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24年ぶり為替介入 円安時代に必要な国際分散投資

積立王子への道(61)

投資の世界で「積立王子」のニックネームを持つ筆者が、これから長期投資に乗り出す後輩の若者にむけて成功の秘訣を伝授するコラムです。

円の価格は長期的に国力を反映して決まる

為替相場とは、日本から見ると円を外国通貨に交換する際の取引比率の価格を意味し、価格は専らマーケットにおける需給で決まる。世界の基軸通貨であるドルとの取引が代表的で、要するにドルを買って円を売る人が多ければドル高・円安に進むわけだ。しかし長い目で見れば、円の価格動向は根本的な日本の対外的国力を反映して決まるとも言えよう。

第2次世界大戦で敗戦国となった日本の円は、戦後しばらく1ドル=360円の固定レートで取引されていた。そこから先人たちの努力で日本経済が競争力を高めて輸出大国として隆盛していく過程で、円高方向に価値を「切り上げて」きた。まず1971年のニクソン・ショックで変動相場制に変わり、1985年のプラザ合意以降は大幅なドル安・円高へと向かったんだ。輸出主導で成長してきた日本の産業界にとっては、厳しい逆風の環境を強いられたわけだが、一方で日本の経済大国としての相対的な資産価値は高く保たれてきた。円の強さは対外的な国力の裏付けとして見ることもできたわけだ。

これまでは円高を是正する介入が中心だった

2011年10月31日には1ドル=75円32銭という史上最高値を記録した後、アベノミクス政策が始まり大規模な量的金融緩和政策を背景に円安方向への水準訂正が進んだ。株式市場もこの円安の流れを好感し、大きく上昇トレンドを描いたことは若いキミたちの記憶にもあるだろう。それまでの間、円高が輸出産業に与える打撃を考慮して、ドル買い・円売りの為替介入は何度か実行されてきたが、今回のように円安に対処するためのドル売り・円買いの介入は実に24年ぶりだった。米国がインフレ抑制のために金利引き上げペースを加速させたことで、円は1ドル=145円台にまで急落するに至って政府・日銀がついに実力行使に出たわけだ。

為替取引は自由市場であり、水準はマーケットに委ねるというスタンスが中央銀行の原則だが、動きが大きすぎたり急すぎたりした場合、中銀が介入することは決して珍しくはない。一口に介入と言っても、要人が為替動向に言及して警告を発するだけの「口先介入」もあるが、今回の介入は実際に日銀がドルを売って円を買うという実力行使に出た。いわば中央銀行の資金力を投入し、力ずくで円安進行に歯止めをかける強い意志を示した。これが「伝家の宝刀」と言われるゆえんだ。

円買い介入には原資のドルが必要なんだ

しかし円高に対する円売り・ドル買い介入とは異なり、今回はドル売り・円買いのオペレーションなので、政府保有の外貨準備金としてのドルを放出して売る必要がある。日本の外貨準備残高は巨額とはいえ無限ではない中、放出できるドルにも限りがある。それに外貨準備が大きく減るようなことになれば、次は日本政府への信用低下を背景に投資家は円売り圧力を強めかねない。従って実際のドル売り・円買い介入効果は限定的と考えられており、だからこそ伝家の宝刀はよほどでなければ抜くべきではないものなのだ。

今回の実力行使では1ドル=145円台にまで下落していた円は急速に一時140円台まで水準を戻した。日銀が本気で円安阻止に動いたという事実のメッセージ効果は大きい。この水準が円安阻止の防衛線であるとマーケットに印象づけたわけで、市場参加者はこの先この水準を超え、つまり日銀のファイティングポーズにあらがって戦いを挑むかのように、円売り・ドル買いを進めることに強い心理的抵抗を感じるだろう。

長期的な通貨のリスク分散を考える契機に

現在の為替相場をマトリックスでみると、ドルの独歩高であり円だけでなく世界の主要通貨が軒並み相対的に価値を下げている。こうした極端な現象は、通貨当局が無理やり介入せずとも、やがて是正されていくはずだ。しかし円の相対的価値は、日本の長年にわたる経済力の低下傾向に鑑み、下落していく可能性は考慮しておくべきだろう。そもそも私たち日本人は円で給料をもらい、老後の年金も円で給付される。そして生涯最大の買い物といわれる居住用の不動産だって円建てが普通で、私たちの生活は円資産に偏重しているのだ。従って長期資産形成を国際分散投資で行い外貨建て資産を保有することには、円下落リスクを考慮した資産防衛効果もあることを、今回も再度力説しておきたい。

中野晴啓(なかの・はるひろ)
セゾン投信株式会社代表取締役会長CEO。1963年生まれ。87年クレディセゾン入社。セゾングループ内で投資顧問事業を立ち上げ、運用責任者としてグループ資金の運用等を手がける。2006年セゾン投信(株)を設立。公益財団法人セゾン文化財団理事。一般社団法人投資信託協会副会長。積み立てによる長期投資を広く説き続け「積立王子」と呼ばれる。『預金バカ』など著書多数。

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積み立て投資には、複利効果やつみたてNISAの仕組みなど押さえておくべきポイントが多くあります。 このコラムでは「積立王子」のニックネームを持つセゾン投信会長兼CEOの中野晴啓さんが、これから資産形成を考える若い世代にむけて「長期・積立・分散」という3つの原則に沿って解説します。

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