ウクライナ「戦闘」でも利上げ強行か
「ロシア軍の一部撤収」に関しては、懐疑的見解が当初から相次いで語られていた。米国も北大西洋条約機構(NATO)も、言葉だけでは信じられず、証拠を見せろとばかりにロシアに迫っていた。市場もたまらず懐疑論に傾いたのは日本時間17日午後遅くになったころだ。
アジア市場から欧州市場にバトンタッチする時間帯で取引は薄く、値は荒れやすい。じわり、安全資産とされる米国債、円と金が買われ始めた。その後、市場のリスク回避モードはニューヨーク市場の大引けまで続く成り行きとなった。米10年債利回りは2%の大台を割り込み1.9%台半ばまで下落。円は114円台後半まで上昇。金は1900ドルの大台を突破。歴史的高値圏に突入している。一方、ダウ工業株30種平均は今年最大の下げ幅となった。
17日の米国市場では経済指標悪化も相次いだ。
米新規失業保険申請件数は24.8万件で4週ぶりの増加。1月住宅着工件数は4.1%減で4カ月ぶりの減少。米フィラデルフィア連邦準備銀行発表の2月の製造業景況指数は16.0で前月から7.2ポイント低下。最近の傾向では、悪い経済指標は米連邦準備理事会(FRB)の引き締め姿勢を軟化させる要因とされ株は買われるはずであった。
ところが17日には株価下落の歯止めとはならず。悪いニュースは素直に悪いニュース扱いされた。一方で、良いニュースはFRBのタカ派傾向を正当化する悪いニュースとなる傾向がある。どちらに転んでも売りのキッカケを探す弱気相場の兆候が顕著だ。
そこで市場の素朴な疑問は、万が一、ウクライナで戦闘状態に突入した場合でもFRBは利上げを強行するのか、ということだ。
この質問に、タカ派の主導格でメディアでも積極的に発言するブラード・セントルイス連銀総裁は「欧州経済に比し、距離が離れている米国経済への影響は限定的」と答え、利上げも辞さずの構えを明示している。同氏は、17日にもコロンビア大学のパネル討論で「FRBが動かなければ、インフレが制御不能になるリスクもある。我々が想定していないサプライズもあり得る」と発言した。
とはいえ、地政学的要因で株価が連日急落するような市場環境で底割れを誘発するような金融政策を本当に実行できるだろうか。16日に発表された1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨には引き締めに慎重なハト派的ニュアンスもあったということで、0.5%幅利上げの確率は低下している。「市場の反応に配慮」との記述もあった。老後の蓄えのために株を保有することは当たり前の米国で、急激な株価変動は、負の資産効果を通じて個人消費も萎縮させる可能性がある。そもそも、利上げという金融政策の実質的効果が浸透するまでにはタイムラグもある。
筆者は、株価大変動の最中の利上げにはFOMC内ハト派からの反対論が出ると考える。ハト派のメディア発言は少ないので目立たないが、ブレイナード次期副議長候補など隠然とした存在感を持つ人物もいるのだ。ブラード氏も、最後はパウエル議長の判断に任せることも明言している。ウクライナ問題は、パウエル議長が本当に「市場の味方」ではなくなったのか、市場が確認する機会になりそうだ。

・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuotoshima@nifty.com
- 出版 : 日経BP
- 価格 : 1,045円(税込み)
日経電子版マネー「豊島逸夫の金のつぶやき」でおなじみの筆者による日経マネームック最新刊です。