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年金制度は時代に合わせて変わる 男女差解消へ

ねんきん月間に考える(4)

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先週までは主に「66歳以降により多くの年金をもらう繰り下げ受給」について述べてきました。今週の年金に関するテーマは「時代の変化」に伴う年金制度の見直しについてです。特に重視すべきは、共働きの時代、女性が働く時代への対応です。ケースによっては男性や働く女性が不利益になっており、ひとつずつ見直しが進められています。

「男性ひとり分」は減少へ 2人の年金で暮らす老後

先日、慶応義塾大学の駒村康平教授とパネルディスカッションをご一緒したのですが、駒村教授は興味深いデータを紹介されました。それは「男性ひとり分の厚生年金額はこの数十年で減少傾向にある」というものです。

直近で年金生活に入った世代の年金額と、80代以降の世代のようにかなり前に受給を始めた年金額とは違うというのです。これは給付水準の見直しの影響が反映されているわけですが、悪い話ばかりではありません。

同じ資料によると「女性ひとり分の厚生年金額」は減少していません。むしろ受給する女性の人数は大きく増加しています。つまり働く女性が増え、また長く働き多くの厚生年金をもらい始めているということを意味しています。

かつては「男性に夫婦2人分の年金を支給する」という趣旨で制度設計がされていました。今では基礎年金(国民年金)を含め「男性と女性それぞれに個人名義の年金が支給され、合計で老後を営む」という考え方に変わっています。

1980年代までは「片働き世帯2 : 共働き世帯1」という比率であったものが平成時代にほぼ等しくなり、平成の後半には逆転、現在では「片働き世帯1 : 共働き世帯2」となっています。

今はまだ、パート社員などで厚生年金が適用されていない女性も多いものの、適用拡大の取り組みが行われており、多くの女性が厚生年金の対象となってきています。ここから先は、女性の雇用条件が改善することで女性の年金受給額も増えていくことになるでしょう。そして「共働き夫婦の2人分の厚生年金」をもらうことができれば、合計でそれなりの年金が確保されることは間違いありません。

男女差別になっている仕組みを解消していく

一方で、男女差別のような価値観が年金の制度設計に残っている部分もあり、今後の法律改正が期待されています。

例えば、加給年金制度というものがあります。加給年金はしばしば「会社の配偶者手当の年金版」と説明されます。夫婦の年齢差があって、男性が受給開始年齢になったとき、まだ女性が公的年金を受け取っていない場合、夫だけの年金では老後の生活が苦しくなるだろうと一定額を補塡するような仕組みです。

共働きが当たり前になった時代、独身の人も増えた時代に会社の配偶者手当はむしろ不公平なものになっています。民間企業では時代の役割を終えつつある仕組みですが、年金制度ではまだ健在なのです。

いま年金生活を迎える世代の加給年金は年39万500円です。満額の老齢基礎年金の半分くらいに相当する大きな金額です。しかし、この仕組みをよく考えてみると「夫が年上の夫婦」という条件に違和感を覚えます。同い年の夫婦なら誕生月の差程度ですし、女性が年上の夫婦の場合はもらい損ねます。考えてみるとおかしな話です。

さらに、夫婦ともに20年以上厚生年金に加入するともらう資格がなくなるというルールもあって、長年共働きであった正社員夫婦は対象外となる不都合もあります。かつては「女性が20年も正社員で働くはずがないだろう」という設計思想があったのかもしれませんが、当時はともかく今の時代にはまったくそぐわないものです。

それどころか「厚生年金加入20年の手前で仕事を辞めたほうが得かも」「夫がリタイアしたら私も仕事を辞めたほうが得かも」というようなマイナスの労働インセンティブを女性に与えることになってしまいます。

先日開催された日本年金学会のパネルディスカッションではこれが話題となり、「加給年金制度は可及的速やかに廃止すべきである」という提言が(加給=可及=カキュウという)ダジャレを織り交ぜつつなされました。おそらく次回以降の年金改正で対応されることになるでしょう。

制度をつくった当時は当たり前だった価値観も、女性が働くことが普通となった時代、同い年夫婦、女性が年上の夫婦も増えてきた時代に合わせて見直していく必要があるわけです。

「遺族年金」は男性差別?

