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日銀、審議委員の棄権で浮かぶ一票の軽さ

日銀が18日に開いた金融政策決定会合の結果が波紋を広げている。論争の的は政策の中身ではない。問われているのは、決定会合の採決時の前代未聞の「棄権」だ。

この日、すべての議案の採決を棄権したのは29日に5年間の任期を終える政井貴子審議委員だ。政井氏は7月1日付で三菱ケミカルホールディングスなどの社外取締役に就任する予定。日銀によると、棄権の理由は「金融政策に関する意思決定の中立性・公正性を明確にするため」だったという。

政井氏は外資系銀行から新生銀行に移り、執行役員などを経て2016年に日銀の審議委員に就いた。日銀の最高意思決定機関である政策委員会は正副総裁3人と6人の審議委員で構成する。全員が衆参両院の同意を得て内閣が任命する「国会同意人事」の対象だ。このため騒動の余波は永田町にも及んだ。

「再就職先と国会をてんびんにかけるのか」。22日朝、国会内の立憲民主党控室。立民の安住淳国会対策委員長は日銀の理事らと向き合い、厳しい言葉で責め立てた。続いて開いた与野党国対委員長会談でもこの件が議題となり、自民党の森山裕国対委員長は「国会で承認を受けて仕事するのは非常に重い。採決だけを(棄権する)というのはいかがなものか」と記者団に語った。

1998年4月の新日銀法施行で政策委員会が現在の体制になってからの棄権は2004年12月以来だが、これは10、11月の決定会合の議事要旨の採決を、12月に審議委員に就いたばかりの水野温氏氏が棄権したものだ。今回のように議長(日銀総裁)が提案した金融政策の議案に関する採決での棄権は過去に例がない。

永田町でのさざ波をよそに、今回の棄権を問題視する市場関係者はほとんどいない。そもそも政井氏が議長提案に反対票を投じたことは就任以来一度もなく、今回の会合でこれまで通り大規模金融緩和の維持に賛成票を投じたとしても「中立性や公正性」への疑念を生んだとは考えにくい。日銀関係者からは「棄権しなくても特に問題視されずに終わったのでは」との声も漏れる。

過去には総裁を支える執行部の副総裁が議長提案に反対票を投じたり、5対4で執行部提案が通ったりしたこともあった。意見が割れることの是非はともかく、執行部の票読みには緊張感が漂っていた。東短リサーチの加藤出社長は「今回はそうではなかったが、今後、一票が結論を左右する場合にどう判断するのか。政井氏と同様の立場となった場合についての一定の原則論を示す必要がある」と指摘する。

ただ現実には一票が重みを持つ局面から遠ざかって久しい。9人の政策委員のうち積極的な金融緩和や財政出動を主張する「リフレ派」は4人を占める。ひとりが棄権したところで大勢に影響なしと市場が見透かしていることに問題の本質があるのではないか。

日銀審議委員はその立場の重みから、高い規範意識が求められるのは言うまでもない。と同時に、大規模緩和に異を唱えないことを最優先に人選し同意してきたのは政府と国会でもある。前代未聞の棄権が浮かび上がらせたのは、国会で承認した一票の、どうしようもない軽さだといえる。

(学頭貴子)

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