6000分の220 つみたてNISA投信の狭き門
積立王子への道(57)

NISAは欧米の成功例にならって導入されたが……
米国では401kプランと呼ばれる確定拠出年金制度が普及して、時間の経過とともに多くの生活者が長期資産形成を実現させている。そして英国でもISAという非課税制度が奏功し、生活者に長期投資が定着した。そうした欧米の成功事例にならって日本でも2014年に少額投資非課税制度(NISA) が制度化された。NISAの名前には「日本版ISA」という意味が込められている。
ところが金融庁が意図した10年間という投資非課税期間に対して、「金持ち優遇」との批判が起きたんだ。そのため政治的妥協の結果、非課税期間5年という長期投資というには何とも中途半端な期間になってしまったんだ。結果的に目先のテーマ型ファンドや毎月分配型投信など、本来であれば長期にわたる毎月定期定額での資産形成には不向きなファンドへとお金が流れてしまい、政府が期待していた若者や現役世代の本格的な参加を促すことができなかった。
反省に立って生まれた「つみたてNISA」
そこで金融庁は当時の森信親長官が先頭に立ち、生活者を真に長期積み立て投資に導く器として新たなNISA制度の構築に注力。18年からは積み立てという投資手法が必須で、かつ20年の非課税期間を持つ「つみたてNISA」をスタートさせたわけだ。底流には当時の金融業界が自社の利益獲得を目的として顧客本位の金融サービス提供をおろそかにしている状況に対する、監督機関としての深い危機感があったはずだ。金融庁の行政方針も同時に抜本的に方針転換させ、金融サービスを通じた国民生活の向上を目指し金融改革にメスを振るった時期だった。
選ばれるには厳しい要件がある
金融業界にニューパラダイムを構築せんとする過程で制度化されたのが「つみたてNISA」だけに、運用会社であれ販売会社であれ、投信に携わる金融機関にとって極めて厳しい制度設計になった。まず、一般NISAではすべての投信が投資対象であるのに対し、つみたてNISAでは長期資産形成に資する運用設計の投信のみ、という厳格な登録規制をかけた。さらに登録ファンドには販売手数料の徴収を認めなかった。結果的に顔ぶれの大半をスタンダードな指数に連動するインデックスファンドが占めることになった。アクティブ系ファンドもあるが、その顔ぶれは最低5年の運用実績に加え、過去3分の2以上の期間における毎月の資金流入超を必須とし、運用の対価である信託報酬にも種類ごとに上限を設けるなど厳しい要件を課したんだ。それはまるで、金融機関が自社の利益を最優先にコストが高く投機的とさえいえる投信を拡販している現状への怒りを表しているかのような要件だった。
「つみたてNISA=もうからない」の業界事情
日本にはどれだけの数の投信があると思うかい? およそ6000本もの公募投信があるんだ。そのうちつみたてNISAの投資対象として登録されている商品は約220本にとどまる。より厳しい条件が求められるアクティブ系になるとたったの20本程度だ。業界側からすれば、つみたてNISAでは一度に多額の取引にならない上、販売手数料も得られず高い信託報酬も期待できない。そんな事情を知ると、金融機関の窓口の担当者がつみたてNISAの対象ではない売れ筋系の商品に誘導しようとする事情もふに落ちるだろう。ハジメくんやいろはちゃんのような若者も、そこらへんの「大人の事情」を知った上で自ら商品や販売会社を選ぶ目を養うことが重要なんだ。

積み立て投資には、複利効果やつみたてNISAの仕組みなど押さえておくべきポイントが多くあります。 このコラムでは「積立王子」のニックネームを持つセゾン投信会長兼CEOの中野晴啓さんが、これから資産形成を考える若い世代にむけて「長期・積立・分散」という3つの原則に沿って解説します。