不思議な「逆差別」条件もあります。遺族年金制度にある「男性差別」です。

主たる稼ぎ手が亡くなったとき、家族の経済を支えていくための遺族年金制度があります。子および配偶者が対象になるのですが、かつては「働くことが難しい女性を支える制度」とみなされていました。

そのため遺族年金を受け取れるのは「妻」と法律に書かれていたため、女性が働き男性が主夫をしている場合などは対象外となっていました。これは法改正により解消されることとなりました(遺族基礎年金は夫も対象になり、遺族厚生年金は子も対象となる)。

しかし、現行制度でも男女差別があります。妻は夫が死亡時に30歳以上であれば終身年金の遺族厚生年金が支給されます(子どものいない30歳未満の場合は5年有期)。しかし、夫は55歳以上でしかもらえません。

制度設計当初は夫が亡くなったとき女性が働くのは大変で、男性は妻が亡くなってもどうせ正社員で働けるだろうし再婚するに違いない、という価値観があったのでしょうが、時代にはもう合わず、そろそろ見直しが必要ではないかと思います。

むしろ男性側の問題だけではなく、30~40歳代の女性が遺族年金をもらうことで働くことも再婚も考えない、寡婦としての人生を送るよう暗に促す仕組みであることのほうが問題かもしれません。

時代に合わせた見直しはこれからも続く

こうしてみると、時代の変化に応じた制度の修正が行われ、またこれからも求められていくことが分かります。年金制度そのものが、時代を映す鏡でもあるからです。

全国的に社会保険料を徴収して全国的に年金給付を行う仕組みは、家庭単位での扶養(長男が親の面倒をみるなど)を、社会的に扶養する仕組みに変えたとみることができますが、核家族化時代や単身者が増える時代にシフトする中、必要な取り組みだったといえます。

女性は長く働くとは考えられていなかった時代には、男性より厚生年金保険料が低く設定されていたり、結婚退職すると厚生年金を一時金で受け取り清算する仕組みがあったりしました。長生きするはずの女性のほうが55歳から年金をもらえ、男性を60歳に引き上げたこともあります。これらは時間をかけて廃止したり男性と同一の条件にそろえられたりしました。

国民年金の第3号被保険者の考え方も見直しの議論が続いています。「稼ぎのない専業主婦に自分の年金を与える」という考え方は理解できるものの、夫の保険料ではなく、厚生年金制度全体で負担をしているため、独身者や共働き夫婦に薄く広く負担を求めていることになります。これは今の時代の感覚には徐々にそぐわないものになっています。「年収100万円以下のパートで働こう」というようなマイナスのインセンティブにもなっています(産休および最大で子が3歳に達するまでの育休期間は厚生年金保険料が全額免除される)。

これからは社会が多様化する時代です。女性が働ける社会、男性が専業主夫になることもある社会、キャリアが中断してもまた再開することもある社会、高齢期も元気に働ける社会になっています。そんな時代の変化に応じてこれまでも、これからも、公的年金制度は改革を続けていくことになるでしょう。

実はあなたが思っているよりも、年金制度は柔軟性がある仕組みなのです。

◇  ◇  ◇

FP山崎のLife is MONEY」は毎週月曜日に掲載します。

山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ)
フィナンシャル・ウィズダム代表。AFP、消費生活アドバイザー。1972年生まれ。中央大学法学部卒。企業年金研究所、FP総研を経て独立。退職金・企業年金制度と投資教育が専門。著書に「読んだら必ず『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」(日経BP)、「日本版FIRE超入門」(ディスカバー21)など。http://financialwisdom.jp
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