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気候変動対応、検証なき衣替え 問われる日銀の歴史観

気候変動対応は中央銀行の守備範囲なのか。世界の中銀が脱炭素に向けた取り組みに乗り出すなか、各国で議論になっている。政府の役割である経済・産業政策にも踏み込みかねない領域だけに、日銀にも複雑な胸中が垣間見える。

「市場中立性に配慮し、ミクロの資源配分への具体的な関与を避けながら、金融政策面で気候変動への対応を支援する新たなアプローチだ」。黒田東彦総裁は7月27日の日本記者クラブの講演で、日銀が年内に始める気候変動対応の資金供給オペ(公開市場操作)についてこう述べた。

「『まずできることをやる』と考えた」。日銀幹部は気候変動オペをこう解説する。金融機関への資金供給にとどめ、投融資が脱炭素につながるかどうかは判断しない。オペ利用額に相当する当座預金に金利を付けることは見送り、過剰なインセンティブも避けた。

英イングランド銀行や欧州中央銀行(ECB)といった気候変動対応に積極的な海外中銀を意識しつつ、中銀の使命やその独立性との整合性を慎重に考えた上で「初めの一歩」を踏んだ。多くの市場関係者はこう受け止めた。それでも「気候変動対応は中銀の役目なのか」という命題に日銀が答えを出せているとはいえない。

日銀は気候変動は「中長期的にみて経済・物価・金融情勢に極めて大きな影響を及ぼしうる」ため、物価・金融システムの安定を責務とする中銀が民間の取り組みを支援するのは「長い目でみたマクロ経済の安定に資する」と説明している。

一方、気候変動対応に慎重な姿勢を崩していないのが米連邦準備理事会(FRB)だ。パウエル議長は6月、気候変動は「金融政策で直接考慮することではない」と指摘した。みずほ銀行の唐鎌大輔氏は「物価の安定に関係があるという理由だけで、中銀があらゆる政策課題を背負い込む理由はない」と中銀業務の肥大化に警鐘を鳴らす。

気候変動オペは2010年に始めた「成長基盤強化支援資金供給制度(成長基盤オペ)」の後継と位置づけるが、成長基盤オペが日本経済の成長基盤強化に効果があったかどうかの検証を日銀が発表する予定はない。創設時に「『日銀は経済産業省になるのか』と批判された」(日銀幹部)同オペは、静かにフェードアウトする。

「いま自分達がどういう政策をやっているのか、大きな歴史観がないといけない」。日銀が7月に公表した11年1~6月の金融政策決定会合の議事録。当時の白川方明総裁は、成長基盤オペの対象拡大を決める際にこう語っていた。

伝統的な金融政策にこだわりつつも、政治の声に押され新しい緩和手法を模索せざるを得なかった白川体制。黒田日銀は白川時代を反面教師に大胆な緩和を推進してきたがその余地は乏しくなり、白川時代の遺産ともいえる成長基盤オペの衣替えで気候変動対応に踏み出す。「大きな歴史観」は今、そこにあるだろうか。

(学頭貴子)

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