米国株は業種循環に要注意 豊富なETFで大勝ち狙う手も
今年終盤の株式投資戦略(下)

米国の個別銘柄を選ぶ際の基本法則が「セクターローテーション」だ。金利と景気の変化に伴い、物色される業種が循環的に変わっていく現象を指す。
具体的には、株式相場は①金融緩和を受けた「金融相場」②好業績企業が増える「業績相場」――の2段階で上昇する。そして景気過熱で金融引き締めが行われると、③相場全体が失速する「逆金融相場」④企業業績が悪化する「逆業績相場」――の2段階で下がるというのが基本だ。局面ごとに物色の対象が変わる。

10年以上も金融緩和が続く日本では当てはまりにくいが、米国株では「今は4つのうちどの局面か」を意識することが大切になる。
今年の下げ相場は利上げを受けた「逆金融相場」だったが、これがまだ続くと考えるなら当面は債券ETFなどが候補になる。ここからは「逆業績相場」が続くと思うなら、当面はディフェンシブ株が有利だ。
さらに先を見て、米国の利上げ一服による「金融相場」も近いと考えるなら、ここまで売られたグロース(成長)株の上げ幅が最も大きいと期待できる。
また、今年ならではの要因も重要だ。「利上げで相場は失速しても、インフレが継続中」という特殊事情の中では、「インフレで恩恵を受ける銘柄」という視点も必要になる。
また長期投資ならば、「長期的に有望なテーマ性があるか」「圧倒的な競争力を持つ企業か」も重要で、幸い米国株には世界最強の競争力を持つ企業が多数ある。日経マネーでは、こうした観点から注目される銘柄を株式投資のプロに選んでもらった(詳細は日経マネー22年12月号に掲載)。
ETFで主要株価指数を上回る利益を狙う
一方で「米国の個別株投資はハードルが高いが、ダウ工業株30種平均など主要な株価指数を上回るリターンを得たい」と考える人もいるだろう。そういう人にはETF(上場投資信託)という選択肢もある。
米国株市場には業種別の指数に連動するETFや、アクティブ運用のETFが豊富だ。債券やコモディティー(商品)の価格に連動するタイプなど、株以外のETFも充実している。定番のETFを中核(コア)に置き、特色のあるETFを使い分ければ、市場平均以上の利益を狙う投資戦略を、個別株なしで実現できる。
短期の相場の動きは気にせずに長期保有するのが前提なら、米国株全体に広く投資するETFでいい。アイザワ証券市場調査部の今井正之さんは「米国株4000銘柄程度に分散する、バンガードトータルストックマーケットETF(VTI)一本でいい」と言う。VTIは米S&P500種株価指数よりも銘柄数が多く、主力株への集中度合いが低いのが特徴だ。

自分なりに相場の先行きを読んで投資戦略を立てるなら、別の選択肢もある。例えば弱い相場がまだ続くと考えるなら、S&P500よりは底堅く推移しやすい、高配当株や連続増配株の指数に連動するETFにする手もある。
例えばバンガード・米国増配株式ETF(VIG)は10年以上連続で増配実績を持つ大型・中型株の指数に連動する。「長い目でじっくりと大きな利益を得たいと考える人に向いている」(今井さん)
さらに弱気スタンスで、今よりも相場が大きく下げると確信している場合は、株式ではなく債券のETFにするのも手だ。米国の長期国債価格に連動するiシェアーズ 米国国債 20年超(TLT)がいいと今井さんは言う。
「株が大きく下落した局面では金利が低下しやすく、債券価格は急上昇する。TLTが前回高値を付けたのは、新型コロナ感染拡大のパニックで株式市場が安値をつけた2020年3月。リーマン・ショックの安値の際も上昇している。株価が暴落する局面で利益を狙える」(今井さん)
逆に「相場は底を打った。これ以上大きくは下がらない」と自信を持てるなら、ナスダック100株価指数などハイテクグロース指数をベンチマークにするETFも選択肢になる。ただし、相場全体の下げに連れ安するので、相場がこれ以上下がらないという確信が持てないと買いにくい。
最近はネット証券各社で海外ETFが購入できるようになり、一部の海外ETFの買付手数料を無料化するケースも増えている。配当も年4回が主流だ。魅力ある商品が多く、ハードルが低くなった米国ETF。主要指数のETFとセクターやテーマ別ETFを組み合わせて、戦略的な投資にチャレンジしたい。
(市川史樹)
[日経マネー2022年12月号の記事を再構成]
著者 : 日経マネー
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