別引き出し権)の構成通貨としては認められている。

次に、国内の特に債券市場育成のためには、海外機関投資家の参入が必須である。特にコロナ対応のばらまき政策の結果、負債をさらに増やす結果になった地方自治体は、今後、特殊な「融資平台」経由ではなく、地方債発行による資金調達へ移行せねばならない。そのためには債券市場のインフラ整備が不可欠なのだ。

国家戦略としても、国内の「大循環」と「国際循環」の「双循環」を掲げる。海外からのマネーと技術を呼び込むためには、国内市場の構造改革が必須である。

更に、人民元高には、輸入に頼る国際商品の国内価格を引き下げる効果もある。これは国内生産者には打撃となるが、川上の製造業部門の企業決算は既に好転している。いっぽう、川下の消費型産業は、消費マインド回復遅れで、苦戦を強いられている。そこに、生産者物価高が消費者物価へ転嫁される事態は避けねばならない。中国経済回復もK字型なのだ。

一方、人民元高は輸出産業の国際競争力をそぐ。これも避けねばならない。中国経済は2021年1~3月期の実質国内総生産(GDP)が前年同期比で18.3%増えた。しかし、前期比で見ると年率2.4%程度となる。当局が春節の帰省自粛を呼びかけるなどの行動制限で消費回復の重荷となったからだ。ここで輸出部門を痛めるような政策はマクロ的に打ち出しにくい。更に、シンセンなど輸出基地での失業増は社会不安を醸成する。これは中国共産党が最も警戒するところだ。

高過ぎず安過ぎず適度の人民元相場を模索する中国人民銀行の危うい綱渡りは続く。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuotoshima@nifty.com
  • 出版 : 日経BP
  • 価格 : 1,045円(税込み)

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