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株投信で58倍高を達成 米屈指のプロが勝因を動画で回顧

ピーター・リンチ氏の直弟子 米フィデリティのティリングハスト氏に聞く

昨年11月、米資産運用業界に波紋が広がった。卓越した成績を残してきたファンドマネジャーのカリスマが2023年末に引退することを表明したからだ。米資産運用大手フィデリティの看板ファンドを32年余りにわたって運用してきたポートフォリオマネジャーのジョエル・ティリングハスト氏――。同じフィデリティで活躍した伝説のファンドマネジャー、ピーター・リンチ氏から薫陶を受けた直弟子としても知られる希代のストックピッカー(銘柄発掘の達人)である。

今回はこのティリングハスト氏に、株式投資に対する思いや運用哲学を改めて聞いた。インタビューのハイライトを日本語字幕付きの動画でお届けする。以下では、動画に収録しきれなかったやり取りや同氏の後継者たちのインタビューを紹介する。

◇  ◇  ◇

ティリングハスト氏は、フィデリティの旗艦商品の一つである「フィデリティ・ロープライスド・ストック・ファンド(FLPSX)」をはじめ、複数の投資信託を運用している。日本でも、FLPSXと同じ投資哲学で運用する「フィデリティ・世界割安成長株投信 Aコース(為替ヘッジあり)」と「フィデリティ・世界割安成長株投信 Bコース(為替ヘッジなし)」が販売されている。

FLPSXは、世界の割安な中小型株を投資対象としたアクティブ運用型投信。銘柄選定の主なポイントは表の通りだ。この投信を1989年12月から運用し、抜群の成績を残してきた。設定日からの累積リターンは、2021年末時点で58倍まで増加した。

師匠のピーター・リンチ氏から学んだ教訓

ティリングハスト氏は、米調査会社バリューラインのアナリスト、米銀行大手バンク・オブ・アメリカの調査エコノミストなどを経て、1986年にフィデリティに入社した。その際に同氏に面談し、受け答えに深く感心して強力に推薦したのが、リンチ氏だったという。

ティリングハスト氏は筆者が行った今回とは別のインタビューで、リンチ氏との思い出を明かしてくれたことがある。リンチ氏の第一印象について、「ピーターは驚くほどエネルギーに満ちあふれていた。非常にスマートで、新しいアイデアや情報に耳を傾ける柔軟性があった」と述懐。その上で、リンチ氏から学んだ最大の教訓について次のように語った。

「彼は知識の習得に貪欲で、それまでの考えと矛盾する情報を得ると、考えを改めることをいとわなかった。自分の失敗を素直に認めることができた。その姿勢を学んだことが最大の教訓だろう。これは簡単なことではない。多くの人は自分の下した判断が正しいと思いたがり、それを裏付ける情報だけを見ようとするからだ」

己を理解し自分に合った投資法を選ぶ

今回のインタビューでは引退を決意した心境について聞いた後、株式投資が人生に何をもたらしてくれたのかを聞いた。ティリングハスト氏は言葉を選びながら、「学ぶことの喜びだ。株式投資を通して、常に新しいことを学び、自分自身についても新たな発見があった」と答えた。

インタビューでは自分自身を理解する重要性を再三にわたって強調した。その中で強く印象に残ったのが、次の指摘だ。

「株式投資では自分が事業内容を理解できない会社の株に投資してはならない。それにはまず自分が理解しているかどうかを知ることが必要だ」

「己を知り、自分が辛抱強い人間でないと分かれば、バリュー(割安)株投資はしない方がいい。株価の上昇に勢いがある銘柄を売買するモメンタム投資の方が良好なリターンを上げられる可能性が高まるだろう。実際、私は短期トレードで良好な運用成績を上げている人を多く目にしてきた。私自身はそれが得意ではないだけだ」

人はそれぞれ性格や嗜好が異なる。スポーツや勉強などでもその人に合ったスタイルでないとうまくいかないのと同様に、株式投資でも自分の気質に合ったスタイルを採用しなければ成果を上げることができない。この当然と言えば当然の真理に改めて気付かされた。

