/

金利上昇時代 3人の成長株投資家はこう動く

金利上昇に勝つ投資戦略(下)

日本銀行の金融政策が修正され、日本でも「金利上昇」の言葉が意識されるようになった。日銀総裁の交代も目前となり、金融政策の動向に引き続き注目が集まる。金利上昇に弱いとされる成長株だが、成長株を主力とするスゴ腕投資家はどう見ているか。語り合ってもらった。

――グロース(成長)株投資を得意とするスゴ腕の個人投資家に集まってもらいました。まずは改めて皆さんの投資スタイルを教えてくだい。

DUKE。さん(ハンドルネーム、以下はD) 新高値を付けた銘柄の中から、チャートの形やファンダメンタルズ(基礎的条件)を調べて、業績の良い企業や、何か変化が起きている企業に投資します。基本的には、1.5〜2倍高を狙える銘柄を買いたいと思っています。

すぽさん(同、以下は) 私は中長期で有望な割安グロース株を狙っています。「成長・ビジネスモデル・割安」の3点で見て、5年で2倍高ぐらいが期待できる銘柄を選ぶ。年15%ぐらいのペースで売り上げや利益が増える企業の株を、PER(株価収益率)20倍ぐらいで買いたいと思っています。

kenmoさん(同、以下はk) コロナショックの後から、「基本的に決算のタイミングでしか売買をしない」という方針に転換しました。世の中の変化が大きくなったので、「適時開示情報を丹念に見ないと相場に付いていけない」と感じたからです。そうした売買がポジションの6〜7割を占めていて、残りの3〜4割は、2〜3年などの長めの保有を想定しています。最近は長めのポジションが増えていますね。

昨年はどう戦ったか

――米国の金利上昇の影響もあり、2022年から東証マザーズ指数は不調が続いています。

k 「景気が悪い」「相場環境が悪い」とよくいわれていますが、私にとっては昨年から今年は比較的「やりやすい相場」と感じています。22年の初めはポートフォリオの現金比率を7割ぐらいにして、大平洋金属とか三井ハイテックなどの決算が良かった銘柄や、株価が好調な新規株式公開(IPO)銘柄の価格上昇のモメンタム(勢い)に乗りました。

相場全体は弱かったけれど、個別銘柄を拾っていけば闘うことができた。ただ周りの話を聞いていると、中長期の割安成長株投資が全く報われない1年だったのは確かです。

 私はまさに一番苦しい、割安グロース株の中長期の保有が主力です。22年1月の下落にびっくりして、「これはやばいな」と。現金の比率を9割ぐらいにして、仕切り直しました。危険な時は逃げるようにしています。

グロース株はずっと崩れる様相だったので、その間は触らず、PER10倍などで買える"成長は甘いけれどもディフェンシブ性のある割安株"などを組み込みました。ただ5〜6月頃から「このバリュエーションだったら買いたかった」という銘柄が見つかるようになったんです。それらを買っていってき、IPO株などにも投資して、年間プラス12%ぐらいで終えることができました。

D 私もいわゆる「逆金融相場」と分かっていたので、昨年の初めはほぼキャッシュだけのポジションでした。その後、強そうな株をちょっと買って、「やっぱり駄目だ」と思ってすぐに売って。

でもすぽさんが言うように6月ぐらいから相場つきが変わって。今は直近のIPO株などに投資しています。ただ、短期で株価が伸びてもその上を買ってくれる機関投資家がいないので、伸びないんですよね。ドカンと吹いたらさっさと売る。そういうスタンスで、少しずつ利益を積み上げました。

――日本でも金利が上昇すれば成長株投資はさらに厳しいのではないか、という声もあります。23年のグロース株市場についてはどう見ていますか。

D 日銀が今年最大のリスクだとは思っています。昨年の12月20日に長期金利の上限を0.5%に引き上げた時に、日経平均株価も東証マザーズ指数も大幅に下がって、金融政策の修正が株価の強い売り圧力になることがはっきりと分かりました。

でも、個別株次第だとは思っています。強い個別銘柄というのは必ずあるので、チャートと中身を見て投資する。これで十分勝てると思っています。

 成長株って、20年ぐらいまでの調子が良かった頃はその分割高で、PER20倍で買える銘柄はどんどん減っていました。もうだいぶ下げたので、以前は高PERのグロース株だった銘柄は半額ぐらいになっていて、整理し終わった雰囲気です。良いビジネスモデルの会社の株が、さらに半額になるのは考えづらい。

k 金利が上がれば株価は下がるといわれますが、日本は金利が上がったとしてもその水準は低い。少なくともまだ1年は低金利が続く中で、中小企業に関しては業績が良い会社が多くあって、バリュエーションもいいものがゴロゴロしている。さらに、2年前では想像できなかったぐらい中小企業が投資家向け広報(IR)を積極的にやっていて、情報が取りやすくなっています。「日本の成長株をやらない理由があるのか」と思ってしまうぐらい環境がいい。

