植田日銀総裁、緩和継続「もう少し辛抱」 会見要旨

日銀の植田和男総裁は28日開いた金融政策決定会合後に記者会見した。会見の要旨は以下の通り。
問 今回の決定内容について。
答 長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)のもとでの金融市場調節方針について現状維持を全員一致で決めた。資産買い入れ方針についても現状維持を全員一致で決めた。先行きの金融政策運営に関する方針を整理・明確化したほか、過去25年間の金融政策運営について多角的なレビューを実施することを決めた。
問 経済・物価の見通しについて。
答 資源高の影響を受けつつも、景気は持ち直していると判断した。生鮮食品を除く消費者物価の上昇率は、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果によってプラス幅を縮小しているが、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から足元は3%程度になっている。先行きは価格転嫁の影響が減衰し、今年度半ばにかけてプラス幅を縮小していくが、その後は企業の賃金設定行動の変化などを伴い再びプラス幅を緩やかに拡大するとみている。
問 2%の物価安定目標の達成は近いか。
答 (今年度半ば以降)下がるところまではある程度の確度で見えているが、反転して上がるまでにはさまざまな前提が必要だ。ならすと2%に近い数字が続いているが、もう少し辛抱して粘り強く金融緩和を続けたいのが正直な気持ちだ。
問 物価が上振れて政策対応が後手に回るリスクはないか。
答 内外経済や金融市場を巡る不確実性は極めて高い。引き締めが遅れて2%を超えるインフレ率が持続するリスクよりも、拙速な引き締めで2%を実現できなくなるリスクの方が大きいと判断している。
問 多角的なレビューの目的は。
答 我が国経済がデフレに陥った1990年代後半以降、物価の安定の実現が課題となってきた。この間の金融政策の理解を深め、将来の政策運営にとって有益な知見を得るためレビューを行う。毎回の会合の決定が適切だったかという観点よりも、政策や手段、例えば時間軸政策や量的緩和政策などが25年間を振り返ってみるとどのくらいの効果を持ち、効果がもし期待されたほどではなかったとするとどういう外的条件あるいはやり方のまずさが影響したのかを分析する。
問 レビュー期間は政策変更はないのか。
答 目先の政策変更に結びつけてやるわけではない。その間に正常化を始める可能性もゼロではない。(政策変更は)毎回の決定会合で議論し、必要があれば実行する。現在は基調的なインフレ率が持続的・安定的に2%に達していないが、これが1年半の間に変わる可能性はゼロではなく、それに伴う政策変更はありうる。
問 客観性をどう担保するか。
答 外部の方の意見を聴取したり、途中の結果を色々な形で世に問うてブラッシュアップすることもしたい。
問 過去25年間の金融緩和は効果がなかったのか。
答 政策、時期によって濃淡はあるが、効果はあったと思っている。ただ、2%目標を達成するところまでインフレ率を持ち上げるという意味では十分な成功を収めてこなかった。
問 レビュー期間はなぜ1年〜1年半なのか。
答 私や新副総裁の任期は5年なので、任期中に結果を出して、それを残りの任期で役に立てたい。
問 YCCを維持する妥当性は。
答 短期金利がゼロか若干マイナスな中で基調的インフレ率も低く、さらなる金融緩和が必要ななかで考え出された政策と思う。インフレ率が上がると緩和効果は強まるが、同時に副作用も出てくる。効果と副作用を綿密に分析しつつ見守っていきたい。
問 引き締めまでいかずとも金融緩和の正常化を図る考えはあるか。
答 基調的なインフレ率が安心して2%と言えるにはもう少し時間がかかりそうなので、現行の金融緩和を継続するのが基本。副作用がところどころに出ていることも認めざるを得ないので、現在何かを考えているわけではないが、政策の効果と副作用のバランスは間違えないように常に注意深く分析したい。
問 フォワードガイダンス(先行き指針)から政策金利の文言を削除した理由は。
答 新型コロナウイルスにひも付けた書き方になっていて、そこがそろそろ整理して良い時期に来ているので、全体を大まかにカットした上で一番最初に金融緩和を粘り強く続けるという文言を入れ、その中で読み込むというふうに整理したつもりだ。
問 賃金の上昇見通しをどう見るか。
答 2%の物価目標の達成には物価だけが上がっていてはだめで、企業収益、雇用、賃金が増加するなかで物価が上がっていく状態であることが必要だ。
問 春季労使交渉(春闘)の結果は。
答 今年の春闘では予想をかなり上回る賃金上昇が生まれてきている。ただ、賃金が物価上昇に、さらにまた賃金の上昇につながっていくという循環を確認できる状況になるのを待ちたい。来年の春闘は非常に重要な要素だ。来年の賃上げの程度につながるような経済変数の動きを見ていく中で、持続的な2%が達成されそうだという判断に至る可能性も十分ありうる。
問 欧米の金融不安の影響は。
答 欧米の金融当局が非常に素早く対応し、不安の広がりのもとが個別行問題という認識が広がったことで、市場環境は一応安定している。潜在的には米国などで中堅銀行への不安が残っており、今後も注意深く見守らないといけない状態ではある。
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