割安さと成長持続性で銘柄選別(ひふみ投信・佐々木氏)
ニューノーマル相場を見通す(上)
――足元の株式相場の見方は。

これまで日本株市場では、外需株が軟調な時は内需株、内需株が軟調な時は外需株、それ以外の局面ではIT(情報技術)関連株が買われてきた印象だ。アベノミクス以降は成長企業が選好され、IT関連への評価は最高潮に達したが、米国の金融政策の転換が意識されると市場の評価は一変した。
足元ではインフレに加え、円安・ドル高が急速に進んでいる。そんな中、国全体にとっては、原料調達を輸入に頼る内需企業をどのように盛り上げていくかが焦点になる。政府が需要喚起策を主導していけるのであれば、内需株の再成長が期待できそうだ。
新型コロナウイルス禍で業績が悪化し、下落基調をたどる鉄道株や航空関連株、ホテルなどインバウンド関連株が再評価されるだろう。仮に現在の為替水準で新型コロナの感染拡大がなければ、多くの観光客が来日し、その恩恵を受けるはずだからだ。経済活動本格化の時期はまだ見えないが、足元ではリオープニング銘柄に少しずつ投資している。
割安性と成長持続性が鍵
――投資判断の基準は。
バリュエーション(投資尺度)と成長持続性の2つで判断している。何十年先までバリュエーションが織り込まれながらも、成長持続性が落ちている銘柄は売却対象だ。逆にバリュエーションが低く、成長持続性が高い銘柄は株価の上昇期待が高いので購入対象だ。先程のリオープニング銘柄を筆頭とした内需株がそれに当てはまる。
電気通信関連では格安スマホのインターネットイニシアティブを昨年から購入している。同社は高速通信規格「5G」関連とされているが、実はシステムインテグレーション部門の業績が良い。
INPEXや三菱商事など、川上系産業も組み入れ上位銘柄に入れている。物価や商品価格高騰の恩恵を一番受けやすいからだ。特に商社はバリュエーションが割安な上、世界的なモノ不足を受けて需要が高まりやすい。本来ならば価格が高騰している商品の関連株を買うべきだろうが、総合商社は商品全般に強みを持っているため、投資対象に選択した。
――大型株が多い理由は。
ポートフォリオを「要塞化」するのが狙いだ。株価が安定している大型株に投資している間に銘柄調査を進め、勢いのある中小型株を探している。有望株が見つかれば大型株に投資していた資金の一部を中小型株に分配する。見つからなければ大型株への投資を続けるなど、大型株と中小型株の行き来は多い。足元では特に川上系産業で中小型株の調査を進めている。
一方、現段階での注目銘柄の筆頭はオリエンタルランドだ。東京ディズニーリゾートのチケット価格の引き上げを進め、売り上げ増加の期待がある。さらにコロナ禍の外出規制で一旦抑え込まれた需要(ペントアップデマンド)も健在化している。足元の業績は厳しいものの、改善期待は色濃くにじんでいる。
独自商品を持つ銘柄を有望視
食品業種の株価が低迷する中、有望とみるのは味の素だ。同社は家庭用と業務用向けに調味料や冷凍食品を展開しており、業務用はリオープニングへの期待がある。また、うま味調味料の副産物を使って開発した絶縁材料「味の素ビルドアップフィルム(ABF)」は、実は同社の稼ぎ頭だ。これは、電子機器に半導体を実装するために必要な高密度プリント配線板の製造に欠かせない材料で、スマートフォンやパソコンなど身近な製品に使われている。リオープニングと独自製品の2本柱が強みと言えそうだ。
――先行きに対するリスクは。
短期的にはロシアによるウクライナ侵攻やインフレ、円安進行、高齢化など話題に事欠かない。家計の可処分所得がこの先上がっていくとも考えにくい。だが、長期目線で見れば、株価はその国の経済成長を投影する。ニューノーマル(新常態)に対応できる銘柄を厳選することで、株価の上昇に期待を持つことができる。
銘柄選別では多い日で1日6社の取材を重ね、自身で立てた仮説が正しいかどうかを検証するようにしている。株式市場の投資テーマは変化が速く、早めの投資判断が必要だ。

(井沢ひとみ)
[日経マネー2022年7月号の記事を再構成]
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2022/5/20)
価格 : 750円(税込み)
この書籍を購入する(ヘルプ): Amazon.co.jp 楽天ブックス
資産形成に役立つ情報を届ける月刊誌『日経マネー』との連動企画。株式投資をはじめとした資産運用、マネープランの立て方、新しい金融サービスやお得情報まで、今すぐ役立つ旬のマネー情報を掲載します。
関連企業・業界