この卓越したファンドマネジャーは、引退したら人生をどう過ごしたいと考えているのだろうか。「趣味の園芸や読書を楽しみたい。また家族や友人と一緒に過ごしたい。新型コロナウイルス禍が収束したら、米国内外を旅したい。日本もぜひ再訪したいと思っている」とティリングハスト氏。

「ファンドマネジャーを引退した後も、個人投資家として株式投資を続けるか」と水を向けると、次のように結んだ。

「もちろんだ。(ファンド運用の後継者である)サムとモーガンが引き継いだファンドを保有するし、個別企業の株にも投資する。ファンドと同じ投資法を実践するが、銘柄の数はかなり少なくなるだろう。経営陣が優秀で、顧客に対して独自の価値を提供し、成長性にあふれ、頑強なバランスシートを持つ会社の株で、割安な銘柄に投資し続ける」

(中野目純一)

看板ファンドの運用後継者たちに聞く

「忍耐強く投資に臨み、地球規模で網を掛け続ける」


ティリングハスト氏からFLPSXなど複数の投資信託の運用を引き継ぐ後継者たちはどう運用していこうとしているのか。既に共同運用者として活躍しているモーガン・ペック氏とサム・シャモビッツ氏に方針などを聞いた。

――ティリングハスト氏に後を託されたファンドをどのように運用していく方針ですか?

ペック氏 サムと私は彼の役割を引き継ぐことに恐縮すると同時に、とても名誉なことだと受け止めている。今後23年末までの2年間の引き継ぎに当たっては、ジョエルが過去30年にわたって実践してきた強固な運用哲学を維持することに最も重点を置く考えだ。

哲学の中心には、高いクオリティー(質)を持つ企業の株で、割安な価格の銘柄に投資することがある。そうすることで、ファンドを保有する人たちはジョエルが運用している時と同じ信頼感を持つことができるはずだ。

シャモビッツ氏 我々は辛抱強く投資に臨み、網を広く掛け続ける。国境や業種、時価総額の垣根を越えて、有望な株を探していく。グローバルに広がるフィデリティの経営資源を利用して、過小評価されているビジネスモデルや将来の宝石を発掘する。

――足元ではどんな業種に妙味があるとみているのでしょう。

ペック氏 我々はチームとして地球規模で広く網を掛け、リスクに見合ったリターンが見込める銘柄を探している。それは個々の企業を分析するボトムアップのアプローチで、マクロ経済の動向や特定の業種で絞り込むトップダウンのアプローチは採用していない。

あくまでボトムアップアプローチによる探索の結果、米国株では消費者向けやシクリカル(景気敏感)に分類される業種で多くの有望な小型株を見つけている。コロナ禍の下、ビジネスモデルの構造的な改革を実践している企業の株が多いからだ。

これらの企業は2年前に比べてビジネスのクオリティーが高まり、強さを増している。だが、株式市場は新型コロナウイルスの感染再拡大や供給制約の問題、インフレなどを強く懸念して、それらの企業を依然として正しく評価していない。そのため、株価が割安なままになっている。

シャモビッツ氏 我々はまた、サプライチェーンの崩壊で打撃を受けている分野でも、投資の対象を見つけ出そうとしている。特に欧州では、コロナ禍による打撃から立ち直っていない観光関連で有望株を探している。

――忍耐についてはどう考えていますか?

ペック氏 忍耐には2つの異なるステージがある。まず投資のスタート時点だ。企業が過小評価されて割安になるまで忍耐強く待つことが求められる。次に、保有時にも忍耐が必要とされる。銘柄についての仮説が実証され、株価のピークに達するまでに何年もかかることが多いからだ。必要とされる忍耐は並大抵のものではない。

ジョエルは両方のステージで実に辛抱強い投資家だ。彼から2つのステージで忍耐強く待つ重要性を学んだ。それが彼から授かった貴重な教訓だ。ファンドの運用を完全に引き継いだ後も実践し続けていく。
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