一時的なショックに備える

――金利上昇を受けて株式市場でショックが起きる可能性もあります。備えていることは。

 ショックの雰囲気次第では、降りることはあり得ます。ただ、短期的に下がるのは仕方がないかなと。今はフルポジションに近いですが、ディフェンシブ株も組み入れているので、そういう意味では対策をしています。

k 日経平均2000円下げなどの急落は1〜2年に何回かあると思っています。私は手法でコントロールします。中長期のポジションは3割ぐらいにし、残りの約7割は含み損になったら切る。相場が下落したらキャッシュポジションが増えるようにしています。

 下落相場が来ればキャッシュが増える仕掛けだ。

k 残る約3割の株は、シナリオが崩れなければ株価が伸びると踏んでいる銘柄なので、3〜4年は持ち続けます。

割安なSaaSも増えた

――皆さん今は、どういった株に注目していますか。

 私はクラウドでソフトを提供する「SaaS(サース)銘柄」が好きで。コスト高や為替の影響も受けづらい。割高なので、相場全体が下がった時にいの一番に下がってしまうんです。そのため少し前は「いいSaaS銘柄だな」と思うとPER60倍台ぐらいだったのが、PER20倍台などで買えるようになっています。

SaaSであれば1〜2年で、売り上げが20%増、利益が30%増というレベルの成長はし得る。そういうところは今は仕掛けやすいし、株価が上がるのに苦労しない1年になると期待しています。

D 最近は直近IPO株にポジションが寄っていますね。競合が少なく値上げ耐性があり、利益率が高い銘柄などに注目しています。あとはインバウンド(訪日外国人)関連です。中国人観光客の戻りも期待できますし。

 昨年末、北海道へ旅行に行ったんですが、「結構外国人がいるな」と思いました。動きとして既に来ている感じはあります。私もインバウンド関連は、固定費が重くて損益分岐点が高い企業の株に注目しています。客単価や稼働率が上がれば、利益率が一気に増える。値上げもできるとさらにプラスです。

k 私はできるだけ人が注目していないテーマを選びたくて、例えばインバウンドなどはあまり刺さっていないんです。個人的に注目しているテーマは5つあります。①DX(デジタルトランスフォーメーション)②省エネ③富裕層の税金対策④人手不足⑤リスキリング――の5つです。

特に注目しているのが富裕層の税金対策。贈与税の改正などで富裕層の節税への引き締めが厳しく、不動産を使った節税スキームにニーズが生まれているはずです。金利上昇で不動産関連株は売られていますが、節税対策としては需要があると踏んでいます。

――DXについては。

k すぽさんが注目しているSaaSと同様、一気に株価が盛り上がって、ガラガラと期待が剥落した状態。ここから成長の実態に伴って株価が評価されていくフェーズだと思っています。期待じゃなくて、実態で買われる。あと1月の決算発表を受けてセラクがストップ高を付けたのを見て、DXは行けるかなとみています。

D ベイカレント・コンサルティングチェンジなども上がっていましたもんね。DX、復活してきたのかな。

そろそろ「キラキラグロース株」に目を向けてもいいのではないかとも思います。赤字企業は絶対買わないですけれど。「先行投資」は信じない。他の投資家もまだ信じていないと思う。

 SaaSって、上場した時が一番見栄えがいいんですよ。ただ、その後が肝で、成熟期に入って「皆20%ぐらいの成長を期待しているのに、10%ぐらいしか成長が見込めない」というパターンが危ないんです。

経営者は困って、「広告に先行投資する」「新規事業を伸ばして売り上げだけでも20%成長する」などとアナウンスする。でも事業を新しく広げるのは上場前にやるべきことで、だいたいの場合は苦し紛れ。新しい事業ってそんな簡単に見つかりません。さらに広告費が利益を確実に削ってしまう。

――では、どういったSaaS銘柄を選んでいるんですか。

 SaaSは損益分岐点を超えると、一気に利益が増えていくビジネスです。成熟期に入った企業の株には触れず、「これから利益が出る」という銘柄を狙います。一見同じような銘柄でも、成長のフェーズが違うことが多いので、慎重に見ていきます。

――金利上昇下でも狙えるグロース株がある気がしてきました。

 金利の影響の大きい銘柄は触らないように意識しています。

k 株価を動かす重要な要素だと思いますが、意識するあまり悲観的になり過ぎないようにします。他の投資家が意識しすぎだと思ったら買い増すことも考えます。

D 私も金利は毎日見ているけど、資金量を調節するぐらい。個別の強い株を、ボックス圏の底で拾っていきたいですね。

(大松佳代)

[日経マネー2023年4月号の記事を再構成]

日経マネー 2023年4月号 インデックス投資より儲かる! 日本株&投信 勝ちワザ大全
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP(2023/2/21)
価格 : 800円(税込み)
この書籍を購入する(ヘルプ): Amazon.co.jp 楽天ブックス

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

資産形成に役立つ情報を届ける月刊誌『日経マネー』との連動企画。株式投資をはじめとした資産運用、マネープランの立て方、新しい金融サービスやお得情報まで、今すぐ役立つ旬のマネー情報を掲載します。

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン

権限不足のため、フォローできません