/

円安局面の資産防衛、長期国際分散投資に解

積立王子への道(51)

投資の世界で「積立王子」のニックネームを持つ筆者が、これから長期投資に乗り出す後輩の若者にむけて成功の秘訣を伝授するコラムです。

日本は長らく円高に苦しんできた

1985年の「プラザ合意」以降、日本は円高進行に悩まされ続けてきた。自動車や電気製品に代表される製造業の輸出主導で高度経済成長を遂げてきた日本経済にとって、円高は輸出の対外価格競争力を低下させる要因だった。従って国内の輸出産業は円高の逆風を和らげるべく生産拠点を海外に移転するなど、円高克服へと努力を続けたんだ。それでも輸出で稼ぐ日本の貿易構造の基本は変わらず、円安は輸入物価が上昇するデメリットよりも輸出産業が受ける恩恵の方が大きいとして、これまでの円安傾向では貿易黒字が増えるとともに、株式市場もポジティブと捉えて株高で反応してきたわけだ。とりわけ1ドル=70円台の強烈な円高に苦しんでいた日本が採用した「アベノミクス」では、未曽有の金融緩和政策を推進して意図的に円安方向へ誘導、株高を演出したとさえいわれている。

政府も意図しない「悪い円安」?

ところが今回は政府の意図せざる円安のようだ。米国ではコロナ後を見据えた需要の急増が想定以上のインフレ高進をもたらし、米政策当局が金融政策を緩和から引き締めへと急転換せざるを得なくなった。すると米長期金利の上昇が加速して、ゼロ金利の金融緩和を続ける日本との金利差が拡大している。高い金利の通貨が買われるセオリー通りの動きだ。

さらに加わるのが日本経済が抱える構造的課題だ。1つは主要国で断トツの「借金王」である日本政府の財政状況が、金融引き締め(利上げ)を困難にさせていること。日本が円安是正へと金利を引き上げれば、ゼロ金利政策下で調達コストが極限的に抑えられてきた日本国債の利払い負担が増大。一段の財政悪化が避けられず、最悪の場合、日本政府の信用不安にもつながりかねない。

追い打ちをかけるエネルギー問題

さらに深刻なのはエネルギー問題だ。ロシアへの経済制裁で急騰した原油や天然ガスなどの資源価格が日本のエネルギー輸入物価を大きく押し上げ、経常収支は赤字に転落してしまっている。これまで円の国際的通貨としての信認を支えていたのは経常黒字構造、つまり貿易と対外純投資で稼げる構造だ。これがもし経常赤字の常態化した国に転落するとなれば、日本から恒常的に富が流出して行くことになる。そうなれば通貨円の信認は低下し、一段の円安が進みかねない。おまけに日本の産業界は今やバリューチェーンのグローバルシフトを進めていて、以前ほどの円安メリットは得られなくなっているしね。

日本は主要国で唯一、長きにわたって国民所得が増えていない。その状況下での円安は、国際社会における購買力を減少させ、窮乏化に拍車をかけ長期的な日本経済の衰退をもたらす「悪い円安」につながりかねない。だからこそキミたちが取り組んでいる長期国際分散投資が有効だ。海外資産を積極的に保有することで円資産の地盤沈下に対する資産防衛効果が期待できる。残念ではあるが、グローバルに投資することは長期的な円安傾向を考えれば至極合理的な行動であることを、意識しておくべき時代になったわけだ。

中野晴啓(なかの・はるひろ)
セゾン投信株式会社代表取締役会長CEO。1963年生まれ。87年クレディセゾン入社。セゾングループ内で投資顧問事業を立ち上げ、運用責任者としてグループ資金の運用等を手がける。2006年セゾン投信(株)を設立。公益財団法人セゾン文化財団理事。一般社団法人投資信託協会副会長。積み立てによる長期投資を広く説き続け「積立王子」と呼ばれる。『預金バカ』など著書多数。
新社会人応援コンテンツ

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

積み立て投資には、複利効果やつみたてNISAの仕組みなど押さえておくべきポイントが多くあります。 このコラムでは「積立王子」のニックネームを持つセゾン投信会長兼CEOの中野晴啓さんが、これから資産形成を考える若い世代にむけて「長期・積立・分散」という3つの原則に沿って解説します。

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン