/

美点を見つけて褒めるのが夫婦円満の鍵 梶原しげるさん

フリーアナウンサー 梶原しげるさん

――文化放送のアナウンサーを経てフリーに転身。テレビやラジオなどで幅広く活躍してきた梶原しげるさん。2021年11月に自身の夫婦・家族関係やキャリアの軌跡をつづったエッセイ『妻がどんどん好きになる』を上梓しました。結婚生活40年超にして、「第2のハネムーン」を迎えているそうですね。

私は71歳、妻は72歳の老夫婦ですが、古希を迎えて改めて、「なかなかいい結婚をしたな」と思うようになりました。といっても、ずっと夫婦仲が良かったわけではないですよ。若い頃の私は仕事最優先。「家族のために働いているんだ」と思い込み、家のことは一切せず、妻のことを避けていた時期もありました。

でも40代半ばで妻が大病を患ったことをきっかけに、私自身の働き方や暮らし方、妻との関係性が少しずつ変化し始めました。夫婦で様々なことを乗り越え、支え合いながら歳月を重ねるうちに、若い頃以上の深い愛やいたわり合う気持ちが生まれてきました。

今二人で出掛ける時はいつも「手に手を取って」います。これは仲むつまじいことの比喩ではなくて、現実にそうしないと前に進めないのです。妻は病気の影響で時折足元がふらつくので、私がしっかり彼女の手を握って、一歩一歩ゆっくり歩く。手をつないで共に歩くことで、心も深くつながるようになったと感じています。

――奥様の病気が判明したのは1995年。夫婦とも40代、梶原さんはフリーに転身後、忙しさの絶頂にあった時期でした。

92年に文化放送を辞めてフリーになってからは、早朝から深夜まで本当に忙しかったですね。文化放送の社員時代から2000年まで12年続いたラジオ番組「梶原しげるの本気でDONDON」をはじめ、テレビ番組のレギュラーも多数。仕事は選ばず、時間さえ空いていればどんな依頼でも引き受けていました。

当時の私は、仕事も収入も増えてまさに「イケイケ」(苦笑)。仕事の忙しさを言い訳に妻の存在を顧みなくなっていました。あの頃の夫婦関係は、はっきり言って険悪だったと思います。

「奥さんの病気を放置して、あなたは何をやっていたのか」

そんな中、妻は様々な体の不調に悩まされるようになっていました。痛みに耐えかねるようになって検査を重ねたところ、脳外科で受けた検査で「アーノルド・キアリ症候群」と診断されました。

――どんな病気なのでしょうか。

小脳の奇形によって運動機能に支障が出る難病です。「手術をしなければ、体が全く動かなくなることもあり得る」と検査に当たった医師に告げられて言葉を失いました。ぼうぜんとしていた私に、その医師は強い口調で「奥さんの体の痛みを知らなかったのですか? こんなにひどくなるまで放っておくなんて、一体何をやっていたのですか」と。仕事ばかりしていて、妻とろくに向き合っていなかった私には返す言葉もなく、「手術をお願いします」と返すので精いっぱいでした。

手術は無事成功しましたが、それで病気の進行が止まるわけではありません。術後も予断を許さない深刻な病状ということで、妻の入院生活は2カ月に及びました。

当時、長女は中学生、長男は小学生。それまで家のことは妻に任せきりだったので、どうしたらいいのかと途方に暮れました。

――家事はどうしたのですか?

長女が頑張ってくれました。毎日学校が終わった後、母親の病室に行き、家事や買い物はどうする、料理は何が簡単にできるかなど、様々な指南を受けて、家事をこなしてくれるようになりました。私は時間が空いた時に子供たちをファミレスに連れて行く程度。情けないですよね。

当時の私は早朝から深夜まで仕事に追われ、睡眠時間の確保もままならなかったため、空いた時間に横になれるよう都心に部屋を借りていました。でも、妻の入院中は何があっても家に帰ろうと決め、どんなに遅くなっても家に帰るようにしていました。

――梶原さんの心身にもかなりの負担がかかっていたのでは。

そうですね。仕事でも家のことでも無理を続けていたからでしょうか、その頃から猛烈な偏頭痛に見舞われるようになりました。脳神経外科で検査を受けましたが、「異常なし」。しかし偏頭痛は治まらず、しばらく突然の激痛に悩まされ続けました。妻のことが心配だけど仕事も子供のこともしっかりしないと、という状況が続き、ストレスで体が悲鳴を上げたのかもしれません。

「働き方や生活を変えないと、自分が病気になる」というところまで追い詰められて、やっと仕事のペースを落とそうと決意することができました。退院した妻と一緒にいる時間をつくり、ゆっくり向き合うようになって夫婦の関係も少しずつ変わっていきました。

考え方を変えれば悩みは消える

――その後、梶原さんは心理学を学ぶために大学院に入学します。50代を目前に、「学び直し」を決意したきっかけは?

