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仕事の最優先事項は相手のニーズを知ること(鎌田實)

マネーの履歴書 医師・作家・鎌田實さん

医師の鎌田實さんが、2021年12月に『ちょうどいい孤独』を上梓した。ひとり時間を見つめ直すことを説いた同著では、30代の若さで諏訪中央病院の院長に就任し、「あたたかな医療」と「赤字病院の再建」の両立に奮闘してきた経験にも触れている。鎌田さんは、お金とどう向き合ってきたのか。

ビジネスや人生を成功させるためには「自分を養う時間」が必要です。医者として今までたくさんのシーンに関わってきましたが、家族がいても、最期の最期は個人戦。いつも誰かを頼りにしていると人生の主人公になれないし、不安と不満の中で死んでいくこととなります。

一方で、「孤独の健康被害は肥満の2倍」という研究もある。要は人との関わりを築きながら、「ちょうどいい孤独」を持つことが求められます。

僕自身は、小さい頃から孤独な時間が多かった。母が重い心臓病で、父は入院費を稼ぐために夜遅くまで働いていたからです。「病気の母が高齢で出産できたのか」と疑問に思っていましたが、のちに、僕は幼い頃に実の両親と別れてこの家に来たのだと知りました。

医師を目指したのは高校生の時だった。

貧乏から脱出したかったし、読書が好きだったから、たくさん本を読んで世界を見て歩ける人間になりたかった。そのためには医学部へ行って医者になるのが一番だと思ったんです。

25歳の時に東京医科歯科大学医学部を卒業して、長野県の諏訪中央病院に赴任しました。同級生が誰も東京を離れようとしない中で、「地方の赤字病院なんてやめておけ」と忠告を受けたことも。でも僕は出世や派閥なんかに興味はなくて、「医者がいなくて困っているところに行った方が、青年医師でも役に立てるのでは」と思ったんですね。そういう面では怖いもの知らずなのかもしれません。

39歳の時、若くして同病院の院長を任せられる。

「30代で院長」というのは、公立病院ではものすごく珍しいと思いますが、「良い病院をつくりたい」という僕の意志を皆が評価してくれたのだと思いました。力を入れたのが、年間80回ほど地域の公民館で行っていた、「健康づくり運動」という食事や運動の指導。予防医療に目を向けたのは、「自分がこの地域の住民だったら何をしてほしいか」と考えた結果です。

当時の長野県は脳卒中の多発地域で、「脳卒中になって高度医療で命を取り留めるより、病気にならないようにしてくれた方がうれしいのでは」と気付きました。

「大学閥にとらわれない自由さ」も病院の魅力として大切にしました。指導に来てくれる教授の大学閥にもこだわらないことで、「諏訪中央病院なら臨床医としての実践力が上がる」と評判になった。医者の集まらない病院だったから、「どこの大学を出ていてもやりたいことができる」といって若い医者が集まることが重要だったんです。若い人が集まると職員の意欲も高まって、経営がうまくいくようになりました。

鎌田さんが常に心掛けているのは、「他者が何を求めているのか」を考え続けることだ。

病院を立て直しましたが、一度も「お金を儲けよう」と思ったことはありません。「患者さんの最期までできることをやるあたたかい医療」を目指してきたのみです。

1991年に日本チェルノブイリ連帯基金(JCF)を設立して以来、様々な地域を支援してきましたが、「何が欲しいか」と必ず支援先に聞いています。先日も、ウクライナからポーランドに避難した子供に話を聞いたら、「学校の遠足に行くお金がない」と。僕も子供の時に同じような経験をしたな、と思い出しました。

でも貧乏ながらに拾ってくれた父や母のおかげで、こうやって生きてくることができた。病弱な母を支え続けた父、人に親切にすることを教えてくれた母に倣って、できる支援を行い続けます。

鎌田實さんのターニングポイント


●39歳の若さで諏訪中央病院の院長を任されたこと
「相手のためにできること」を考え続け、そのニーズに応えることで赤字病院を立て直した。一方で、「経営を黒字にしながらあたたかな病院をつくる"綱渡り"は大変だった」(鎌田さん)と振り返る。

●父の反対を受けながらも、医学部を目指した
家が貧しかったため、父には医学部進学を反対された。「自分にも他人にも厳しい人だった」(鎌田さん)。最終的には反対を押し切り、「貧しさから脱出し、人を救う」という夢をかなえた。
「マネーの履歴書」は、様々な分野の第一線で活躍する人のマネーヒストリーやお金哲学を紹介するコラムです。
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(聞き手は大松佳代)

[日経マネー2022年8月号の記事を再構成]

日経マネー 2022年8月号 波乱も乗り越える 勝ち組投資家大研究
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