「無感動消費」から脱却 100均の買い物にも意味を
お金にまつわる悪い癖・習慣(3)

今月はお金の悪い癖、習慣を改善してみようというテーマです。ネガティブシンキング、衝動買いを改善したところで、次に考えてみたいのは「無感動消費」です。
そもそも、無感動消費とはなんでしょうか。
私たちは値段に見合う感動を引き出せていない
私たちは日々、いろいろな買い物をします。コーヒーを1杯飲むとき、日用品をドラッグストアで購入するとき、食材をスーパーマーケットで購入するとき、私たちは数百円から数千円を支払います。毎日何回お金を払ったか、いくら払ったかいちいち覚えていられません。
これに対して大型出費は比較的印象に残ります。旅行に行くとき、誕生日プレゼントを友人に買うとき、家電が壊れて買い替えをするとき、何万円かかったか強く意識していることでしょう。
しかし「価格に見合う感動や納得があったか」という観点で見るとどうでしょうか。大型出費は熟慮して決断をしたり、夢の実現のために時間を費やしたりした分(毎月貯金して旅行にいくなど)、満足や感動が実感しやすいものです。
ところが少額の買い物ほど、私たちは無感動で会計をし、消費するにあたっても無感動のままであることが多いものです。これが「無感動消費」です。
100円均一ショップで330円を払って3品購入したとき、「ああ、330円は満足のいく出費だったなあ」と感じることはないわけです。確かにトイレットペーパーを購入するたび感動している人はいません。安く買えれば満足するはずですが、値段に無頓着ともいえます。
物価が上がり始めている今こそ、日々の買い物に実感を持つところから消費生活を改めてほしいと思います。
自動引き落としという「無感動」に注意
無感動消費といえば「自動引き落とし」による支払いも要注意です。クレジットカードや銀行の預金口座から定期的に引き落とされることがあらかじめ定まっている場合、なかなか利用額に見合う実感を得にくいからです。
例えば「ああ、今月もスポーツジムの会費が落とされた。私は会費に見合う満足を得た!」と思いを新たにする人はまずいません。知らないうちに引き落とされるのが自動引き落としだからです。節約を目指す家計管理では自動引き落としの項目を点検するようアドバイスしますが、そこが「無感動消費」の温床となりかねないことに注意してチェックをしてみてください。
クレジットカードの利用明細、銀行の預金通帳の引き落とし履歴をチェックすると、利用実態がゼロの引き落としがあったり、サービスには満足していないが解約が面倒なので放ったらかしの支出があったりします。
無感動消費が確実に家計をむしばんでいるわけですから、自分の心に問いかけ直してみてはいかがでしょうか。
ちなみに感動や満足が確保されているのであれば、割高な会費も無駄ではありません。家計のバランスが確保されているのなら、「推しへの課金」だって「月会費が高いサブスクリプション(定額課金)サービス」だって続けていいのです。肝心なのはその「感動」の有無です。
キャッシュレス決済で生じる「無感動」も
近年、無感動消費を誘発するツールが誕生しています。それはキャッシュレス決済です。
現金のやりとりを介さない決済ができる、便利なキャッシュレス決済が普及しています。QRコード決済の代表格であるPayPay(ペイペイ)は4500万人の登録ユーザー数を、交通系電子マネーの代表Suica(スイカ)は8700万枚の発行をそれぞれ誇ります。
新型コロナウイルス禍で一気にキャッシュレス決済に切り替えをした人もいるでしょう。便利な仕組みであることは間違いありませんが、「現金をやりとりしない」のがくせ者です。
私たちは長年、現金の授受により支出の感覚を自分にフィードバックしてきました。1万円札が崩れた感覚、小銭が減っていく感覚が節約の危機感とも結びついてきました。消費の実感や感動もここに結びついていたはずです。
しかし、スマートフォンにモバイルチャージをしてピピッと決済をした場合、こうした重みはありません。100円の決済も1000円の決済もなかなか実感が持てず、感動も薄れがちです。
かといって、キャッシュレス決済から現金決済へ戻しましょうというわけではありません。ポイント還元などを考えればやはりキャッシュレス決済がお得で便利であることは間違いなく「キャッシュレス決済だからこそ、感動に値する消費か自問自答する」習慣をつけてみたいところです。
「そもそもピッとしなくてもいい消費」をやめたり、「より安くて満足度は同等の消費」に置き換えてみたり、意識的に工夫をしてみましょう。自分の消費に関心を持ち直すことが無感動からの脱却でもあるからです。
お金を使う感動と感謝 心を動かしてみよう
最後に指摘したいのは「感謝」の心です。無感動消費をしているということは、その支出についての感謝も生まれていないということです。もしかすると「無感動と無感謝」のセットが問題なのかもしれません。
「ちゃんとお金を払ったのだから感謝など無用」という意見にも一理ありますが、あなたの購入する品目、サービスのほとんどはたくさんの人の手を経て届いています。あなた自身も仕事をして誰かに喜ばれたり感謝があったりしたほうがうれしいはずです。
まずは店頭での会計のとき、店員さんに「ありがとう」と言ってみましょう。キャッシュレス決済であっても感謝の意を伝えて消費を実感することができます。いつもの消費が無感動から一歩脱却できるはずです。
食事をするとき「いただきます」と声を上げていない人は、久しぶりに声を出して手を合わせてみましょう。いつもの食費の支出にも違う意味合いが生まれてきます。
金額をたくさん使えば満足が高まるわけではありません。自分が使える範囲でより幸せを手に入れるために、もう一度「感動」や「感謝」をする消費をしてみてはいかがでしょうか。
【この連載を読む】
◇ ◇ ◇
「FP山崎のLife is MONEY」は毎週月曜日に掲載します。

ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔氏が若年層に向けて、「幸せな人生」を実現するためのお金の問題について解説するコラムです。毎週月曜日に掲載します。