1冊の本との出合いです。仕事が落ち着いて自分の時間を持てるようになると、これからの生き方や人生について漠然とした不安を抱くようになりました。「この先どうやって生きていけばいいのか」と悩んでいた時に、カウンセリング心理学者である國分康孝先生の『〈自己発見〉の心理学』という本を書店で偶然手に取ったんです。そこにあった「考え方次第で悩みは消える」という一文で、重苦しかった心がスッと軽くなるのを感じました。一気に読み終え、國分先生の下で学ぼうと決意して、1年間予備校に通い猛勉強。49歳で東京成徳大学大学院に入りました。

――大学院ではどんなことを学んだのでしょうか。

國分先生が専門とする「論理療法」です。簡単にいうと、「人間の悩みは、出来事そのものが原因ではなく、その出来事をどう受け止めるかによって変化する。悩みを解消するためには、ものの考え方を変えるといい」――というもの。大学院では座学だけでなく、カウンセリング現場に行ったり、助手をしたりと実践的なこともたくさん学びました。

中でも実生活でとても役立っているのが、カウンセリング用語でいう「コンプリメント」。相手のいいところを見つけて褒めることをいいます。人間はつい他の人の悪いところに目が行きがちですが、粗探しをし合っても、何もいいことはありません。

一方で、長所のない人などいません。相手のいいところを見つけて褒めることを意識するだけで、人間関係はとても良くなることをカウンセリングを通して実感しました。今も家庭でコンプリメントを実践していて、毎日妻のいいところを見つけては、褒めるようにしています。

――毎日顔を合わせている夫婦で互いを褒め合うのは照れくさい、と感じる人も多そうです。

いえいえ、夫婦だからこそお互いを褒め合わないと。長い老後を幸せに暮らすために、夫婦仲の良さはものすごく大切だと思います。そのためには、どうしたら相手が喜ぶか、居心地がいいと感じてくれるかを考えて、行動に移すことが大切です。夫婦のコミュニケーションが足りないと感じている人は、ぜひ今日から実践してみてほしいですね。

――梶原さん自身は、これから挑戦したいことはありますか?

実は21年から、オンラインの話し方講座をアナウンサー仲間たちとスタートさせました。相手にきちんと「伝わる話し方」を学ぶための「ツタバナ」という講座です。話し方のテクニックだけでなく、自分の気持ちや思いが伝わる話し方を、しゃべりのプロが教えます。

学びに来る人の多くは、第一線で活躍しているビジネスパーソンです。これまでは上の人の話を聞いていればよかったけれど、キャリアを積んで今度は自分が部下に話をしなくてはいけなくなった、というケースが多いですね。レッスンの合間に色々と雑談するのですが、皆さんそれぞれの分野のプロフェッショナルで、私も非常に多くのことを学ばせてもらっています。

――「伝わる話し方」をするには何を意識したらいいのでしょうか。

自分が話したいことだけを話すのではなく、相手のニーズはどこにあるのかを探りながら話すことだと思います。相手のことを考え、どんなことなら興味を持って聞いてくれるかを意識したいですね。

この1年半余り、コロナ禍で人とのコミュニケーションが制限された状況が続きました。人と楽しく話をする時間の大切さを改めて感じている人は多いのではないでしょうか。人と語り合う楽しさを思い切り感じてもらうために、自分の経験を役立てていけるといいなと思っています。

(撮影/工藤朋子 取材・文/佐藤珠希)

[日経マネー2022年2月号の記事を再構成]

梶原しげる(かじわら・しげる)
1950年神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送にアナウンサーとして入社。1992年にフリーとなり、テレビ番組の司会やラジオパーソナリティーとして活躍する。49歳で東京成徳大学大学院に入学、心理学修士号を取得。同大客員教授を務める。シニア産業カウンセラー、認定カウンセラー、健康心理士の資格を持ちカウンセラーとしても活動。『おとなの雑談力』など著書多数。
『妻がどんどん好きになる』 梶原しげる著/光文社/1650円(税込み)

フリーアナウンサーの草分け的な存在として、テレビやラジオで幅広く活躍してきた著者。仕事に打ち込んでいた40代半ばに、妻が小脳の難病を発病する。仕事最優先だった生活を変え、妻、そして自分自身と向き合い直す日々。時折足元がおぼつかなくなる妻と手をつないで散歩をしたり、何気ない会話を楽しんだりしながら年を重ねるうちに、「妻がどんどん好き」になっていることに気付く――。夫婦が互いを思い合い、支え合いながら、幸せな老後を過ごすためのコミュニケーションのヒントが詰まった一冊。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

「お金のことを本でも学びたいけど、たくさん出ていてどれを読んだらいいか分からない」。初心者の方からよく聞く話です。そこでこのコーナーでは「お金×書籍」をテーマとして、今読むべきお金の新刊本や古典の名著などを紹介し、あわせてお金の本の著者にも読みどころなどをインタビューします。

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン