SVB破綻の影響が「局所的」だと考える理由
広木隆のザ・相場道

そもそも、世界の経済環境は「リスキー」なのか?
かつては、「米連邦準備理事会(FRB)の過度な利上げによる景気後退(リセッション)入りは不可避で、ソフトランディング(軟着陸)は難しく、ハードランディング(硬着陸)になる」と見られていた。
しかし今や、「ノーランディング(無着陸)」と言われるほど、経済は強い。米国の経済再開に加えて、中国はゼロコロナ政策を終了。欧州も暖冬の影響からエネルギー価格が低下し、インフレの落ち着きを好感して景況感が改善している。2月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は米欧中そろって好不況の境目である50を超えた。国際通貨基金(IMF)が2023年の世界経済見通しを上方修正したように、今や世界中で景気が強くなっている。
マクロ的には中央銀行の利上げが経済を傷めていない、ということである。では、ミクロの観点、企業レベルではどうか。米国企業の倒産件数を見ると、それなりに増加しているものの、利上げで増えた、という印象ではない。コロナ対策のための過剰給付や延命措置などの反動、自然増の範囲だろう。

市場の警戒感レベルは
では市場の捉え方はどうだろうか。「危機モード」にあるのだろうか。いわゆる「炭鉱のカナリア」の代表であるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のスプレッド(利回り格差)を見ると、直近の米銀行シリコンバレーバンク(SVB)の破綻劇などを受けて跳ね上がっているが、それでも22年の夏や秋に達しないレベルだ。

米株の変動性指数(VIX)、社債市場ディストレス指数(CMDI、新発債の価格や流通市場における流動性などの情報を集計して算出する)、OFRストレス指数を見ても、逼迫した状況にはない。こう見ると、今回の破綻劇などはあくまでも「局所的」なリスクだというのが市場の捉え方だろう。市場は「長期的にリスクが高まっている」とは捉えていない。
日本株の反応に見えるもの
それにしては日本株の下げ方がきつい。米金利の急低下による円高を織り込んで、円安メリットの銘柄が売られた側面もあるが、これまでバリュー(割安)株主導で高値をとってきた反動が主だろう。日本株は銀行株買いに支えられていたために、まさにそこが弱点になった。ファンダメンタルズ(基礎的条件)は全体として健全でも、ひとたびこのようなリスクが顕在化すると、「一時的なリスクオフのためのポジション解消」の動きが出やすい。
ここ数日の銀行株の売られ方を見ていると、日本の銀行もSVBの二の舞いになるかのようなリスクが懸念されているようだ。金利上昇で債券運用の含み損を抱えているのは世界中のどの金融機関でも同じ。国内の金融機関の有価証券ポートフォリオも、評価損が拡大している。
円債の金利リスク量(IRRBB、バーゼル銀行監督委員会が定める)について対自己資本比率で見ると、大手行が10%程度、地方銀行が20%程度、信用金庫が30%程度だ。高まってはいるものの、大きな問題というレベルではない。ただし地銀や信用金庫では、金融機関間のばらつきが大きい(中には危ないところもある)。
外債投資にかかる金利リスク量は、減少している。海外の金利上昇に対する警戒感から、これまで積み上げてきた長期ゾーンの残高を中心に削減し、平均残存期間(デュレーション)を短期化させている。この結果、外貨建て外債の金利リスク量の対自己資本比率は、大手行が10%程度、地銀が5%程度と、総じて抑制された水準だ。
結論として、日本の銀行が金利上昇による債券運用の損失拡大で致命傷を負うリスクは少ないと見る。ただしポイントは、「マーケットがどう見るか」という点である。満期保有で持ち切れば額面で償還されるので大丈夫だが、期中で預金の大量解約に見舞われ、保有債券を現金化しなければならないようになると、SVBと同様の状況になる。また、外債はヘッジコストのほうが運用利回りを上回る「逆ザヤ」になっているので、満期まで持っても投資元本が欠ける可能性があることには注意が必要だ。
金融システム不安は広がるのか
絶対にならないとは言えないが、今後、金融システム不安に発展する可能性は低いだろう。金利上昇で債券の含み損を抱えるのは世界の金融機関で共通だ。モンタナ州の農業銀行も、日本の地銀も同じだ。
しかし、破綻した3行は、その業態が特殊だった。米シリコンバレーのスタートアップ企業と暗号資産業界のための銀行だ。つまり、「ホット・マネー(簡単に言えばバブルのカネ余りのカネ)」が流れ込んだ業界と銀行である。
こういう特殊な業界や銀行はそう多くない。それが、今回のような破綻劇が広がらないと考える理由である。総括すれば、局所的バブルの崩壊が表面化したのだ。このバブルは局所的で、リーマン危機のクレジット・バブルのように世界的に大々的に広がったものではない。それが一番のよりどころだ。
そう考えると、日本の金融機関も債券の含み損は抱えるものの、経営基盤を揺るがすほどのレベルでないのなら、日本の銀行株は売られ過ぎだといえる。直近までのメガバンク買いの根拠であった①日銀のイールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)撤廃観測の強まり②東京証券取引所による低PBR(株価純資産倍率)改善の動き③配当利回りの高さ――という買いの根拠が消えたわけではないのなら、ここは買い場とも見える。

著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP(2023/3/20)
価格 : 800円(税込み)
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