賃上げを歓迎できないバイデン・パウエル氏
日本の現政権は賃上げを熱烈歓迎する姿勢だが、インフレで支持率低下に悩む米国の現政権は賃金上昇を素直に歓迎できない。
庶民感覚では、賃上げを警戒する大統領や米連邦準備理事会(FRB)議長の姿は、エリートの発想に映る。物価上昇で実質賃金が下がるというロジックにはなかなかなじまない。理屈はいいから、とにかく名目でも何でも給料は上げてくれ、インフレの心配は、その後だ、ということになる。
米国の場合は、賃上げ警戒のメッセージが、白人男性が多いFRB幹部から発せられると、民主党急進左派から鋭い突き上げをくらう。
パウエルFRB議長、ブレイナード副議長の議会承認のための公聴会でも、ヒスパニック系の議員から、FRB幹部にヒスパニック系の顔が見えないと苦言が呈された。その後のバイデン大統領人事では、空席のFRB理事ポスト2人にアフリカ系米国人を指名した。クック氏は史上初のアフリカ系女性理事。ジェファーソン氏は史上4人目のアフリカ系男性理事となる。
さらに副議長職には白人女性のラスキン氏が指名され、人種とジェンダーに配慮した人事となった。「賃金上昇は必ずしも歓迎できるわけではない」というメッセージを発するとき、この布陣なら、米国国民の反感も薄まるとの期待がにじむ。
とはいえ、決算発表とともに開示される、ウォール街の「エリート」たちの高い報酬額が相変わらず米国メディアでは話題になる。JPモルガン・チェースの最高経営責任者(CEO)ジェイミー・ダイモン氏の年収は2021年に300万ドル(約3億4000万円)増え、3450万ドルになった。それに加え、5000万ドルの特別ボーナスが支給された。今後5年間、同行に勤務するという条件つきだ。同氏は、決算発表時のアナリスト・ミーティングで「給与は競争的な水準とする。それにより、株主への配分が減ってもやむを得ない」と語っている。
ゴールドマン・サックスも好決算であったが、人件費が圧迫要因となったことで株価は下げた。
なお、元ゴールドマン・サックス副会長でロバート・カプラン・ダラス地区連銀総裁が、個人的株式投資を批判され辞職した経緯もある。ウォール街の感覚では「通常の」株式売買が、これほど問題視されるとは思わなかったようだ。
FRBには気候変動対策に対応する金融政策も求められる。グリーンかつクリーンで多様化した新FRB体制が、いかにインフレを制御するか。市場のFRBに対する評価も多様化している。

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