中国利下げで株価下落の理由
中国人民銀行が1年8カ月ぶり利下げ。0.05%と小幅に抑えたところに「苦渋の決断」が透ける。
このタイミングでの金融緩和は、不動産バブルを封じ込める様々な規制措置に逆行する。不動産関連セクターが国内総生産(GDP)の25%を超える中国では、不動産市場を生かさず殺さずの、微妙なかじ取りが不可欠だ。
恒大集団の社債が格付け機関から「部分デフォルト」に認定された直後でもある。この時期の金融緩和は巨大不動産集団のステルス救済の誹(そし)りも受けかねず、「共同富裕」構想にも反する。
更に二酸化炭素排出削減目標を明示したが、電力不足により、火力発電への負荷は重くなり、結局、石炭生産と需要は増えている。「スモッグのない青空」を維持するための経済活動縮小という副作用と、新型コロナウイルスの変異型であるオミクロン型の徹底抑え込みによる経済減速の下支えの両立は基本的に無理筋だ。
かくして、様々な条件を勘案したうえで、小幅ながらも利下げに踏み込んだとみられる。
市場の視点では、小幅の利下げゆえ政策効果を実感できない。逆に、危うい綱渡りを強いられる中国人民銀行のリスクが意識される。
なお、最近は中国人民銀行への中国共産党の直接的介入が強まっている。そもそも中国には中央銀行の政治的独立などあり得ない。既に、中国共産党の意向に反した中国人民銀行幹部の罷免の事例などが、上海の銀行界では語られている。
今回の利下げは、習近平政権のかかえるジレンマを浮き彫りにした。
豊島逸夫(としま・いつお)

豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuotoshima@nifty.com

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