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習近平氏は恒大を救済するか、危うい綱渡り

23日の米株式市場でダウ工業株30種平均は506ドルの急反騰を演じた。米連邦公開市場委員会(FOMC)でパウエル議長が、量的緩和縮小と利上げのデカップリング(分離)の姿勢を明示したことが、利上げは急がずと解釈された。さらに中国の不動産会社、中国恒大集団(エバーグランデ)についてはリーマン級ショックは回避されるとの慎重な楽観論が台頭してきた。中国人民銀行(中央銀行)が1.5兆円相当の過去最大規模の緊急流動性投入を行ったと外電が報道したことも好感されている。

恒大ショックについては、依然、政府が救済するか否かが不透明だ。会長が世界的富裕長者の超大手不動産企業を救済することは、富める者から貧者への所得再配分を掲げる「共同富裕」政策に逆行する。

とはいえ、このまま破綻を放置すれば、中国経済の国内総生産(GDP)減速、さらに不動産依存の中国地方経済への悪影響は不可避となる。中国では不動産および関連セクターがGDPの29%程度を占めると推定されるほど、レバレッジ(過剰債務)で膨張している。一方、中国個人の資産保有は不動産の割合が半分以上を占め、不動産価格下落による負の資産効果がマクロ消費分野を押し下げるリスクが無視できない。

さらに恒大集団は、自社の業績にリンクする理財商品を売りまくり、資金不足の補塡手段とした。年率7%程度のリターンをうたったが、実際の運用先は闇の中である。販売方法も、グッチの宝飾品やダイソンの空気清浄機を「おまけ」として提供するなど、派手なマーケティングが目立った。多くの理財商品購入者が「虎の子」を失い、恒大本社に押し掛けた。感染力が強いデルタ型の懸念による個人行動制限強化、持ち家の価値急減などが重なり、中国共産党が最も嫌う「社会不安」の兆しが視野に入る。

かくして習近平(シー・ジンピン)氏は、極めて危うい政策的賭けを強いられている。

現実的シナリオとしては、「厳しく管理されたデフォルト」が、軟着陸と強硬着陸の折衷案として浮上している。

具体的には、地方政府と大手国営関連企業が経営を引き継ぐ「海航方式」がモデルケースとなる。同社は海南航空を中核とする複合企業で国際化路線拡大により業績を上げたが、過剰債務の重みに沈んだ。2020年、海航集団は、海南省の再建専門チームを受け入れ、政府系投資会社と海南省経済開発区の幹部を取締役として選任した。

ここでのポイントは、地方政府が国有地を切り売りして、さらに地方融資平台という特別目的機関を通し、巨額の地方債(城投債)を発行して、いわゆる「箱もの投資」に走ったことだ。いまや、地方政府財政は不動産相場依存型となった。大手不動産開発企業が破綻すれば、不動産価格の下落を招き、地方財政は危機的状態となる。恒大危機の最大の問題点が、ここにあると説く中国人学者も少なくない。それゆえ、恒大再建に地方政府が直接関与することは喫緊の課題なのだ。

さらに恒大問題は、中国経済モデルが、不動産事業が主導するインフラ投資主導型から、国内消費・ハイテク環境関連産業主導の新常態へ転換するキッカケにもなり得る。この産業構造の転換は、かなりの荒療治だが、不動産分野は既にオールド・エコノミーの代表格なのだ。そもそも少子高齢化、農村部から都市部への人口移動一巡の現状で、さらなる成長性は見込めない。

とはいえ、経済構造の転換には良質な資金によるファイナンスが不可欠だ。不動産や仮想通貨投機に走る国内投資マネーではなく、海外の機関投資家マネーの参入が必要なのだ。特に、中国国内債券市場のインフラ再構築は避けて通れない。これまでは、城投債を大手国策銀行に割り当て保有させるなど、官主導の市場であった。渋る民間銀行に対して、中国人民銀行が「適格担保」扱いという「甘味剤」を付与していた。この旧態構造を変えるには、市場原理で動く海外マネーの流入による流動性増加が必須といえる。

一方、米国の大手金融機関も米国内市場が飽和状態となり、海外、特に中国マネー取り入れが戦略的最優先事項だ。あのトランプ時代でさえ、米国金融大手トップの訪中など民間経済外交は続いていた。バイデン時代に入り、例えばゴールドマン・サックス証券の中国現地法人も、米側の出資比率が100%となった。競合他社も相次いで中国での事業拡大を急ぐ。米中経済対話のなかでも、米系資本の中国参入は、両国に恩恵をもたらす、最も受け入れやすい事項である。

ワイルドカードは、中国側の大企業たたき。情報漏洩リスク、寡占リスクが嫌われ、狙い撃ちされている。

恒大問題も、あえてステルス救済の道を選ぶにしても、「共同富裕」の観点から、見せしめ的に、恒大会長立件などの可能性がある。会長の妻が、これみよがしに同社理財商品を購入して見せるなどの行動が報道される状況を見るに、こじつけで拘束する事態が絵空事とはいえない。なりふりかまわぬ習近平氏の強権政治が、恒大問題にも影をおとしている。

恒大危機に関して、リーマンショックとの相似点をあら捜しするより、中国経済の今後を占う試金石として注視するマクロ経済の視点が重要であろう。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuotoshima@nifty.com
  • 出版 : 日経BP
  • 価格 : 1,045円(税込み)

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