楽しい節約と不幸な節約 知的好奇心を満たすには - 日本経済新聞
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楽しい節約と不幸な節約 知的好奇心を満たすには

お金のウェルビーイング(4)

今月はお金と幸福の関係、ファイナンシャル・ウェルビーイングについて考えています。消費で得られる「幸福」は、ある程度誰もがイメージできるでしょう。それは必ずしも高い金額を投じる必要を意味しません。

前回は消費の面からお金と幸福の関係を考えてみましたが、今週は「節約」という視点で考えてみます。

節約は不幸感を覚えるものだけではない

一般的に節約はつらく、苦しいものと考えられています。より少ない費用で従前と同様の生活をやりくりするわけですから、そこには我慢というしわ寄せが生じることになります。だから「節約=楽しくないこと」となるわけです。

私は節約には「B級の節約」と「A級の節約」があると考えていて、我慢したり苦痛を感じたりして費用を削るのは2級の節約だと思っています。確かに節約には成功しますがフラストレーションがたまるばかりだからです。

それでは1級の節約とは何かというと、ストレスを感じずに支出だけを削るような、いわば「楽しい節約」です。同じ行為が不幸感となるのか幸福感となるのかは、お金と幸せの関係を考えるファイナンシャル・ウェルビーイングでは重要な視点です。

同じ1万円の節約の達成も「苦痛に満ちた節約1万円」と「楽しく実現した節約1万円」の価値が違うと考えてみてほしいと思います。

また、節約には、今の支出カットで将来手に入れることになる「プラスの側面」があることにも目を向けてみるといいでしょう。私たちはただ苦しい節約をして終わるのでしょうか。節約をすることにより資産形成ができれば、将来の夢を手にすることになります。

自分の未来の出費ではなく子どもの進学費用の捻出だったとしても、達成によって得られる幸福感はあるはずです。

あるいは、しっかり家計のメリハリをつけて得る「幸せな節約」もあります。例えば光熱費や日用品費は徹底的に削るが、生きがいでもある酒代は削らない、というのも節約を楽しむひとつのパターンです。我慢できるところを削ることにより好きな支出をやめず、全体として家計を黒字で維持しているなら、これは賢い節約といえます。

こんなふうに、節約の見方を変えてみると、節約もまた私たちに幸福感をもたらすファイナンシャル・ウェルビーイングの要素となってきます。

試行錯誤する自分をまず楽しむ

苦しいはずの節約を幸せな節約に変えるとしたら、具体的には何を心がけるべきでしょうか。まず最初に「節約する自分を楽しむ」というマインドを持つことです。

節約をする自分を卑下する必要はありません。誰にだって節約は必要なスキルです。うつむくことなく顔を上げ、スーパーの店内を見回してみましょう。

いつもは5分で通り過ぎていた店内に15分滞在して、いつもは寄らない棚に目を留めてみましょう。例えば清涼飲料水のコーナーだけではなく、コーヒー豆や茶葉のコーナーに立ち寄ってみます。牛乳で割れば1杯30円ほどでミルクティーやカフェオレが作れるもと(ベース)が売られているという発見があったりします。

ジャスミン茶なども100円以上かけてペットボトルを買うならティーバッグを使えば味は変わらず値段が1杯数十円にダウンします。いろんな気づきが店内にはあふれているはずです。

値段が大差ないなら新商品に手を出してみるのもいいでしょう。きっといつもと同じ商品を買うより満足度は高まります。

店内だけでなく、雑誌やネットの記事にアンテナを張ってみましょう。例えば近年の技術革新により冷凍食品の味が向上したことを知ったら、今まで「どうせおいしくないから……」と手を出さなかった商品に目が向きます。楽しく試してみましょう。数百円で家族の感動が得られるかもしれません。

試してはみたものの、「やっぱり安い商品は質も低いな」となることがあります。このときも幸福感を生む発想をします。「私たちのいつもの当たり前の商品は満足度の高いいいものだったんだ!」と再確認すればいいのです。「あー、失敗した!」と考えるよりよほど楽しい消費生活になります。

同じ満足をより安く買う

アンテナを張ることは「安く買う」ためにも役立ちます。節約のカギはやはり低コストの支出ですませることです。

例えば、スーパーマーケットやドラッグストアは値上げの動きが広がる中でも売り上げ確保のためにポイント還元率を上げる特定日を設けたり、特定商品の高還元率日を設定していたりします。

火曜日はベーコンが20%オフ、水曜日はトイレットペーパーが15%ポイント還元、今月だけジャムやはちみつが20%オフ、というような情報を使いこなせる人は楽しく節約を実現します。

お店のほうは「来店したお客さんはベーコンを目当てにやってきて、牛乳やパンも買ってくれるだろう」という効果をねらっていますから、買いすぎには注意しつつお得さをしっかり勝ち取りましょう。

ポイント還元やクーポン利用もそうです。同一商品が実質的にはより安く買えるわけですから、賢く利用したいものです。これまた、好奇心とアンテナを張り巡らせるアクションが大切になります。

固定費こそ徹底的に削り落とす

何度か本連載でも節約のテーマを取り扱いましたが、必ず紹介してきたのは「固定費の削減」です。これは消費にまつわる幸福感として考えても、合理的な判断です。

私たちは実際にお金を動かしたときに感じる感覚を、自動引き落としで感じることはできません。あるいは定額料金に満足度を感じにくいものです。「今月のスマホ料金、7315円が自動引き落としされていたけどお得でうれしいな!」とは誰も思いません。

だとしたら、幸福度にあまり影響しない固定支出ほど、切り詰めておいたほうがいいでしょう。むしろ安いプランに変えるほど、高い幸福感が生まれるかもしれません。

実はほとんど利用実態がないサービスは解約、現状と同等のクオリティーが維持される割安サービスがあるものは乗り換えることで、大きく固定費を削減し、その分、手元にお金が残る「幸せ」を獲得することができます。

節約にはいろんなアプローチがありますが、私たちに幸せをもたらす手法でもあります。しかし、節約を低レベルなことだと思い込んでいる人が多いのは残念なことです。むしろ節約は知的好奇心のある人がうまくいく行為です。

節約をするほど苦しくなるのではありません。節約に取り組むほどに私たちは楽しく暮らすことだってできるのです。

◇  ◇  ◇

FP山崎のLife is MONEY」は毎週月曜日に掲載します。

山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ)
フィナンシャル・ウィズダム代表。AFP、消費生活アドバイザー。1972年生まれ。中央大学法学部卒。企業年金研究所、FP総研を経て独立。退職金・企業年金制度と投資教育が専門。著書に「読んだら必ず『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」(日経BP)、「日本版FIRE超入門」(ディスカバー21)など。http://financialwisdom.jp

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