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円安の終わりが近い理由 1ドル=120円割れも?

エミン・ユルマズの未来観測

今年、急激に進んだ円安が転換点を迎えています。今まで円安をもたらしていた理由がなくなるため、場合によっては数カ月のうちに、1ドル=120円割れまでの急激な円高もあり得ると私は見ています。

そもそも、なぜ円安が進んだのでしょうか。重要なのは、ドルの上昇は対円だけではなく、世界中の通貨に対してだということです。ここまでの円安・ドル高水準は24年ぶりですが、対ドルではユーロも20年ぶり、英ポンドは37年ぶりの安値。円が独り負けではないのです。

背景にあるのはコモディティー(商品)価格の上昇と、それを加速した地政学リスクの高まりです。原油も天然ガスも、基軸通貨のドルでしか買えません。コモディティーの高騰は、特に新興国でドル不足を招き、ドル相場を押し上げました。典型がトルコです。観光が主要な外貨獲得手段でしたが、コロナ禍で観光産業は止まり、コモディティー高で経常赤字が拡大。トルコリラの対ドル相場は、2020年初と比べて3分の1以下の安値になりました。

世界各地のドル不足が明らかになり始めたのは20年末からです。日本も20年秋以降の貿易収支悪化を受けて、20年末から円安・ドル高が始まりました。日本もそこそこあった観光による外貨収入が消え、原発が止まっていることもあり、エネルギー価格上昇がドル高につながりやすい構造でした。

中国発の原油価格低下

しかし、22年も終わりが近づいた今、状況は異なります。ドル独歩高の主因と言えた原油価格は天井を打ち、6月以降は9月まで、4カ月連続の下落となっています。背景にあるのは世界経済の減速ですが、特に大きいのが中国の需要減で、今年は前年比で2.7%減の見込み。中国の原油需要が減るのは1990年以来で、世界全体の原油需要への影響度も大きいといえます。石油輸出国機構(OPEC)の減産があっても、原油価格は低下トレンドが続くでしょう。

天然ガス価格はまだ高いですが、これは欧州のロシア産天然ガスへの依存度が局地的に高かったためで、世界全体の液化天然ガス(LNG)需要は減り始めているのです。欧州も必死でロシア以外の地域からLNGを買い集め、この冬向けの備蓄はメドが立ったもよう。ドイツが原発再稼働を許容する方針を示したこともあり、最悪期は過ぎたと言えるでしょう。

21年以降のドル独歩高をもたらしたファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)要因は終わりつつあります。しかし円については、22年後半にさらに急激な円安・ドル高が進みました。日米の金融政策の違いを材料に、ゼロ金利の円を調達してドル資産を買う「キャリートレード」や、ヘッジファンドによる投機的な円売りが増えたためです。日本の将来を悲観した円売りではなく、投機筋が積極性を増したゆえの「リスクオンの円安」だったと言えます。

円安の巻き戻しが迫る

投機的な円安・ドル高の結末はいつも同じで、急激な円高への巻き戻しです。1998年に1ドル=147円台まで進んでいた円安は、米ヘッジファンドのLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)が破綻すると数カ月で108円台まで円高に。リーマン・ショック前の07年に1ドル=124円台まで進んでいた円安は、サブプライム問題の表面化後に反転し、1ドル=75円に迫る超円高につながりました。

米国では株と不動産の両方でバブル崩壊が起きつつあります。インフレ退治のための利上げは、米国景気をハードランディング(硬着陸)させるでしょう。米国は少ない企業による寡占(オリゴポリー)状態の業界が多く、コスト高の価格転嫁が容易なため、構造的にインフレが起きやすい経済です。短期的な利益を重視する株主至上主義の影響もあり、ハードランディングなしのインフレ抑制は現実的ではありません。今後数カ月のうちに、米国のリスク資産が一斉に売られる局面が来る可能性があり、だとすればキャリートレードの巻き戻しに伴う急激な円高も必然です。

繰り返しますが、今年の円安は「日本離れ」ではありません。日本が巨額の対外資産を持つ国で、円が安全資産であることを背景にした、投機的な「リスクオンの円安」です。今年の日本経済はむしろ相対的に堅調であり、4~6月期の国内総生産(GDP)はコロナ禍からの経済再開を反映し、3四半期連続のプラス成長になりました。10月からインバウンド(訪日外国人)の入国制限が緩和されたため、今後は観光の外貨収入が復活し、日本の景気回復や円高につながることが考えられます。

政府は1ドル=146円近辺で24年ぶりの為替介入に踏み切り、投機的な円安をけん制する姿勢を示しました。この状況で米国のバブル崩壊や、中国経済の減速がさらに進めば、「リスクオフの円高」の現実味は高まります。

ドル独歩高をもたらした地政学リスクの高まりは今も同じなので、リーマン・ショック後のような1ドル=80円割れ水準までの円高は考えにくいですが、1ドル=120円程度までなら十分あり得るでしょう。そこが日本の輸出企業にも輸入企業にも居心地のいい水準と思われますが、為替相場が大きく動く時は、適正水準より行き過ぎるのが通例。120円割れも想定すべきです。日本の投資家からすれば、当面は米ドル建て資産全てが危険な状況と言えます。

逆に、リスクオフで円が買われる局面では、日本の内需株が海外の投資家に評価される可能性もあります。日本はインフレの起きにくい構造もあり、世界経済の中で非常に特殊な存在なのです。

エミン・ユルマズ
トルコ出身。16歳で国際生物学オリンピックで優勝した後、奨学金で日本に留学。留学後わずか1年で、日本語で東京大学を受験し合格。卒業後は野村証券でM&A関連業務などに従事。2016年から複眼経済塾の取締役。ポーカープレーヤーとしての顔も持つ。
日経マネー 2022年11月号 インフレに勝つ資産強化入門
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP(2022/9/21)
価格 : 750円(税込み)
この書籍を購入する(ヘルプ): Amazon.co.jp 楽天ブックス

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