好条件そろう日本株が上がらない理由
広木隆のザ・相場道

9月の株式相場のパフォーマンスが悪いのは例年のこととは言え、今年は記録的な荒れ相場となった。特に米国株の急落が目を引いた。8月下旬に開催されたジャクソンホールでの米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長のタカ派講演に始まり、消費者物価指数(CPI)ショックの再来、さらに米連邦公開市場委員会(FOMC)での3回連続の0.75%利上げと衝撃的なイベントが続き、波乱の展開になってきたように見える。
しかし、市場に「ショック」が走ってリスクオフになっているわけではない。米国株は下がるべくして下がり、淡々と価格調整が行われているだけだ。
株価は将来のキャッシュフロー(CF)を現在価値に割り引いたものの総和というのがファイナンス理論の教えだ。要素は2つある。分子のCFに当たる企業業績(例えば予想EPS=1株当たり純利益)などと分母の割引率(例えば長期金利)だ。米S&P500種株価指数の12カ月先EPSは6月をピークに伸びが止まった。今の米国株はほぼ金利の動きだけで説明できる。年初からの動きは見事に逆相関だ。

大荒れが続く米国債市場 すべての起点はインフレ
一言で言えば、金利が上がったから株価が下がっているということだ。仮に長期金利が4%に達し、そこでステイするような状況になれば、ダウ工業株30種平均の2万7000ドル割れもあり得る。ただし4%という長期金利が正しいかは別問題だ。本来、最も洗練された市場であるはずの米国債市場が大荒れだからだ。とても正しいプライシングとは思えない。
米国債の予想変動率を示すMOVE指数は、短期の市場心理を映した1カ月物で9月28日に158台と2020年3月以来の大きさとなった。S&P500の予想変動率である米VIX指数がやっと警戒ゾーンの30を越えてきたのとは、まるでレベルが違う。
これは米国株に限らず、世界中で起きている現象だ。イングランド銀行(英国の中央銀行)による英国債の買い入れを巡る金利の乱高下はその最たるものだ。諸般の問題の起点はインフレである。インフレを抑制すべく世界中の中央銀行が金融引き締めを強化している。短期から長期まで金利全般に上昇圧力がかかり、一方、景気の先行きの見通しはどんどん悪くなる。従って業績予想も下振れする。
金利上昇もインフレも軽微 世界唯一の例外の日本
唯一の例外が日本である。例えば12カ月先予想EPSは米国株と真逆に堅調に右肩上がりで推移している。今後、世界景気の減速懸念で日本企業の業績も下方修正懸念があるが、今のところは円安効果が勝っている状況だ。
日本はインフレが欧米に比べて軽微なため日銀が緩和を続けられる。利上げもなく、長期金利も上がらない。円安で業績も上振れしている。新型コロナウイルス感染の水際対策の緩和によるインバウンド(訪日外国人)の復活期待に加え、旅行割などの景気対策などで景況感も改善している。景気・業績・バリュエーションすべてにおいて日本株のファンダメンタルズは良好だ。これは衆目一致だろう。問題は、それでも相場底入れの兆候が一向に見えない理由だ。
その理由は「海外投資家にとって日本株は『世界景気敏感株』という位置付けになっているから」という見方がある。グローバルな投資家にとって今や日本株は世界全体に投資する「グローバルファンド」の一部に過ぎない。きちんとポートフォリオを組むのではなく、限られたグローバル企業にしか投資しない。結果、日本の国内要因よりも世界のファンダメンタルズに引きずられて、日本株の評価が高まらないというわけだ。

しかし、そこが死角であり、我々にとってのチャンスだ。9月末時点の年初来リターンを見ると、日本株の中でパフォーマンスが悪いのは日本を代表する時価総額トップ30銘柄で構成されるTOPIXコア30。まさに「世界景気敏感株」の集合である。しかし、その対極にあるTOPIX500バリュー株指数は年初来のリターンが▲0.45%。つまり横ばいだ。欧米株が2割、3割下げる中で全く下がっていない。TOPIX500のうちバリューに属するのは、エネルギーや金融、不動産、公益など。素材や一般消費財・サービスも半分はバリュー株に分類される。買える銘柄はたくさんある。外国人が買わないなら、我々日本人が粛々と買えばいいだけである。

著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP(2022/10/21)
価格 : 750円(税込み)
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