お金の「ウェルビーイング」を考えてみよう
お金のウェルビーイング(1)

2023年、最初のテーマは「ウェルビーイング」とお金の関係です。近年、「幸福」という言葉より広い意味で私たちの幸せを考えるキーワードとして「ウェルビーイング」という言葉が流行しています。
企業経営目線で考えることも多いキーワードですが、私たち自身の人生と、そしてお金の視点から考えてみたいと思います。
肉体的、精神的、社会的なバランス
ウェルビーイングという言葉が最近注目されています。辞書を引くと「幸福」という訳が書いてありますが、その後に「快適で満足した状態。健康(幸福)な状態」(ウィズダム英和辞典)といような補足もあり、単純な幸福を意味するわけではないことを示唆しています。
広く議論されているウェルビーイングは「肉体的、精神的、社会的」という要素がポイントとして掲げられ、わたしたちの幸福はこれらのバランスの中で構成されているそうです。
幸せというのは一様ではありません。家族が円満であっても経済的貧困状態では不安が消せず、かといって経済的に豊かであっても、孤独が辛いという人は幸福ではありません。
社会的なつながりも重要です。仕事を通じて得られる達成感や満足は私たちのウェルビーイングを高めてくれます。お客さまの「ありがとう!」という声、同僚の「おつかれさま!」というささいな会話も、私たちにとっての幸せを構成するピースのひとつなのです。
あまり注目されませんが、日本という国に暮らしているわたしたちは、生命の安全が確保されており、水道や電気、道路といったインフラが安定して維持されています。海外に出ると、無料で当然のことと思っていた「安全や安心の価値」を知ることになります。これもまた「見えにくいが、失われると強く実感されるウェルビーイング」です。
なお、ウェルビーイング論について理解をスタートするための入門書として「幸せのメカニズム」(著:前野隆司/講談社現代新書)をご紹介しておきます。
企業経営者が着目する「ウェルビーイング経営」
このウェルビーイングというキーワード、すでに目にしている人は「ウェルビーイング経営」という文脈で言葉を理解されているかもしれません。
社員のウェルビーイング向上を意識し、経営指標の一部に採り入れる企業が増え始めています。かつて「健康経営」というキーワードが流行したときは、社員の肉体的な健康管理が意識されました。重大疾患の早期発見・早期治療を目指したり、社員のメンタル上の安定が得られたりすれば、ひいては企業の生産性向上にもつながるという考え方でした。
ウェルビーイングを掲げた場合、ここからさらに踏み込んで、もっと広く社員の幸福を考えます。
別の目線でいえば「ホワイト企業」というキーワードがこれに近いかもしれません。ハラスメントが横行し、長時間労働を低賃金でさせているため、社員がゾンビ化しているような職場環境を「ブラック企業」といいます。こうした企業はイノベーションは起こせず、生産性向上は見込めません(長時間労働していても)。社員のやる気があまりにも低く、疲弊しているからです。
ウェルビーイング経営を実践する企業は、社員が幸福感を覚えており、愛社精神を持っている人材だからこそ、生産性が高まったり創造性が発揮されたりすると考えています。
ホワイト企業の姿勢はしばしば「社員にやさしい『ぬるま湯』のような会社」「余裕があるからできる取り組み」のようにみなされます。実は逆で、ホワイトであることは会社を強くする取り組みだったというわけです。
経営目線の話はこのくらいにして(さらに興味のある方は日経新聞電子版記事をキーワード検索してみてください)、もう一度個人の目線に戻ります。
「ファイナンシャル・ウェルビーイング」を目指す
ウェルビーイングが企業経営戦略として流行しているといっても、本来的には個人の問題です。会社が押しつけたところで本人が幸福感を感じなければ意味がありません。
この「押しつけではない」というのはウェルビーイングとしても重要なことで、やらされていたり当たり前に与えられたりしているものより、自分自身の理解や行動により獲得できるほうが、私たちに強い幸福感を与えてくれます。
しかし、自分の内面から、自然とウェルビーイングがむくむく湧き上がってくるわけではありません。私はファイナンシャルプランナーですから「お金と幸福の関係」を考えてみたいと思います。例えば単純なマネープランにおいても、
・1カ月のやりくりができること(赤字にならないだけでなく、生活の満足度も確保することが大事)
・将来の経済的不安が大きくないこと(ゼロにはできないが一定の対策はしておくことが大事)
のようなことは、実現できなければわたしたちの「ウェル」は低下しますし、問題解消ができればウェルビーイングを高めることになります。お金と幸福度は密接にリンクしており、いってみれば「ファイナンシャル・ウェルビーイング」を考えることが必要になってきているというわけです。
多様化する時代の「幸福」とは
ファイナンシャル・ウェルビーイングを考えるとき、重要な視点がもう一つあります。「個人的」であることです。一定のテンプレートはあっても、幸福感は個々人の心情によるところが大きいからです(もともとのウェルビーイングもそうですが)。
節約はできていてもストレスを抱えながら実践しているのであれば、あまり幸福度は高くありません。これはお金をためるという未来の安心を得る行為ではあっても、目の前の自分を不幸にしているケースといえます。
貯金ゼロで消費欲をすぐ満たすタイプの人はどうかというと、こちらも問題があります。目の前の生活は幸せそうで一見するとウェルビーイング的ですが、未来の経済的不安を認識しておらず刹那的な幸福感かもしれません。
仕事も、年収上昇を優先して自分を見失うより、納得のいく年収であれば自分の時間・家族との時間を確保するほうがウェルビーイング的には好ましいかもしれません。
ライフスタイルにもよります。おひとりさまのウェルビーイング、子育て夫婦のウェルビーイング、共働き家族のウェルビーイング、それぞれ幸福の基準は違ってくるでしょう。
これはまさに多様性の時代を象徴しています。ファイナンシャル・ウェルビーイングは、お金の問題を語りつつ、個々人の「幸福」を軸に考えるところにその価値があるといえそうです。
来週以降も「ウェルビーイング」とお金の関係を考えてみたいと思います。
◇ ◇ ◇
「FP山崎のLife is MONEY」は毎週月曜日に掲載します。

ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔氏が若年層に向けて、「幸せな人生」を実現するためのお金の問題について解説するコラムです。毎週月曜日に掲載します。