武者陵司氏「円安で大転換 日経平均は3万5000円超に」
2023年の相場を占う(2)

失われた30年が終わる年
2023年は、日本の失われた30年が完全に終わるということがはっきりするでしょう。
その根拠を一言で表せば、「円安」。この30年間は円高がデフレを引き起こし、日本経済の骨格をつくってきた。しかし今は、誰もが想像し得なかった著しい円安で、大きな潮目が変わったと考えるべきなのです。
これまで日本経済が停滞した、そもそもの理由が円高だったわけです。日本製品の品質は十分に高く、日本の賃金は世界的に見ても抑制されていて、コストも大きくかかっていない。それにもかかわらずグローバルの価格競争に負けたのは、紛れもなく為替に原因があると考えられます。
最近は「悪い円安」という言葉も広まっています。その背景には、日本企業が円高に対応して国内生産をやめ、中国など海外に工場を移したことがあるのです。そのビジネスモデルでは、円安は都合が悪いということになる。
しかし海外で製品を作って輸入するということは、国内の雇用を減らすことにつながるのです。国内のコストを下げるために工場をたたみ、人員を削減し、海外に投資する。企業は余ったお金を国内ではなく海外に投じて生き延びる。これが日本経済によいはずがない。そのため、国内総生産(GDP)が全く増えなくなった。
しかし、海外で稼いだ所得を加えた国民総所得(GNI)は増加し続けています(図)。このデータからも、円高対応のビジネスモデルが日本経済にとっては明らかにマイナスの要素だったということが分かるのです。

あらゆる国民経済の起点は、企業による価値創造にあります。企業だけが給料を払い、その結果、人々がお金を使って経済を回す。海外生産にシフトしてしまっては、企業は儲かるけれど、国内においては価値が創られないから雇用も生まれない。国内では賃下げ圧力が高まり、デフレがさらに進む。
これを変えなくてはいけないというのは明らかです。この円安をきっかけに、海外より日本で生産した方が有利であるという環境になった。輸入品を国内生産に切り替える流れが生じるはずです。
円安を受けて日本製品の価格競争力が高まる。加えて外国人観光客が日本に来てお金を使うようになる。つまり、国内生産のみならず国内サービスの需要そのものも増え、数量景気となるのです。

円安が定着する理由
そもそもなぜ円安になっているかというと、 短期的には日米の金利差が挙げられます。 しかし、 大本には地政学があると思います。
日本の貿易黒字が大きい時代、米国は自国の産業を守るために日本叩きを行った。その手段として、 強烈な円高を誘導したと考えられます。結局、米国の狙い通り、日本企業は競争力を失った。
今は中国が米国の覇権を奪おうとしていて、中国依存のサプライチェーンからの脱却が求められている。米中対立が続く限り、一度進行した円安が1ドル=110円台の水準に戻るとは考えられず、同130円台から140円台で定着するのではないでしょうか。
そうした円安の後押しもあって、日経平均株価は3万5000円ぐらいは簡単に超えると思います。企業利益が過去最高の水準が見込まれているという点も大きい。
さらに日本は、他国とは異なるプラス材料を持っています。コロナ禍の反動でインバウンド(訪日外国人)の観光客が増え、国内でもリベンジ消費の機運が高まっている。色々な意味で需要が一段と増加する環境になっている。世界的なインフレがピークアウトして金融引き締めが終わった局面では、日本株は大きな上昇が見込めるはずです。
しかし一方で、個別株では大きな格差が生まれる点には注意が必要でしょう。輸入依存のビジネスモデルを続けていたら、円安で収益が悪化する。また労働雇用政策もコスト抑制から良い人材を雇う政策に変えなければなりません。今こそ、企業が戦略を変えなくてはいけない。財務戦略も投資やM&A(合併・買収)、自社株買いなどで積極化するべきです。
戦略を適切に変えるか変えないかで、企業は勝ち組と負け組に二分されるでしょう。そこで投資家は、企業戦略のきちんとした見極めがこれからすごく大事になってくると思います。
(大松佳代)
[日経マネー23年2月号の内容を再構成]
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP(2022/12/21)
価格 : 750円(税込み)
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