薄緑に染まる日銀、スピード重視も半身の気候対応

2019年12月、欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は就任後初の理事会後の記者会見で、翌月から始める金融政策の戦略レビューは気候変動もテーマになると力説した。同じころ、日銀の有力幹部からこんなぼやきを聞いた。「国際会議でも気候変動の話題は増え、グリーン対応といえば反論すら許されない雰囲気がある」「中銀が積極的に関わるべきだとは思わないが、議論にはついていかないと・・・・・・」
それから1年半後。日銀は6月18日、金融機関の脱炭素関連の投融資を促す新制度の創設を決め、7月16日にはその骨子案をまとめた。ECBはこの間の8日に戦略レビューの結果を公表し、気候リスクに対応する具体的な行動計画も示したが、実際の政策の立ち上がりは年内を予定する日銀のほうが早くなりそうだ。
気候変動対応に熱を上げるECBの動向をどこか冷ややかに見ていた日銀。国内外での関心の高まりを踏まえ、今年に入ってからは「何らかの対応が必要になる」との声も出始めていたが、急に動きを早めた背景には何があるのか。
「できることが限られる以上、ECBの後出しで見劣りするくらいなら先手を打とうということだ」。ある日銀関係者はこう解説する。年央から秋にかけて戦略レビューの結果を示すとしてきたECBの動きをにらみ、中身よりスピードで勝負したというわけだ。「逆説的だが、『これ以上踏み込むつもりはない』という姿勢の表れでもある」とこの関係者はつぶやく。
日銀内ではグリーン金融政策の検討で3つの選択肢が浮かんだ。まずは量的緩和(QE)の一環で環境分野に資金使途を絞った国債や社債を買う「グリーンQE」。これは国内でグリーン国債が発行されていないことやグリーン社債の市場規模も小さいため対象から外れた。仮に発行が今後増えても、中立性の観点からグリーンか否かを自ら判別したがらない日銀がどう購入対象を選ぶのかという問題が残る。
上場投資信託(ETF)購入で脱炭素の要素を加える手もあった。これまでも設備・人材投資に積極的な企業の株式で構成するETFのように「テーマ型ETF」を購入した実績もある。だが、日銀は3月の政策点検を経て、市場をゆがめるとの批判の強いETF購入を極力控える方針に転じたばかり。「撤退戦の流れに逆行する」(日銀関係者)ため、この選択肢も取りえなかった。
消去法的に選ばれたのが、金融機関に脱炭素の投融資を促す今回の資金供給策だ。これも10年に創設した成長分野向け資金供給の後継という位置づけで、マイナス金利の負担軽減による利用促進といった仕組みもほぼ同じだ。実質的な看板の掛け替えで気候問題に取り組む点に、日銀のなお半身の姿勢や政策発動余地の乏しさが透ける。
30年、50年を見据えた気候変動への対応は中銀にとってもマラソンレースになる。米連邦準備理事会(FRB)のように、まだ金融政策面での対応は様子見を続ける中銀もある。菅義偉政権や他国の出方次第で日銀に追加策の要求が強まった場合に対処できるのか。すでに緩和長期化で消耗している日銀にとって苦しい道のりが続く。
(斉藤雄太)
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