デジタル証券で社債 預金より高利回り、オマケの付与も
デジタル証券投資入門(3)

事例① 丸井グループ エポスポイントを利息に上乗せ
「少額から気軽に資産形成に取り組める商品が欲しい。そんなお客様の声がデジタル社債をやってみようと思ったきっかけだった」
こう振り返るのは、丸井グループ取締役常務執行役員の加藤浩嗣さんだ。同グループは、積み立て型の少額投資非課税制度(NISA)に対応した投資信託の積み立てサービスなど、既に資産形成のツールを提供している。だが、今回はこれまでとは一線を画した取り組みだったという。
「お客様にとって社債はあまりなじみのない商品。どのぐらい受け入れられるか全く予想できなかった」と加藤さんは話す。
蓋を開けると1億円の発行予定に対して、約20倍の申し込みが殺到した。「結果的に抽選となり、発行額も約1億2000万円に増やした」(同)

今回の募集は、エポスカード会員に限定。1年の保有で金銭0.3%、エポスカードのポイント0.7%と、合計1%の利息が付く。調達した資金は、グループが出資しているスタートアップを通じて発展途上国のファイナンス支援に使う。実際の効果やエピソードを、丸井グループの「応援投資」のサイトでリポートする予定だ。
利息への課税にも配慮
「事前のアンケートでは、社会貢献ができる点に興味を持った人が8割もいた。購入されたお客様からも社会貢献と資産形成を両立できる点が好評だった」(加藤さん)

今回の募集は、野村証券にコンサルティングを委託したが、発行から販売・管理までを全て自社で行った。「お客様はエポスカードのアプリから当社の社債に申し込む形だ。社債は法律上カード決済ができないため、カードの明細には記載されるが、銀行から引き落とされるだけでポイントは付かない。ただし、ゴールド・プラチナカードのボーナスポイントの利用額としては加算される」
1%の利息にかかる税金はポイントから引き、0.3%の金銭部分の利息は減らないようにした。
「今年9月以降で、今回と同程度の規模の発行を予定している。目標は社会貢献と資産形成の両立だ。法律上はまだ難しいが、ゆくゆくは社債をいつでも買えるような仕組みを作りたい」(加藤さん)
事例② SBI証券 仮想通貨を希望者にオマケとして贈呈
SBI証券は、昨年4月に自社のデジタル社債を1億円規模で発行した。連載の第1回で紹介した通り、発売後2時間で完売したほど人気を集めた。
SBI証券経営管理部次長の有吉哲男さんは「今後ST商品は発行が増え、当社としても扱いが増えると予想している。そのオペレーションを構築するためのテストケースとして行ったが、予想を超える需要があった」と語る。
幅広い年齢層が購入
購入者の属性としては、社債の投資経験者が多かったが、1口10万円と小口化したことで若い層も呼び込めたという。

「デジタルという特性上、もっと若い人に偏るかと思っていたが、投資経験がある60代以上にも広く売れており、特にデジタルだからということで抵抗はなかったようだ」と有吉さんは振り返る。
今回発行した社債は1年で償還した。利率は0.35%だった。さらに希望者には暗号資産(仮想通貨)の「XRP」を、1口10万円につき10XRP付与した。これは4月19日開示時点の時価としては1859円相当に値した。
「この仮想通貨のオマケがあることが、目新しさにつながったのではないか」と有吉さんは分析する。
「XRPは、当社グループの出資先で提携先でもある米リップルが発行しているもので、PRにもなる。受け取りには仮想通貨を取り扱うグループ会社の口座が必要だが、新規に開設していただいたケースが大半だった」(有吉さん)
主軸は企業発行の社債
SBI証券でSTを購入する場合には、STの特性やリスクについて理解した上で、専用口座を開く必要がある。
「今後は企業が発行するデジタル社債の取り扱いを増やしていく予定で、むしろそちらがメイン。既にご相談も来ている」。有吉さんはこう話し、次のように続ける。
「今は初期投資のコストがかかっているが、効率化できる部分はある。削減できたコストを投資家に還元できれば差別化にもつながる。前向きに対応していきたい」
事例③ JPX グリーンデジタルトラックボンドを開発
日本取引所グループ(JPX)は今年6月、機関投資家向けにデジタル社債を発行した。国内で発行が急増するグリーンボンド(環境債)と組み合わせたのが特色だ。
「実はグリーンボンドを発行する企業や自治体と投資家にはそれぞれ困り事がある。それらを解消できるスキームを作れないかと考えたのがきっかけだった」(フロンティア戦略部課長の高頭俊さん)
例えば、グリーンボンドを発行する企業や自治体は太陽光やバイオマスで発電した電力量だけでなく、どれほど二酸化炭素(CO2)の排出量を減らせたかもリポートで開示する義務がある。発電所は山奥に造ることも多く、そこまで見に行く手間やコストがかかるため、意外と負担が重い。リポートのレベルもまちまちで、中にはざっくり全体の結果しか出ていないものもある。
さらに、グリーンボンドをうたいながら実際には環境に投資していない事例もあるという。投資家側からすれば、自分が出したお金がどのぐらい環境に貢献したのか分からず、果たしてパフォーマンスが良い投資だったのかどうか分からないのが課題だったそうだ。
個人向けの発行も検討
そこで発電所に備え付けられているスマートメーターから発電量のデータをシステムに送信できるようにし、リアルタイムで発電量とCO2削減量のデータを蓄積できる仕組みを作ることにした。「投資家が自分の投資額に応じて、どのぐらいのCO2削減ができたか分かるリポート機能もデータから自動作成できるようにし、透明性を高めた」(高頭さん)
今回は自社発行だが、将来はグリーンボンドによる資金調達を行いたい企業にこの仕組みを使ってもらいたいという。
「個人向けの発行にも対応していきたい。例えば、高校生がお年玉でグリーンボンドを買って投資デビューをするような未来が訪れたら、素晴らしい」(高頭さん)
(ライター 大上ミカ)
[日経マネー2022年9月号の記事を再構成]
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