家を買うこと それは「賭け」か「資産形成」か - 日本経済新聞
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家を買うこと それは「賭け」か「資産形成」か

家を借りる・家を買う(4)

今月のテーマは家の問題です。最初は賃貸暮らしのお金について考え、前回から家を買う決断に話が移っています。

さて、終(つい)のすみかが必要だというとき「住宅ローン」と向き合うことになります。おそらく人生最大の借金になるでしょう。この借金があなたの生涯の収支を大きく変えることになります。

賃貸は掛け捨て 住宅ローン返済は資産形成に通ず

賃貸と持ち家のメリット、デメリットを先週考えましたが、賃貸の家賃は「掛け捨て」といえます。1カ月住む権利を家賃で獲得していますが、次の家賃を払わなければもう1カ月住むことはできません。また、どんなに家賃を払ってもその家は自分のものになりません。

これに対し、住宅ローンを組むことは、掛け捨ての生活をストップし、家を自分の資産とするチャレンジということになります。ローンには定期返済の義務があり、返せないから途中でやめます、というわけにはいかないものの、最後まで返済し終わればその家は自分のものとなります。

賃貸の家賃を払うことと、住宅ローンの返済をすることは、同じ支払額であっても違う性格の支出となるわけです。

「資産形成」として考えるマイホーム購入

資産形成として考えると、マイホーム購入のために住宅ローンを組むほうが魅力ある選択のように思えます。

ただし、「物件価格」だけではなく「正味の支払額」も考えるべきです。何かというと「物件価格+金利支払額」の合計で考えるべきだということです(手数料や税も含めるほうがもっと適切です)。今でこそ超低金利下で住宅ローン金利は固定金利35年返済で年1.35%前後まで下がっていますが、長い目で見れば年2.5%あるいはそれ以上あってもおかしいことはありません。

3000万円のローンを設定し、35年返済にしたとします。年1.35%で固定だった場合の総返済額は約3770万円ですが、これが年2.5%固定であったら総返済額は約4500万円に跳ね上がります。この730万円もの差は金利差です。いかに金利が大きいものかが分かります。

それでも住宅ローン金利は低いものです。普通にキャッシングやリボ払いをすれば、年10%以上の利息がかかるからです。ちなみに先ほどのローンで年10%の利息がついたとすれば、総返済額は1億円を上回ります。

住宅ローンの金利が低い理由は、貸す側にとっては担保としての住宅物件があるからです。あなたを追い出して家を売れば、貸したお金がすべて返ってこない心配はないからこそ低金利の借り入れが可能となります。もちろん返済しながらそこに住むことも許されます。

これに住宅ローン減税などの節税メリットも考慮すると、さらに住宅ローンの価値は高まります。

「賭け」として考えるマイホーム購入

一方で、メリットや安心ばかりではありません。住宅ローンを返し終われば自分のものになるといっても、そこには「賭け」の要素もあります。

「物件の価値変動」は無視できません。基本的に家(建物)の価値は下がり続けていきます。住み続けることだけを前提とするならどんなに価値が下がろうと問題ではありませんが、新築の家がもっとも価値が高く、一度でも誰かが住めばそれだけで価値はがくんと下がります。中古物件です。

地価が右肩上がりの時代は終わりましたから、土地の値上がりがそれをカバーすることは考えにくいでしょう。経年的に価値が下がることを織り込んでおく必要があります(土地や物件が評価されて購入後も値上がりすることはありますが、事前に見分けるのは難しいです)。

「住環境の変化」もあります。数十年もたつと、購入時にはにぎわっていた街がさびれていくこともあります。しかし20年前、子どものにぎわう声がこだましていたマンション群が今はひっそりしていたり、ゴースト商店街に変わったりしたとしても、最初にそれを予見することは困難です。

「施設の劣化」もあります。戦前に東洋一を誇るマンションが都内に完成したとき(同潤会アパートなど)、まさか50年を過ぎたら、電力(アンペア)不足、設備の不足(当時のマンションは自室に風呂がないのも普通だった)、時代に遅れた間取りや広さ、壁面崩落などの問題が噴き出すとは思いもしなかったことでしょう。今きれいな建物が数十年後、別の問題に悩まされないとは誰もいえません。

ところで、戸建てと異なりマンションは「土地」の権利をほとんど持っていません。建物自体の価値が損なわれたとき、資産としての価値も低下せざるをえないでしょう。

金利動向もまた難しいところです。金利は変動します。過去に何度も「今が買い時の低金利」といわれ続けましたが、マイナス金利政策の影響でさらなる超低金利が実現しました。今は金利だけみればチャンスですが、軽い気持ちで借りたローンが行き詰まるとむしろ人生のマネープランは悪化します。

そしてあなた自身の「返済能力」も不確定なものです。会社員であれば住宅ローンは比較的簡単に組めるかもしれませんが、アテにしていた年収がこれから数十年保証され続ける時代ではありません。特にボーナス払いに依存すると会社の業績悪化時などボーナス支給ゼロになってしまい、苦しいことになります。

実は家を買うのは安心ばかりの話ではありません。残念ながらこうした不確定要素を「売り手」があなたに話してくれることはないでしょう。しかしリスクを認め、そのうえで家を買うという問題に向き合う必要があると思います。

家は「夢」じゃない 「現実」だ

マイホーム購入にはリスクもありますが、資産形成にもつながります。

考えてみるとこれ、「株式投資」と同じといえるかもしれません。リスクはあるが長期的にはリターンが期待できるのが投資であるからです。

株式投資を避ける人はいます。しかし、住宅ローンはほとんどの世帯が抱えます。

「マイホームの安心」「夢の実現」「家族のよりどころ」といった美辞麗句に引きずられるのではなく、金融商品という観点から住宅ローンを考え、「現実」の問題として家を買うことが大切です。

あなたに家を売る人、あなたのローンを請け負う人たちは、あなたの「夢」につきあってたくさんの時間を割いてくれます。しかし、あなたの「リスク」にはつきあってくれません。あなたが返済できなくなったとしても、ローンを肩代わりしてくれることはないのです。

来週は、それでも向き合う住宅ローンを少しでも楽にする方法はないのか考えてみます。

◇  ◇  ◇

FP山崎のLife is MONEY」は毎週月曜日に掲載します。

山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ)
フィナンシャル・ウィズダム代表。AFP、消費生活アドバイザー。1972年生まれ。中央大学法学部卒。企業年金研究所、FP総研を経て独立。退職金・企業年金制度と投資教育が専門。著書に「読んだら必ず『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」(日経BP)、「大人になったら知っておきたいマネーハック大全」(フォレスト出版)など。http://financialwisdom.jp

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