金融リテラシー向上で未来つかむ 資産運用で得る幸福 - 日本経済新聞
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金融リテラシー向上で未来つかむ 資産運用で得る幸福

お金のウェルビーイング(5)

今月はお金と幸せの関係をファイナンシャル・ウェルビーイングというキーワードで考えてきました。最終週はあなたの人生において幸せをつかむための重要なピース、金融リテラシーの獲得です。

あなたの幸福度を高める力

金融リテラシーの向上がいま求められています。学校では金融経済教育も一歩深まり、社会的な取り組みも充実しつつあります。

お金と幸福の関係を考えるファイナンシャル・ウェルビーイングの観点では、適切なお金の知識を持つことは大きく人生の幸福度に影響してくると考えられます。

・しっかりビジネススキルを養い、能力に応じた報酬を得られる仕事に就く
・家計をコントロールし、収支を黒字化させることで日々の生活を安定させる
・中長期的な未来の資金ニーズを捉え計画的に準備し未来の経済的不安を軽減させる
・安全性の高いお金の増やし方(預金など)と、リスクを取ったお金の増やし方(株式や投資信託など)をバランス良く組み合わせて効率的に資金を増やしていく
・お金は「借りるときは慎重に、返済は急ぐ」ことで不要な利息返済に追われる人生を回避する
・社会保障制度の基礎的な理解を踏まえ、自ら備えるべき保険に適切に加入し、リスクに備える

といったことをひとつひとつクリアできれば、お金の不安を減少させることになり、人生の幸福度を高めていくことにつながります。

お金の不安がある状態で幸福度を高めるのは難しいことです。どんなに仲の良い円満な家族であっても、日々の食事に事欠くような状態では幸福であるとはいいがたいですし、職を失って来月の生活が不透明な状態では幸せとはいえません。

目の前の仕事と支出の問題だけではありません。中長期的な将来の資金ニーズを的確に把握し、そのための準備を行っている人は、積立定期預金や積み立て型の少額投資非課税制度(つみたてNISA)、個人型確定拠出年金(iDeCo)などを有効活用していると思います。こうした資産形成層とそうでなかった人たちでは、老後の安定はどちらが確実かはいうまでもないことでしょう。

基礎的な金融リテラシーを有し、また必要に応じた行動をすることが、お金の不安を解消し幸福を手に入れることにもなるはずです。

投資を通じて幸せになるためのアプローチ

株式や投資信託は、インフレを上回るお金の成長をもたらすことが期待できる資産運用の選択肢です。お金を効率的に増やすことができれば、準備のための負担を軽くし、また将来の資金ニーズを実現することができます。

将来の資金ニーズを計画的にかつスピーディーに充足できれば、人生の満足度は高まります。ファイナンシャル・ウェルビーイング的にもプラスです。しかし、投資を通じたウェルビーイングはそれだけではないかもしれません。

世の中を豊かで便利にすることが企業の成長の原動力であり、投資のリターンの源泉です。だとすれば、投資をすることはあなたのお金が世界の豊かさ実現のために用いられることになります。

今すぐには必要としない資金を企業の経済活動に供することで、世の中にイノベーションや豊かさが生まれたのなら、私たちはこれを自分の幸福感に加えてもいいと思います。

もっともシンプルな形は個別株投資による企業活動の応援でしょう。がんばっている企業の株を買ったところ、その企業が何かしらの新商品を発売、大ヒットになれば投資家としてのリターン獲得(株価の急上昇)だけではなく、サポーターとしての満足も得られます。

投資を単なるマネーゲームとして捉えるのではなく、こうした社会的な側面にも目を向けてみると、私たちはもっと幸せな感情を持ちつつ投資と向き合えるのではないでしょうか。

ふるさと納税ではない寄付の幸せ

社会とのつながり、支え合いを認識し、またそこに自分が参加することで得られる幸福感情もあります。寄付がそのひとつです。

基本的に寄付は「資産のマイナス」です。あなたに物質的なプラスをもたらすことはありません。しかしファイナンシャル・ウェルビーイングの観点ではそれだけではありません。あなたの心にウェルビーイング的なプラスが生まれるからです。

小学生が「赤い羽根共同募金」におこづかいを少しだけ投じ、誇らしげに胸元に羽根をつけているとき、100円が財布から失われたとしても、心の豊かさを手にしています。

大人もこうした感覚をもう一度思い出してみたいものです。税制的には寄付金控除があり、活動実態が認められている団体への寄付の一部が還付金の対象となりますが、そういう損得はあくまで副次的なものです。

何かあなたの中で応援したい活動や取り組みはないでしょうか。寄付は具体的な活動への賛同を示すことが前提です。シングルマザーのサポート、貧困家庭の子どものサポート、新興国での教育支援や産業振興支援など、いろいろな取り組みがあります。

少額でもいいですし、数千円から数万円を出せれば理想的です。ぜひ寄付をしてみてください。

なお、ここでいう寄付には、ふるさと納税の寄付金控除を利用するやりくりは含まれません。居住地以外へ税をつけかえることで返礼品を得る方法はモノなどの見返りを目当てにしており(確かにお得な幸せ感はありますが)、本来の寄付の趣旨とはちょっと違うものだと考えてみるといいでしょう。

最後のピース 社会と自分へのゆるやかな信認

今月はお金と幸福の関係についていくつかのポイントで考えてきました。働きがい、支出や節約といった日々の家計にもお金と幸福のヒントがちりばめられているという気づきがあればと思います。

最後に指摘したいのは、究極的にはお金の問題はあなたのウェルビーイングの「中心」ではない、ということです。あくまでウェルビーイング向上のための「ピース」であって、それそのものが幸せを得るものではないのです。

同じ家計状況であっても、いつもネガティブに考えている人と、前向きに考えて向き合っている人がいます。節約を楽しめるかどうかのマインドが、あなたの幸福度を左右します。

1億円の資産があったほうが幸せにはなりやすいかもしれませんが、家族不和の状態にあったり孤独を抱いている人なら幸福度は下がるでしょう。

人生のパートナーを見つけ、共に時間を過ごすことはお金で買うものではありません。しかし、パートナーと楽しく安心して暮らしていくためにはお金の問題を解消していく必要があります。なかなか一筋縄ではいかないところが、おもしろくもあり、難しいところでもあります。

しかしひとつ言えることがあるとすれば、ポジティブに世の中と向き合い、自分と自分を取り巻く社会をゆるやかに信認してあげられれば、また前向きに未来を見据えられるようになれば、日本人の幸福度はもっと高まるということです。

「人生の自由度」「他者への寛容」「国への信認」といった項目が日本人は低く、これが国連が毎年実施している「世界幸福度告報告(ワールド・ハピネス・リポート)」で日本が中〜下位に沈む理由となっています。

これらは、お金の問題が解決するというよりは経済的安心を獲得できれば自然と高まっていく要素なのかもしれません。あなたのファイナンシャル・ウェルビーイング、少し考えてみてはいかがでしょうか。

◇  ◇  ◇

FP山崎のLife is MONEY」は毎週月曜日に掲載します。

山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ)
フィナンシャル・ウィズダム代表。AFP、消費生活アドバイザー。1972年生まれ。中央大学法学部卒。企業年金研究所、FP総研を経て独立。退職金・企業年金制度と投資教育が専門。著書に「読んだら必ず『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」(日経BP)、「日本版FIRE超入門」(ディスカバー21)など。http://financialwisdom.jp

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ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔氏が若年層に向けて、「幸せな人生」を実現するためのお金の問題について解説するコラムです。毎週月曜日に掲載します。

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