老後の2000万円、実は「趣味・生きがい」予算
趣味と生きがいのお金(4)

今月は「趣味と生きがいのお金」の話をしてきました。ここまでは主に現役時代の予算管理の話をしてきましたが、最終週は年金生活者の趣味とお金の話をしてみたいと思います。
老後は「毎日が日曜日」 趣味が重要に
現役時代は会社員として多忙な生活をしていたら、趣味に使える時間はわずかです。平日になんとか3時間ほど確保、週末は12時間ずつ確保したとします(土日は日中のほとんどを趣味に使う前提なのでやや非現実的ですが)。これで1週間の趣味時間は39時間。52週間、つまり1年で2028時間を趣味に回すことができます。
しかし老後は「毎日が日曜日」です。先ほどの12時間をそのまま7日と掛ければ1週間で84時間の趣味時間が手に入ります。単純に2倍も自由に趣味や生きがいに時間を振り向けることができます。年間4368時間もあるのです。
22歳から65歳(43年)までを現役時代、65歳から90歳(25年)までを老後と大別したとして、趣味時間の合計をみると差は開きます。現役時代が8.7万時間のところ、老後の趣味時間は10.9万時間にもなります。
老後の期間は短くても、趣味に回せる時間ははるかに多く取れるわけです。
となると、セカンドライフこそ「趣味をみつけること」と「趣味を楽しむ予算を確保すること」が重要になってきます。
「老後に2000万円」問題の本質は…
前回の参議院選挙の直前、「老後に2000万円」というキーワードが話題となりました。高齢世帯の家計の収支を調べると月5万円ほどのが赤字が発生していて、人生100年時代であることを考えれば、老後に2000万円ほど必要だというものです。
このとき世論にはずいぶん誤解がありました。例えば毎月の不足額と高齢世帯の夫婦の食費(月6.4万円)を比較して、国は老後に飲み食いするお金も準備してくれないと述べた人がいました。
しかしよくみると、公的年金の給付額は食費や被服費、光熱費、医療費などをカバーする金額になっていて、おおむね日常生活費は賄えています。
では何が不足しているかというと「教養・娯楽費(2万4804円)」「交際費(2万5749円)」の合計にあたる5万553円です(新型コロナウイルス感染拡大前の2019年家計調査年報、高齢夫婦無職世帯の数字)。
これを30年で累計すれば1820万円にもなります。つまり「老後2000万円」問題は「老後の趣味・生きがい予算問題」だったというわけです。
「そんなに趣味や生きがいにお金がかかるはずがない!」と思うかもしれませんが、
・子や孫への誕生日祝いやクリスマスプレゼント、入学祝い、お小遣い(遊びにきてくれたとき)
・シニアデーに映画鑑賞
・美術館や博物館の特別展鑑賞(月1回くらい)
・誕生日のささやかな外食
・年に数回のゴルフコンペなど趣味
などなど、積み重ねていけば月5万円くらいにはなってしまうものです。先ほど述べたとおり時間はたっぷりありますから、予算はいくらあっても足りないくらいです。
だからといって「老後の趣味や旅行費用を国の年金で出してくれ(つまり、若い世代の保険料でまかなってくれ)」というのはさすがに虫がよすぎる話です。それは自分自身でためたお金で実現すべきでしょう。自助努力で備えたお金でこれを賄うわけです。
これは見方を変えれば「老後に向けてためればためるほど、老後の趣味や生きがい予算が増す」ということでもあります。
老後に飲食費など生活費が足りないので2000万円ためろ、といわれればやる気も出ません。しかし、ためればためるだけ老後にたくさん楽しめることが増えると考えてみましょう。現役時代に、個人型確定拠出年金(iDeCo)や積み立て型の少額投資非課税制度(つみたてNISA)で資産形成を頑張るモチベーションになるはずです。
老後の趣味はソロ活を楽しむ
先週、趣味の始め方とソロ活の重要性を話しましたが、実はこれは年金生活者の趣味においても同じことがいえます。
時間はたっぷりありますから、趣味を探すのに数年かかっても大丈夫です。仕事一筋だった人ほど、いろいろな趣味を「お試し体験」してみてください。私の父は67歳にして絵筆をとりましたが素材探し、下書き、塗りと、時間がいくらあっても足りない趣味がみつかったと楽しんでいました。あなたにもきっと一生の趣味があるはずです。
そして、男性は「妻と老後は趣味を楽しむ」などと考えないことです。夫婦が同じ趣味を楽しむのは、絵画展や映画に月数回出かければ十分です(案外、妻も老後にべったり、は望んでいないものです)。旅行だって年に1、2回がいいところです。
むしろソロ活や外に出かけて妻以外の人たちと交流する趣味を楽しみましょう。できれば会社のつきあいとは離れて、ただのひとりの人間として趣味の人脈を築いていきましょう。
先週も述べたとおり、趣味はいくつも持ってかまいません。ロスの心配がないくらい、薄く、浅くでもいいのでたくさん趣味をみつけていきましょう。そのうちひとつでも、深く追求する趣味になればいいのです。
趣味や生きがいがある人ほど長生きできる?
趣味や生きがいを持っている人ほど、元気で長生きする傾向はあるようです。東京都健康長寿医療センター研究所(東京・板橋)の研究チームによりますと、要介護化のリスクを大きく低減させる3つの要素として「身体活動・多様な食品摂取・社会交流」をあげています。3つがすべてそろうと、個人の要介護化リスクは46%も下がるのだとか。
趣味や生きがいはその一助となると思われます。
今月ずっと考えてきたように、趣味や生きがいはお金の問題でもあります。老後もおのずと趣味予算に制約が生じることは避けられません。しかし「公的年金=日常生活費」でやりくりするバランス感覚をしっかり確保できれば、自分の手持ち資金を計画的に趣味に回すことができます。
ぜひ、無理のない範囲で「趣味・生きがい予算」を設定してみましょう。退職金をもらってみて、手元資金を加えて2000万円以上ある人は、65歳から20年、月5万円を取り崩しても大丈夫だと分かります(予算枠は1200万円)。
お金がなくなるかビクビクするのではなく、計画性を持ちつつ、趣味や生きがいにお金を使っていくのが、これからの時代のセカンドライフです。
たくさん時間があって、仕事にわずらわされることのないセカンドライフ、趣味や生きがいを楽しみ、健康で長生きをしたいものです。
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ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔氏が若年層に向けて、「幸せな人生」を実現するためのお金の問題について解説するコラムです。毎週月曜日に掲載します。