預金 VS 個人向け国債 知っておくべき注意点
知っ得・お金のトリセツ(104)

「普通の金利の300倍もお得なキャンペーンのご案内です」。ポストに入っていたチラシ広告が気になった。怪しい商品の勧誘ではない。ごく一般的なちまたの銀行の預金の宣伝だ。最近「金利上昇」とかまびすしいせいか、この手の勧誘が増えた気がする。まだコンマ以下の大した金利でもないのに、一体どんなオススメをしてくれるのか? 気になって表記のコールセンターに電話をしてみたところ、たびたびアタマに「?」が浮上する、なかなか興味深い時間となった。たまたま担当の方の属人的な問題だったのかもしれないが、これから久しぶりに「金利のある世界」に戻る過程では各所で様々な展開も考えうる。金利に関する情報をうっかりうのみにしないよう、まなびに満ちた体験をシェアしたい。
「普通の預金金利の300倍の高金利です」
くだんの預金は「当行と初めてお取引されるお客様」用の金利優遇キャンペーン。5年定期預金(固定型)で「年0.30%」の金利が目立つように大書されている。現在のメガバンクの普通預金金利0.001%との比較で「300倍」ということらしいが、普通預金と定期預金の金利を並列で比べるのはおかしい。我々預金者は「どうせどっちも金利なんてないし」と考えるクセを付けられてしまったが、いつでも引き出し可能な普通預金と違い、一定期間は引き出せずお金を「塩漬け」する必要のある定期預金はその分金利が高いのが当たり前。メガの定期預金金利0.002%と比べてせめて「150倍」とすべきだ。
金融商品の金利を比べる時は種類・年限をそろえるのが大前提。退職金の受け皿としてありがちな預金の例だが「年12%(1カ月満期)」とあれば12カ月分の1カ月で本当の年利は1%の商品。実際にはそこから20.315%の税金がとられるから「年0.8%弱」が真の姿だ。
「はい、5年分確実にお利息が入ります」
この商品は5年物なので塩漬け期間も5年と長い。その間金利環境がどう変わっても「0.3%なんですね?」と確認したところ、なぜか胸をはって「はい、固定金利は途中で利率がコロコロ変わらないので当てにしていただけます。5年分この金利で確実にお利息が入ります」とのこと。
いや、ちょっと待って。今は金利上昇局面。長期金利は一時7年半ぶりの水準に上昇している。運用時には変動金利を選択して短い期間で預け替え、金利上昇に沿って動くのが正しいセオリーだ。今時点の金利ランキングだけで選んで塩漬けてしまえば、後で年0.5%、1%……と金利の高い商品が登場しても指をくわえるしかなくなる。
そもそも「5年物」というのは期間が長い割に金利の上乗せはさほどでもなく、預金者にとって不利な商品との見方もあった。実際同じパンフレットで宣伝している2年物が0.25%と大差がない。
「なんと言っても元本割れなし」
一方、現在募集中の個人向け国債(変動10年)の初回適用利率は0.33%。10年物とはいえ満期まで保有する必要はなく、発行後1年たてば直前2回分の利子が差し引かれるペナルティーだけで中途解約できる。5年で解約すれば同期間の預金と遜色ない仕上がりになるのでは? この点をぶつけてみたところ「国債は有価証券なので『投資』。投資には元本割れリスクがありますがその点、預金は『貯蓄』なので元本が減ることはありません。5年後に預けた額は確実に戻ります」とのこと。
「貯蓄から投資」の国策を真っ向否定するコメントだが、これはこれで正しい。確かに債券投資は株式投資ほどハイリスクハイリターンではないにせよ元本割れリスクがあり、今のような金利上昇局面では要注意だ。だが個人向け国債の場合は別。償還まで持てばもちろん、中途解約時でも額面での買い取りを国が約束している元本保証だ。しかも「変動10年」の場合は変動金利であり半年に1回、その時の金利水準に応じて利率が見直されるというメリットまでついている。
いずれにしても問題は実質金利
根強い元本保証ニーズも分かるが、時はまさにインフレ懸念の折。0.30%にしても0.33%にしても表面的なコンマ以下の金利を競ったところで物価上昇率には遠く及ばない。22年12月の消費者物価指数は前年同月比4.0%上昇と41年ぶりの上昇率を記録した。物価を上回る賃上げや運用リターンが確保できなければ実質的な購買力は下がる一方。これが一番大事な実質金利の考え方だ。仮に2%で物価が上昇し続ける環境では「72の法則」(72÷金利≒元本が倍になる年数)を援用すれば、36年で資産価値が半減することが分かる。
今は凍り付いていた金利が動き始めた段階。土台の長短金利が動きだせば、時差を伴いつつもその上に立つ全ての金利体系に影響を及ぼす。かつてはわずかとはいえ物価上昇率を上回る金利が付いていた預金だが、金融機関の戦略次第の面もある。今はまだ預金金利という割高な仕入れコストを払ってまでお金を調達する意味は薄い。預金を選ぶのであれば一部のエッジの効いたネット預金が提供する普通預金で様子見するのも一案。加えて個人向け国債の変動10年で金利変動に対応しつつ、実質リターン引き上げのためには株式投資などを組み合わせる必要がある。大事なのは「思考停止預金」からの卒業だ。

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