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年金の日に考えるFIREチャレンジ

知っ得・お金のトリセツ(70)

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一説によると日本には年間2000以上の記念日があるという。きょう11月30日は「年金の日」。提唱者は厚生労働省だけに苦しい語呂合わせだが、優しく受け流して年金と「いい未来(1130=イイミレイ→イイミライ)」に思いを致してみよう。

ということで、主題は今年マネー界を席巻した「FIRE(Financial Independence, Retire Early)」。早期に経済的自立を確立し、定年を待たずして職を辞する生き方のことだ。米国のミレニアル世代(現在25~40歳あたり)の心をわしづかみにしたメソドロジー(方法論)が日本にも今年、本格上陸した。

FIRE資金は人それぞれ

ヒットの理由はもろもろあるが、ゴールが可視化・定量化されること、さらにそのゴールを自分なりにカスタマイズできることが最大の魅力ではないか。「稼いで、ためて、投資で増やす」というマネープランの基本の歯車を自分の家計規模に応じる形でグルグル回す分かりやすさ。

手取り年収400万円だけど年200万円の節約生活に耐えられる人は残り200万円を資産運用に回せる。長期的にみてそこそこ標準的なリターンである4%運用を前提にすれば、生活費の25倍すなわち5000万円ためることができればリタイア可能というわけだ。手取り1000万円あっても年200万円しかためられない人のゴールのハードルは2億円に跳ね上がる。このようにシーソーの関係にあるFIRE資金は本来、人それぞれのはずだが最近は分かりやすさもあって「1億円」というゴール設定が多い。かくして投資で資産を築いた「億り人」とFIREが同義で論じられる傾向もある。

FIRE形態も人それぞれ

だが本場・米国でもFIRE形態はさまざま。確かに億り人並みの資産を持って引退する「Fat(太った) FIRE」もいるが逆に数千万円程度と、こぢんまりした「Lean(痩せた) FIRE」もいる。他に資産運用だけでなくサイドビジネス程度の勤労収入を組み合わせる「Side FIRE」や「Coast FIRE」というのもある。Coastは名詞の「海岸」ではなく動詞の「惰性で動く」の意。なる早でFIRE資金に育てる元本を準備して長期運用を行うが、投資のリターンには手を付けず労働収入で生活費を賄うスタイル。色々ある応用編の中でも興味深いのが「Barista(バリスタ)FIRE」だ。スターバックス的な店でパート就労するFIREだ。経済的自立を達成しながら、なぜ?

答えは医療保険。公的な国民皆保険制度のない米国の医療費の高さはつとに有名だ。このため健康保険目当てに企業に属するわけだ。経済的には自立しているので、収入源ではなくセーフティーネットの提供源としてバリスタなどストレスの小さい職業を選ぶことができる。

日本版FIREは公的年金をあてにできる

セーフティーネット付きFIREという考えを日本に敷衍(ふえん)すると、がぜん輝きを増すのが公的年金の存在だ。長年批判の対象だった年金制度だが2年前に「老後2000万円不足問題」が炎上したことでかえって明らかになった事実がある。標準的な夫婦2人のモデル年金を基に机上で計算すると、確かに家計は月5万円強の赤字になるが、それは基本的な生活費に事欠くレベルではなく「教養・娯楽費」と「交際費」を合算した「ゆとり部分」に相当する。つまり、ゆとりある老後を過ごすには年金プラス2000万円程度を準備しようという話だ。

年金に詳しいファイナンシャルプランナーの山崎俊輔さんは「公的年金をベースにした『日本版FIRE』ならいわゆる『1億円、4%』のFIREルールに縛られずに実現可能」と提唱する。例えば本来の退職時期を5年程度早める「プチFIRE」であれば、目標額は5年分の生活費+老後2000万円分=4000万~5000万円に下がる。1000万~2000万円程度の退職金が見込める場合、それ以外の資産形成ハードルはさらに下がる。

なんだかんだ言っても公的年金は死ぬまで定額が支給される最強の金融商品であることは間違いない(共助のシステム=保険なので純粋な運用商品と捉えるべきではないが……)。これを米国発の魅力的なアイデア、FIREとどうドッキングさせるか――。年金の日に考えてみたい。

★マネーのまなび YouTubeライブのお知らせ

11月30日(火)19時から『FP山崎さんが伝授 FIRE3つの掟』と題し、ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔さんをお招きしてYouTubeライブを行います。FIREに憧れている『なるほどポンッ!』の山本由里と、年金やFIREに詳しい山崎俊輔さんの掛け合いにご注目ください。事前登録は不要で下記のリンクからどなたでもご覧いただけます。

★YouTubeチャンネルのリンクはこちらです。
https://youtu.be/jpAHqfRIklo

★ゲスト山崎さんへの事前質問を受け付けます。こちらのリンクからご記入ください。
https://esf.nikkei.co.jp/fire/

★日経「マネーのまなび」YouTubeチャンネルはこちら。
https://www.youtube.com/channel/UCaD-0G5ElWKkHZZBIe4JH6w/
山本由里(やまもと・ゆり)
1993年日本経済新聞社入社。証券部、テレビ東京、日経ヴェリタスなど「お金周り」の担当が長い。2020年1月からマネー・エディター。「1円単位の節約から1兆円単位のマーケットまで」をキャッチフレーズに幅広くカバーする。

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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