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良いインフレ? 悪いインフレ? 変わる投資の環境

積立王子への道(47)

投資の世界で「積立王子」のニックネームを持つ筆者が、これから長期投資に乗り出す後輩の若者にむけて成功の秘訣を伝授するコラムです。

良いインフレと悪いインフレの違いを知ろう

デフレ経済とは恒常的に物価が下落基調にある状態だ。価格がこの先さらに下がるとの見通しを皆が共有すれば、今消費せずに値下がりを待とうと考える。これがマクロ経済の活動停滞と縮小を招き、デフレが成長を阻害すると言われる主因だ。

他方インフレは物価上昇が前提。値上がりする前に消費しておこうと大勢が判断することで、経済活動が促進される。なかでも良いインフレとは、物価上昇が継続する状況下でも全体的な需要が持続的に旺盛な状態をいう。なぜ消費意欲が衰えないかというと、財やサービスの買い手である国民全体で値上がり分を吸収できる所得の増加が見込まれるからだ。これが程よいインフレ経済に立脚した典型的な経済成長サイクル、つまりインフレ期待→消費喚起→経済活動拡大→所得増→購買力増の好循環だ。

コロナで潮目がかわったんだ

新型コロナウイルス禍以前は、米国も欧州も心地良い経済成長に最適とみなされるインフレ率2%を下回って推移するディスインフレ状況下で、経済の期待成長率も低下傾向にあると言われてきた。ところが先進主要国はいずれもコロナ対策としてモーレツな量的金融緩和と大規模な財政投入を続けたことで潮目が変わったんだ。ロックダウン(都市封鎖)などで一時的に深く落ち込んだ米欧の実体経済は早々に回復軌道を取り戻した。とりわけ米国はいち早くリバウンドし快調な景気回復を遂げたが、その楽観環境に昨年秋ごろから副作用が顕在化し始めた。それがインフレの高進だ。

米欧日がいずれも金融政策の目標に据える2%程度のインフレ率に対して、米国では足元で消費者物価指数が7.5%まで過熱した。欧州でも5%超の推移だ。コロナで抑制された経済活動が急回復していく段階では、消費意欲も高まり物価上昇が一時的に加速することは想定内だ。金融当局も早晩インフレ率は2%台に向けて低下すると考えていた。ところがその勢いは今年になっても衰えず、どうやら想定外のインフレ状況が長期化するとの懸念が台頭してきたわけだ。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長がこれに慌てて、金融緩和縮小の早期完了と即時金利引き上げへと方針転換を明示したのは、足元のインフレが悪いインフレにつながる危機感を強く意識したからだ。

悪いインフレからスタグフレーションの芽

国民の所得増加に伴って程よく物価が上がるインフレは、実体経済の成長と相応にシンクロした好循環を引き寄せる。だが最近のコロナ禍を機にしたインフレは、良いインフレのサイクルでは説明できなくなってきた。

複合的要因があるが、大きいのはコロナ禍の世界的金融緩和であふれたマネーが株式市場のみならずコモディティー市場へも大量に流れ込み、原油をはじめとした資源価格を押し上げたことだ。折しも産業界挙げての脱炭素化競争が化石燃料の供給制約を強め需給が逼迫し始めた。おまけにロシアがウクライナを侵攻する可能性が高まってきたことから、世界有数の資源輸出国であるロシアから欧州への天然ガス供給停止リスクも現実味を帯びてくる――。様々な理由からエネルギー価格が高騰を続けている。あらゆる経済活動の糧であるエネルギー価格の上昇は、その先のすべての物価を押し上げる要因となる。これが「コストプッシュ型インフレ」で、企業業績が圧迫される中で景気停滞と物価高が併存する悪循環を招く要因となる。さらに景気が後退局面に陥ると同時にインフレ状況となれば、「スタグフレーション(不況下の物価高)」という最悪のシナリオの可能性さえ否定できなくなっている。

マーケットはしばらく悪いインフレへのおびえと、それに対する金融当局の政策姿勢に一喜一憂する荒っぽい値動きが続きそうだ。でも我々は長期投資家。今こそ長期的な経済成長軌道に目線を据えて、足元の市場の右往左往に決して動じぬ胆力が試される時だ!

中野晴啓(なかの・はるひろ)
セゾン投信株式会社代表取締役会長CEO。1963年生まれ。87年クレディセゾン入社。セゾングループ内で投資顧問事業を立ち上げ、運用責任者としてグループ資金の運用等を手がける。2006年セゾン投信(株)を設立。公益財団法人セゾン文化財団理事。一般社団法人投資信託協会副会長。積み立てによる長期投資を広く説き続け「積立王子」と呼ばれる。『預金バカ』など著書多数。

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積み立て投資には、複利効果やつみたてNISAの仕組みなど押さえておくべきポイントが多くあります。 このコラムでは「積立王子」のニックネームを持つセゾン投信会長兼CEOの中野晴啓さんが、これから資産形成を考える若い世代にむけて「長期・積立・分散」という3つの原則に沿って解説します。

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