米国債、利回りは3〜4% 流動性の高さも魅力
利上げで妙味拡大 債券投資入門(4)

証券会社などで買える既発債の償還まで持った場合の最終利回りを見ると、複利ベースで3〜4%程度の魅力的な商品が多く見つかる。例として、ある証券会社で3月中旬時点に販売していた2029年11月償還の米利付債を見ていこう。利率(税引き前)、つまり額面に対する利子の割合は、1.75%。しかしながら、額面に対して約91%の価格で販売されており、償還まで持った場合の最終利回り(同)は複利ベースで3.233%だ。
ファイナンシャルプランナー(FP)の前川貢さんによると、「残存年数が10年より短い債券の利回りが3%超えというのは、近年ではまれだった」。「償還までの期限が短い債券でも高い利回りが狙えるチャンスが到来した」と付け加え、3%以上の利回りが狙える米国債のラインアップが豊富になっていることに注目する。

このように、米国債は日本国債よりも高い利回りを狙うことができる点が魅力だ。流動性も高いので、国内の証券会社で取りそろえている商品の数が多い点でも優れている。「基軸通貨であるドルで資産を持ちたい」という人にとっても、その手段として有力な選択肢となるだろう。
為替リスクの捉え方
一方で、為替リスクも無視できない。日米の金利差が拡大している中で円安が進み、円を持つ日本人投資家にとっては米国債の価格は割高な状態だ。今後、円高に振れれば、為替差損が生じて利益が相殺されてしまう恐れがある。どのように考えればいいのか。
前川さんとFPの深野康彦さんは「償還期限が来ても、すぐに円転する必要はない」と口をそろえる。「より円安のタイミングを狙って、円に替えればいい」と深野さん。償還時に米金利が下がっていれば、米国株の投資妙味が高まっているかもしれない。戻ってきた元本はドルのままにして米国株に投資するのも一案だ。
前川さんは「利回りから、ある程度は為替リスクを想定できる」と話す。例えば、複利で年3.8%、残存期間10年の米国債を1ドル=135円で購入した場合。償還まで持った際に得られる金額は投資元本の約1.45倍であることから、償還時の為替はおおよそ1ドル=92円まで円高にならなければ、元本割れしないと想定できる。損失が出る水準にまで円高にならないと予想するのなら、米国債投資は選択肢となり得る。

初心者は償還まで保有を
為替リスクがあるために、償還後すぐ資産を円に替えることが適切とは限らない。ということはつまり、米国債投資で得られた利益は、円として手元に戻す時期を想定することが難しい。そのため深野さんは「米国債投資は長期投資になると想定して、余裕資金で投資するのがいい」と助言する。
今後、米国で利下げがあれば債券価格が上昇する。その場合は償還前に売却することも選択肢となる。ただし、深野さんは「適切な投資タイミングを計ることが難しい」と話し、債券投資の初心者は基本的には償還まで持つことを勧める。焦らずとも償還まで持てば、着実に利益を得られる。
「残存年数は10年以内のものだと投資計画が立てやすい。残存年数の短いものでも3%以上の高い利回りが得られる現状は、そうした意味でもメリットが大きい」(深野さん)
割引債と利付債はどちらを選ぶべきか
利子がない代わりに、額面より低い価格で購入できる割引債。前川さんと深野さんは「利付債との大きな違いはない」と話す。
一般には「割引債の方が複利効果を得やすい」ともいわれるが、償還日が同じ商品でも、割引債の方が利回りが若干低いケースもある(下表)。得られる利益の計算がしやすく、利子を途中で無駄遣いしてしまう心配がない点では割引債の方が初心者向きかもしれない。

(大松佳代)
[日経マネー2023年5月号の記事を再構成]
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