ドル高が重しのマクドナルド ここからの投資妙味は?
エルさん&たぱぞうさんのアメ株辛口ジャッジ(6)

苦戦の理由はどこに
同社には「インフレ」と「ドル高」という2つの逆風が吹くが、それらをこなせているのか。2022年7〜9月期決算は市場予想を上回ったが、結果は減収減益。売上高が前年同期比で5%減少し、営業利益は7%減、純利益は8%減となった。

インフレ下ではファストフードの需要が底堅く、コストの増加は価格転嫁によって対応できているようだ。メニュー価格を前年同期比で1割ほど引き上げたが、既存店売上高は世界で9.5%増加。米国では6.1%増加した。エルさんは、「外食チェーンの中でも、世界的に知名度が高い同社の優位性が生きる場面となっている」と分析する。
対して、業績の重しとなっているのがドル高だ。同社によると、為替の影響を除いた場合の22年7〜9月期の売上高は前年同期比で2%増、営業利益は1%増、純利益は1%減になるという。海外事業の利益が為替で圧迫されていることがうかがえる。
減収減益でも市場の評価は高い。株価は20年のコロナショック時に120ドル付近まで下落したが、同年夏にはショック前の水準にまで回復。その後は緩やかな上昇トレンドを描き、22年7〜9月期の決算発表後も260ドル付近の水準を保つ。たぱぞうさんは同社株について、「生活必需品株のように底堅い値動きをする」と話す。

判定のポイントは
億万投資家の2人はマクドナルド株についてどのように見ているのか。「強気」「中立」「弱気」の3段階で判定してもらった。結果は、エルさんが「中立」、たぱぞうさんが「強気」だった。
たぱぞうさんは、「米国の景気後退が意識される状況では一層、ディフェンシブ的な面が強みとなる」と分析。「米国のターミナルレート(利上げの到達点)が5%近くの高水準とみられている中では、まだハイテク株に資金が集まりづらい。同社のような業績に安定性のある銘柄が選好されるだろう」と続ける。
長期的に見ても、まだ事業の成長余地があるという。売上高の海外比率は約6割で、「新興国のマーケット拡大を期待できる」(たぱぞうさん)。
一方でエルさんの判定は、「大きな株価上昇が見込みづらい」という見立てによるもの。ビジネスモデルが堅牢で市場から常に高く評価されているということは、言い換えれば「割安な水準で仕込むのが難しい」ということだ。
「巨大企業というスケールメリットもあり、安定的に稼ぐ力もある。ただそうした面は投資家から十分に評価されており、株価が一段と上昇するためには他の材料が必要となる」(エルさん)
売上高の伸びも近年は緩やかだと指摘する。こうした観点からエルさんは、「投資家の資金がハイテク株に向いた時の方が、比較的割安に仕込むことができるだろう」と話す。
業績の足を引っ張るドル高については、億万投資家のどちらも強くは懸念していないようだ。エルさんは、グローバル企業としての歴史が長い点に着目。「今まで幾度となくドル高に悩まされた局面はあったはずで、ノウハウは蓄積されているだろう」と分析する。さらに「金利上昇も23年には落ち着くとみられており、ドルの独歩高がずっと続くとは考えづらい」と付け加える。
むしろ直近の懸念事項は金利負担にあるという。「同社はレバレッジを利かせた経営で知られるが、高金利下ではそれがかせとなる」とエルさんは指摘。ただキャッシュフローが安定しているため、経営への影響は限定的とみる。
2人の見立てをどう生かす
たぱぞうさんは「株価が常に堅調で、不況下でも投資家から評価される」という点に注目した一方で、エルさんはその"評価の高さ"から株価の上昇余地が大きくない点をマイナス要素と判定した。この結果をどう捉えるかは、投資スタイルによるだろう。
安定成長を求めるなら買いも一手であるし、より高い成長性を求めるのであれば他の銘柄に資金を振り向けた方がいいかもしれない。ポートフォリオのバランスを見て、ディフェンシブ株の一種として組み込むことも考えられる。

株価の安定的な上昇は見込める。投資スタイルによっては買いも


(大松佳代)
[日経マネー2023年3月号の記事を再構成]
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