NY市場での為替介入の実相、これからどうなる
介入前日の20日から、異変の兆しは起こっていた。前回本欄でも紹介したが、債券王と呼ばれるグンドラック氏が、「10年債と30年債の利回りが4.13%(20日時点)の同水準。これは、年内金利上昇ピークアウトの兆候」とツイートしたのだ。カリスマゆえ、慌ててドル買い・円売りポジションを巻き戻す投機筋も少なくなかった。
さらに、追い打ちをかけるように、21日のウォール・ストリート・ジャーナル紙に「12月も0.75%利上げするかどうかは、11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の検討事項」として、先走る市場に待ったをかけるがごとき観測記事が載った。同紙のFEDウオッチャー、ニック・ティミラオス記者が書いた原稿だ。
同氏は、例えば9月7日には、9月FOMC利上げが0.5%ではなく0.75%になりうるとの観測記事を書いて、結果的には予測的中となるなどの前例もあり、市場も無視できない。日本では日経の記事がビジネスマンの間で引き合いに出されるように、NYでは「ジャーナル」の記事がなにかと話題にされる。
カリスマ債券王の警告に次ぎ、FOMC記者会見常連記者の原稿と、金利下落をにおわせる報道に、真っ先に反応したのが、米債券市場。2年債も10年債も利回りが0.1%程度急落した。4%の大台を突破したあとも、なおも上昇が続いていたので、サプライズ性はあった。
米株式市場も待ってましたとばかりの買いが集中。ダウは2%ほど急騰。ドルインデックスは113台から111台に急落。米株式市場が寄り付いたのが日本時間午後10時半。外為市場のドル円異変はその1時間ほど後に起きた。急速に140円台半ばまで円急騰。「BOJ介入か」。深夜の筆者のところにも、NY市場からチェックが入った。筆者も早速、深夜YouTubeで異変の実態を知らせた。なお、144円は、NY市場で確認できていない。
その後の展開は、既に詳細に報道されている通りだ。介入の評価を、サーフィンに例えれば、今回は当局もうまく円買いの波をつかまえ、乗った感がある。
前回の本欄で「筆者が、もし介入担当であれば、そのような(ドル金利ピークアウトのような)地合いのときに、たたみかけるように円買い・ドル売り注文を集中させ、投機筋にお灸(きゅう)をすえるが、それは民間の発想か」と書いたが、官の発想でもあったようだ。
結果的に、特に超短期投機筋の円売り派がかなり振り落とされ、140円台後半の値固めに資する流れとなっている。
ただし、カリスマ警告やFEDウオッチャー観測で、米金融政策が変わるはずもない。市場が一喜一憂しているだけだ。グローバル・マクロ系ヘッジファンドなど中期運用派は、総じて値固め役を演じてくれて「介入歓迎」の姿勢継続である。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙の観測記事にしても、様々なFRB高官発言の一部を引用している。しかし、米連邦準備理事会(FRB)の姿勢は、総じて、利上げが「より高く、より長く=higher,longer」との方針で一貫している。ヘッジとして、その副作用は不可避ということも覚悟のうえと語り、攪乱(かくらん)的な利上げはいかがなものか、などの表現が見られる。
とはいえ、9月時点ではFOMC参加者19人のなかで17人が年末政策金利について4.4~4.6%を予測していたが、現時点では、少数意見ながら内部結束にやや乱れが生じていることはたしかだ。パウエル議長も調整に時間を割いていることであろう。
結局、米利上げの趨勢も円安の今後の展開も、今後の米国の重要経済指標次第ということだ。今回の円安は、節目節目がNY市場で突破され、NY市場主導の流れとなっていたが、介入までNY市場で「アウェー」のせめぎ合いを強いられることになった。外国人投機家に、「永遠のハト」と呼ばれる日銀の「錦の御旗」は通用しない。東京市場での円乱高下はスルーされている。

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