/

世界的なインフレの根は深い(澤上篤人)

「ゴキゲン長期投資」のススメ さわかみ投信創業者

ここにきて、インフレの進行スピードがやや緩くなってきている。そういったマスコミ報道が目立ってきた。とはいえ、現在進行中のインフレが、そう簡単に鎮静化するとは思えない。インフレには2種類ある。通常のデマンドプル型は、景気が良くて需要サイドの旺盛な購入意欲が物価を押し上げる展開をいう。こちらのインフレは価格があまりに高くなり過ぎると、購買意欲が急激にしぼみだす。それで、物価高は自然と収まっていく。

一方、今進行中のインフレはコストプッシュ型である。供給サイドでコスト上昇圧力が発生し、それによる価格上昇が生活者に襲いかかる図式となる。典型例は、あの石油ショックだ。1973年10月に発生した第1次石油ショックで、戦後ずっと1バレル3ドル以下だった原油価格が、一挙に10ドル、11ドルと引き上げられた。そして、79年末から80年初にかけての第二次石油ショックで、原油価格は30ドル以上に跳ね上がった。

世界中の原油価格が10~11倍となったのだ。エネルギー価格が急騰すれば、他のあらゆる分野に価格上昇圧力が及んでいく。それが、世界的なインフレにつながっていったのだ。

投資不足がインフレを加速する 

今進行中のインフレも、あの石油ショックほどの強烈さではないとしても、相当に根の深いものになっていこう。当時は、石油輸出国機構(OPEC)が一致団結して原油価格を強引に引き上げた。今回は当時のような政治圧力ではなく、様々な供給のボトルネックが複雑に絡み合ってエネルギーなどの価格の上昇となっている。

ロシア軍のウクライナ侵攻に対し、西側諸国は強烈な経済制裁をロシアに科した。その中には、ロシアからの原油や天然ガスの輸入制限や全面禁止がある。世界有数の産油国であるロシアからの原油やガスの供給が大幅削減となれば、エネルギー価格は上昇する。つまり、コストプッシュ要因だ。

さらに構造的な問題は、地球温暖化と異常気象に対して、先進国を中心に脱化石燃料の動きが強まっていることだ。また、年金などの機関投資家運用もESG(環境・社会・企業統治)やSDGs(持続可能な開発目標)を掲げて、石炭はもちろん石油や天然ガスの採掘には反対の圧力をかけている。それが、資源会社の投資不足を誘引しているのだ。化石燃料への投資不足は、間違いなくコストプッシュ要因になっていく。

エネルギーなど資源開発において、新規開発投資のみならず設備のメンテナンス投資も不可欠である。一度でも投資を削減したり中断したりすると、すぐには元の供給力の水準にまで戻らない。下手したら、2~3年はかかる。その間ずっと供給不足が続き、価格は高水準に張り付いたままとなる。

そのうち、エネルギーや資源に端を発したコストプッシュ圧力は、他の生産供給分野へも及んでいく。当然のことながら、供給サイドからの物価高は人々の生活を大きく圧迫する。それはそのまま、賃金上昇圧力となっていく。このようにコストプッシュ型のインフレは根が深く、また横へ連鎖していく。そのため案外と長引くことになる。そう覚悟しよう。

四十数年ぶりの本格的なインフレ

今進行中のインフレは、70年代以来、つまり四十数年ぶりの本格的なインフレとなろう。当時、米国の長期金利は6~7年にわたって10%台を続けた。79年に米連邦準備理事会(FRB)の議長に就任したボルカー氏は、インフレ撲滅を最優先課題とし、金利をどんどん引き上げていった。その結果、81年9月に長期金利は15.8%を記録するほどにまで上昇した。5月末時点の長期金利2.8%と比べるに、なんと13%ポイントも高いのだ。さすがに、今回そこまで長期金利が上昇するかどうか、現時点では想像すらできない。  

ともあれ、長期金利の大幅上昇は景気動向には明らかにマイナスとなる。景気後退もあり得る。そうなると、不況下の物価高、つまりスタグフレーションの到来も、十分に考えられる。日本がこの30年ほど陥ってきたデフレ現象とは違う。景気は悪いのに、インフレは高水準となれば、一般生活者には厳しい現実となる。

よくインフレ時は年金生活者が一番きついといわれる。だが、スタグフレーションとなれば物価高ほどには給料が増えないので、生活者全般に厳しさが及ぶ。それが消費の減退を招き、景気をさらに悪化させる。しかしコストプッシュ型のインフレはそうたやすく収まらない。進行中の金融緩和バブルは早々に吹き飛ぶだろう。

澤上篤人(さわかみ・あつと)
1973年ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。ピクテ・ジャパン代表取締役を務めた後、96年にあえてサラリーマン世帯を顧客対象とする、さわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立。
日経マネー 2022年8月号 波乱も乗り越える 勝ち組投資家大研究
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP(2022/6/21)
価格 : 800円(税込み)
この書籍を購入する(ヘルプ): Amazon.co.jp 楽天ブックス

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

関連企業・業界

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン