スゴ腕個人8人の22年投資戦略「急落時には買い向かう」
アイルさん、株水兵さん、DAIBOUCHOUさん、名古屋の長期投資家(なごちょう)さん、なちゅさん、弐億貯男さん、まつのすけさん、ろくすけさん
日本株は「まだ割安」だが一部に過熱感も
スゴ腕投資家たちは、足元の日本株相場の水準をどう見ているのか。8人に尋ねたところ、6人が「株価水準はまだ割安」と答えた。「全般的に割高」と答えた弐億貯男さんも含め全員に共通する見方は、「一部の銘柄に人気が集中して過熱感がある一方、割安な銘柄も多い」こと。弐億さんは、「AI(人工知能)関連などの中には、高PER(株価収益率)だった銘柄の株価調整に引きずられて値下がりしている成長銘柄が出てきている」と指摘する。
22年の投資環境については、「21年と同様に、日経平均株価が3000〜4000円の値幅で上下する変動率の高い相場が続く」との回答が目立った。割安成長株投資を手掛けるアイルさんは「企業業績は新型コロナウイルス禍から徐々に回復に向かう」と予想する一方、岸田文雄政権が金融所得課税の強化を掲げていることから、「増税路線は株価に逆風」として攻防が続くとみる。
一方、上昇相場の再来を予想するのは、配当株投資で1億円超の資産を築いた会社員投資家・名古屋の長期投資家(なごちょう)さん。「日本株は配当性向が低く、自社株買いが少ないため、BPS(1株当たり純資産)が積み上がっている。BPS拡大に応じて株価も上がりそう」と分析する。
22年の投資姿勢については、「これまでの投資手法を継続する」が7人と多かった。「現時点では日経平均株価が大きく上昇する材料や、2万円まで下落するような材料は出てきていない」(弐億さん)、「相場がどのような環境になろうとも配当の最大化を目指す目的は変わらない」(なごちょうさん)などの理由が挙げられた。
一方、「投資手法を全面的に変更する」と答えたのは優待株投資を手掛けるなちゅさん。金利低下を背景に資金が向かっていたグロース(成長)株を徐々に手じまい、大型のバリュー(割安)株に寄せるという。さらに「インフレに備えて資源価格との連動性が高い銘柄も組み入れる」との戦略だ。
人気テーマは「DX」「次世代自動車」「脱炭素」
22年に上昇が期待できる有望業種は何か。スゴ腕たちからは、DX(デジタルトランスフォーメーション)や次世代自動車、脱炭素など様々なテーマが挙がった。下の表は、有望と挙げた人数が多い順番にランキングしたものだ。

例えばDXについて「新型コロナの感染拡大が落ち着けば、基幹システムなど会社全体の情報システムへの投資がこれから具体的に動きやすくなる」と期待を寄せるのは、中小型株を得意とするベテラン投資家のDAIBOUCHOUさん。3億円超の運用資産を築きアーリーリタイアを果たした専業投資家のろくすけさんは、有望銘柄として地理情報システムを手掛けるドーンや、食品や日用品メーカーなどを対象に商品情報データベースシステムを販売するeBASEを挙げる。もっともDXは「主要なテーマとして今後も続いていく一方、既に株価が高騰している銘柄も多い」(アイルさん)点には注意が必要だ。
「バッテリーを中心に半導体や電気系統の需要が高まり、幅広い恩恵がある」(DAIBOUCHOUさん)とされる次世代自動車もスゴ腕が挙げる有望業種の一つ。イベント投資に強いまつのすけさんが狙い目とするヤマハ発動機やトヨタ自動車は、それぞれ水素エンジンの実用化に向けた研究、全固体電池の開発などを進めている。
脱炭素は「コストなどのマイナス面がある一方、最新の省エネ設備への買い替え促進など、投資テーマになり得るプラス面も多い」(DAIBOUCHOUさん)。短期運用と中長期運用を組み合わせてヘッジを図る投資手法の株水兵さんは、「脱炭素が有力だが、有望業種はその時その時で移り変わるだろう」との見解を示した。
最大のリスクは金融所得課税
22年の日本株相場のリスク要因では、警戒する人が最も多かったのは岸田政権の増税だ。株式の配当や売買にかかる金融所得課税の強化を巡る議論は続いており、株式市場に逆風になるとの警戒感がある。次いで、中国の不動産大手、中国恒大集団など大手企業の経営危機や不動産バブルへの懸念、幅広い業界への規制強化など中国の政治・経済リスクが続いた。コロナの変異型「オミクロン型」が国内でも確認されたことで、第6波の到来を警戒する声も多かった。

相場急落があれば買い出動
こうしたリスク要因の影響などで、20年3月のコロナショックのような相場急落が再発した場合、どのような対応を取るべきか。なちゅさんは「当時のように流動性が提供されるかなど、各国中銀の対応を注視の上で検討したい」と回答。ろくすけさんは「投資先ごとの優先度に応じて、優先度の低い銘柄を売り、高い銘柄へ集中を図る」と言う。保有株数の少ない銘柄を売却し、資金をつくった後で、集中投資を進めていく方針だ。
常に買い付け余力を残しているという弐億さんや、基本的に10%の損失で損切りするというまつのすけさんは急落時、業績への影響が小さいにもかかわらず株価調整に巻き込まれて下落した銘柄に買いを入れると言う。「株価の底をピンポイントで当てるのは難しいので下落している途中は購入せず、下落が止まって反発したような動きになってから買うのがいい」(まつのすけさん)。なごちょうさんは、銘柄入れ替えの他、預貯金を投入して割安な銘柄を購入。アイルさんは、これまで割高で手が出せなかった成長株が急落すれば投資したいと言う。
「短期のポジションは損切り、中長期のポジションは継続する」と話すのは株水兵さん。「長期のポジションは急落が何度かある想定で保有する」(株水兵さん)。DAIBOUCHOUさんも10%程度の調整では慌てず現物株式を保有。「投資資金で生活をしていない兼業投資家の場合、下手に動くと裏目に出やすいため動く必要はない」とアドバイスする。
(井沢ひとみ)
[日経マネー2022年2月号の記事を再構成]
著者 : 日経マネー
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