長期投資家は目先の景気後退を恐れない
積立王子への道(69)

足元では実体経済の悪化が顕著だ
国際通貨基金(IMF)が2022年10月に公表した世界経済の成長率見通しは22年が4.4%から3.2%へ大幅に下方修正され、23年は2.7%にとどまるとの予測になった。とりわけ23年の米国は1.0%、ユーロ圏は0.5%という極端な低成長が予測され、実態的にはリセッション入りが避けられないとみられる。実際、中央銀行である米連邦準備理事会(FRB)は米経済の減速を覚悟した上で、高水準のインフレ抑制を最優先課題に据えて急速な金融引き締め政策にカジを切った。足元では既に需要の冷え込みからモノの価格下落が始まり、インフレ鈍化の兆しも見えてきた。米国経済は圧倒的に内需が主役なので、消費の減退は企業業績全般の下押しに直結し、株式市場への逆風となる。
マーケットは先読みして動くんだ
……というセオリーの一方で、マーケットには先へ先へと読み込んで動こうとする習性がある。これから景気が後退するなら株価が調整する連想が働くが、市場はさらにその先を見越して動く。リセッションによりインフレは沈静化し、米国の金融政策が緩和方向に転換、すなわち年後半には利下げに向かう可能性まで織り込もうとしているんだ。こうしたマーケットの催促を政策当局が受け入れるなら、株式市場には先行き強い追い風が吹く大転換が待っているだろう。
短期的な上げ下げは誰にもわからない
参加者の思惑の集積で先行して動き、悲観と楽観を繰り返す――それがマーケットだ。先行きへの期待と不安、いわば感情の綱引きそのものが価格を動かす源泉なのでマーケットの方向性が実体経済や政策当局の判断とは食い違うこともしばしばだ。だから目先の相場の値動きはなかなか当てられない。今、そこにある世の中の現象や景色を見てマーケットの動きを予測すると、必ずしも想定通りには動かない。つまり短期的な相場の上げ下げは本当に誰にもわからないことなのだ。
長期投資家は長期成長軌道を見据える
そこで重要になるのが長期投資家の視点だ。実体経済は景気循環で浮き沈みを繰り返し、マーケットも短期的にはランダムに動く。しかし長期的には人類の英知がその時々の社会的課題解決に向けて切磋琢磨(せっさたくま)し、やがて克服に向けたイノベーションを生み出す。その集積が経済成長の源泉であり、無数に存在する課題を解消せんとする社会的需要に応える主役は、全て企業が営むビジネスだ。人類はかくして営々と課題のハードルを越え続けることで、より豊かな社会を実現させてきた。この普遍的な長期成長軌道を見据えて行動するのが長期投資家だ。
人類の進歩というメガトレンドに寄り添って投資のリターンを得ようと腹をくくったら最良の選択は何か? 投資家であり続けること、すなわち投資を継続することだ。長期投資の神髄がここにある!

積み立て投資には、複利効果やつみたてNISAの仕組みなど押さえておくべきポイントが多くあります。 このコラムでは「積立王子」のニックネームを持つセゾン投信会長兼CEOの中野晴啓さんが、これから資産形成を考える若い世代にむけて「長期・積立・分散」という3つの原則に沿って解説します。